白銀の少年の嘆く指揮の約束を
いつまでも慣れないタイプ、何度も経験すると慣れてしまうタイプ、楽しんでしまうタイプ。人の死を何度も経験すると、約その三つに分けられてしまう。そんな適当なことを言う軍人がいた。自分は慣れるタイプだな、とエディスは軍服のポケットに手をつっこみながら頭の奥で呟いた。
目から見えるのは黒い人の群れだ。同じ軍に所属する仲間と、表面的でも言わなければいけない者たち。それが宙に浮いている。
狼や猿に似ている魔物が田んぼや畑に出る。城から西に車で二時間のところにある町からの出動要請がきた。そこで、エディスの上司であるミシア大佐に命令が下った。しかし、ミシア大佐はとても面倒くさがりで、その任務を全てエディスに譲った。しくじれば全責任がエディスにいくようにしておいて。今、どんなものであろうともミスを犯す訳にはいかないエディスは、この戦いもまた、負けて魔物に背を向けて軍に帰るというはできなかった。大佐がおらず、あんな子どもだけに任せたから――などと一度でも言われないために。
あの人の下についてから、こうして背中を見ることが多くなった。参謀が不在のせいで軍師准尉のエディスが作戦を切り盛りすることばかりで。それが三回目ともなってくると、最初は誰がこんな奴の命令をきくかと突っぱねていた軍人たちもブツブツと口の中で言うだけになってきた。前線に出て、少しでも戦歴を上げなければ。そう焦る時間も作らせてはくれない。けれど、いつかこの作戦を立てたのは自分だということを上の人が知ってくれるまで、ジリジリと焦がれそうなこの想いを胸に焼き付けながらエディスは耐えていた。
「けど、そろそろ手を出すか」
このままでは魔物のパワーに押し切られてしまう、とこの地に住む農民の手によって開拓され、広い視界いっぱいに映る景色に目を細めた。
腰に巻いたベルトに取り付けたラッパのような形をした拡声器を手に取り、息を大きく吸う。
「二分後に全体魔法を発動させる。なるべく魔物を引き離して後退してきてくれ」
機械を通してそう伝えると、一斉に引き返してくる。エディスはそれを、自分だけ別の場所に立っているような感覚に陥りながらも見つめた。
「いいぞ、やれ」
その肩を叩く者がいて、顔を上げる。自分の立てた作戦中にボーっとしてんじゃねえよ、と白い歯を見せてシュウが走り抜けて行った。
「頑張るッスよ、エディス!」
「……ああ」
グッと拳を握るジェネアスにニッと笑われ、頷く。それだけで、胸に別の炎が灯ったように、嬉しいと思ってしまえた。エディスはシュウに叩かれた肩を埃でも払うかのように何度か手で叩いてから手を上げる。
【聖天のラグリドリス
曇天のドゥーラグオウス
涙天のシューラアッガーシャン
雷天のイシュトギルス
今この紋章を描きし者にその力を渡し、その力を振るえ!
我 紋章術師エディス・ディスパニ・エンパイアの名の元に
暴走せよ 荒れ狂え 天の魔人達よ!】




