白銀の少年の嘆く避難の願いを
「長かった……実に長かった」
ブツブツと呟きながら真っ黒なコートを頭から被り、南部軍司令棟の廊下を歩く。エディスは正直クタクタだった。
毎日朝から晩まで行われるオッサン共のボーイズトーク。話を合わせることはしたくない、かといって南の奴のように寝てしまうこともできない。よほど顔が気になるのか、寝ているとフードをとろうとしてくるのだ。唯一の救いは一日前にやっと到着した東の大佐と――西のトリエランディア大将だ。入ってきたトリエランディア大将に先に挨拶されてしまった奴らの顔を見て、少しスッともした。
「それじゃあ、僕はこの人たちと一緒に向こう側に行くね」
今も変態共の背中に手をやって、右側の席に移動してくれる。
左側の、一番左端に座り、資料を手にとる。そして、ペラペラと紙をめくり、ページが抜けていないか確認する。楽しみだ。
「楽しみだな」
「え?」
少し笑顔になった時、頭に手を置かれた。横を見ると、南のガテン系中佐が笑っていた。
「は、はい。そのー……すみません」
審査にのために来ているのに、ニコニコしててどうする。心の中でツッコミながらそう言うと、東部の大佐も顔をこっちに向け、
「いいんですよ、楽しんで」
と言う。
「はい」
子どもだ。完っ全に俺、子どもだ。恥ずかしい。
それからしばらくして経ってから、音楽が鳴りだし、品評会が始まった。
変だ。何かがおかしい。
「続きましては、リキッド・カスターとリスティー・フレイアムの――」
エディスは何かチクチクとした違和感を感じていた。隣の軍人も、出入口の警備員も、誰も気づいていない。唯一気付いているのは、自分と同じように目を微かに動かしているトリエランディア大将くらいだろう。 これは何だ、ともう一度エディスが心の中で反芻しようとした時、それは魔力を浮き彫りにさせた。
「リスティー・フレイアム、自分の自分の右横を撃てッ!」
エディスがそう叫ぶと、リスティーはすぐさま指示された方向に魔弾を放った。そして、ホールの真ん中でおろおろと周りを見渡すだけのリキッドに駆け寄り、自分たちを囲んでいる透明の姿をしている魔物を撃ち殺す。
リスティーの背中を狙おうとする熊のような魔物に向かって、エディスは腰から抜いた剣を投げ、テーブルを飛び越えた。
「参加者、こっちに集まれ!」
エディスに頭を下げてから銃を構えて周りを警戒するリスティーと違い、ひたすら怯えるだけのリキッドの背を軽く叩いて立ち上がらせる。
「魔物が数十体入り込んでいるようです。行きましょう」
「ええっ、わ、我々がですかあ!?」
トリエランディア大将が両脇の中将、少将の腕を掴んで立ち上がる。オッサン共はぽっかーんと間抜け面。
「久しぶりの実戦もいいものですよ。さあ、お立ちになって下さい」
上の階級の者から促された二人はおずおずと立ち上がった。
「私達は、私はアカデミーの生徒たちを非難させましょう」
「そうするか」
と東部と南部の物が立ち上がり、二階の観客席の方に向かっていく。
「よし、行くぞ」
と参加者達に声を掛けると、緊張した顔で五人の参加者達が頷いた。
【呼ぶは氷
天を嘆かす玉の日よ
花となり 散れ!
天光の花!】
呪文を唱えると、エディスの前がパキパキと氷で固まっていった。
【呼ぶは炎
地を怒らす玉の日よ
花となり 散れ!
地光の花!】
足の踵を地に打ち付けながら呪文を唱えると、今度は列の後ろ側が炎で包まれる。
「俺から離れるなよ」
とだけ言い、エディスは歩いていく。
「軍人さん」
その背に、リスティーが声をかけた。
「どうした?」
「先程はありがとうございました」
とエディスの隣に来て、にっこり笑う。
「いや、別に」
「……さっきので剣を破損されましたよね」
じゃら、と肩に担いでいた細い筒を手に取り、上の方に付いているジッパーを開ける。そして、中から金と銀の装飾がついた双剣を取り出し、
「あたしの作った剣、使って下さい」
エディスの方に差し出した。
「リスティー、それは駄目でしょ! その剣、誰も扱うことができなかったじゃないか!」
「大丈夫よ。この人なら絶対に使えるから」
だけど! とリキッドが続けようとする前に、エディスはリスティーの方を向く。
「貸してもらえるか?」
リスティーは力いっぱい頷き、はい! と言う。すると、周りまでお前あれだけ失敗してるくせにまだやるつもりか! と言いだした。が、エディスは剣を手に取り、一本を腰に差し、もう一本の鞘を抜いた。
「じゃあ、悪いけど借りるぞ」
それに参加者はザッと顔を青ざめさせた。
「あっ、危ないですよ!」
「どんなマッチョでも」
スパン、と狼型の魔物が真っ二つに分断された。
「……マッチョが?」
平然とした顔で振り返ったエディスに、参加者は唖然とした顔をする。
「あたしが間違えた判断するはずないでしょ」
フフン、と誇らしげな顔をするリスティーにを見て、エディスは気づかれないように小さく噴き出した。
「そうだな。お前が作った剣なんだからな」
そう言って、リスティーの頭を少しだけ撫でる。
「はいっ!」
それに、リスティーはさらに嬉しそうに嬉しそうに微笑んだ。
「よし、行くぞ。ついてこい」
「はーいっ」
とリスティーは手を上げてエディスの後ろをついていった。




