黄金と白銀の身を持つもの
「何が楽しいんだよ……オッサン共がこの子が可愛い、いやこっちが好みとかキャッキャッウフフッしてるだけじゃねーか、気持ち悪ィ」
資料の入った鞄を抱え、宿泊所として宛がわれたホテルまでブツブツと文句を言いながら歩いていた。
「実際に品評会が開かれるまでは地獄だな、こりゃ」
フードを被っていた自分が入ってきた時の視線の多さ。顔ばかりを気にして作品について全く語ろうとしない奴ら。
「今来てるのは確か中央と北の奴だったな……。真面目で堅苦しい東やトリエランディア大将のいる西にあんな奴らがいるとは考え辛い」
つまり、腐っているのはこの二つということか。
「南の奴は南の奴で、最初から最後まで寝てたな」
南は腐ってはいないが、どう見ても軍が生きていける場所ではない。軍の上から下まで、全て反軍の手が入ってきていて、軍自体が反軍に犯されてしまっている。それは、誰が見ようと明らかなもので、隠そうともしていなかった。
どうやったらこの状況で自分が動けるのか。果たして自分は今回の任務をこなすことができるのだろうか。そう悩み始めたエディスの耳に高い悲鳴のようなものが入ってきた。
「ちょっと、危ないじゃない!」
曲がり角の先で、少女の声が聞こえる。
「夜の十二時に住宅街で何してんだよ……」
エディスはフードをすっぽりと被り、顔を見えないようにしてから走り寄っていった。
「どーせまたアイツの差し金でしょ。悪いけど今年はもう作品提出しちゃったから、今年は奪えないわよ」
ツンと顎を上向きにして腰に手をやった少女が奥に立っていた。肩より少し長い茶髪に大きなオレンジ色の目。目鼻立ちのはっきりとした美少女だ。
「リスティー・フレイアム、か?」
生徒の顔写真とプロフィールの載った書類。その中でも一際よく目立ち、顔だけの審査の中でもよく話題に出てきていた。
「だが、本人が授賞式に出られなければ意味がないだろう!」
「はあ? アンタ、バッカじゃないの?」
ズボンのポケットからナイフを取り出して構えるのを見、リスティーは息を短く吐き出した。
「勝負するなら正々堂々とやったらどうなのよ」
髪を後ろに振り払った後、勝気な微笑を浮かべる。
【雷の嘆きをきけ
雨の怒りをきけ
雷の嘆きを 雨の怒りを
その身に受けろ】
ばっと手を前に突出し、照準を目の前の男たちに絞る。
【竜王の涙!】
音もなく雷と水が上から滝のように落ちてきた。男たちはそれで気絶したのか、地面に倒れ伏した。
「……せ、」
それを見ていたエディスはずるりとしゃがみ込む。
「せっこい魔法使うなあ……」
自分の方にふよふよと飛んできた雷を指で突くが、痛くもかゆくもない。ただの幻覚だ。魔法に詳しいか、精神が強いかのどちらかであれば、気絶することはなかっただろう。
男たちが気絶している間に逃げようとしていたリスティーの上に影が落ちる。危ない! と思い、腰に手を伸ばしたが手はすかっとかすっただけだった。
「そういや俺、今日は軍服じゃないんだった」
この後の進行上、軍服で歩き回るのは得策じゃない。そう思って、エディスは私服で、武器を持たずに歩いていた。
「きゃっ!」
三階建ての木造住宅の屋上から飛び降りてきた、けむぐじゃらの男。持っていた大きな肉切り包丁でリスティーに切りかかった。すんでのところで避けたリスティーはしなやかな足を伸ばして、男の脳天にかかと蹴りをした。だが、奇声を放つ男が腕を振り回したことにより、吹き飛んだ。
リスティーの手から離れた、細長い袋がエディスの傍に落ちてきた。痛みに呻くリスティーを見、エディスは足を強く踏み下ろす。
【護り神 此処に!】
リスティーの傍に魔法でシールドを作っておき、傍に落ちた袋を手に取り上げる。すると、それはエディスの手の中で暴れ始めた。その力に抗えず、エディスは手を離してしまった。すると、袋から二本の剣が姿を現し、エディスの手の中に納まった。エディスは剣を握りしめたが、何かがこの中で眠っているような感覚に陥り、見つめた。だが、剣が独りでに動き出したことにより、無理矢理走らされてしまう。
「お、おいおい……ちょっとは待てよ!」
シールドをガリガリと引っ掻いている魔物に一文字に突っ込んでいくのに、顔を引きつらせる。エディスは一本を無理矢理パンツとベルトの間に差し、もう一本の鞘を引き抜いた。グングンと自分を引っ張っていく剣に、エディスは歯を食いしばった。
「なっんだ、よっ、こりゃあ!」
叫ぶのと同時に、剣が魔物の首を刎ね飛ばした。




