白銀の少年の嘆く守りの約束を
このまま、死んでしまうと思っていた時があった。それは、冬の寒い寒い日から始まった。僕は40度を越える熱を出して寝ていた。
「ドゥー。ドゥー」
僕は、家族だった。でも、それ以上に奴隷だった。奴隷は薬を与えられず、一人で死んでいく運命だった。ううん、他の奴隷に見守られて、死んでいくはずだった。
僕は他の人達と違って、皆から嫌われていたから、このまま一人で死んでいくのだろう。
寂しいだなんて思わない。いらない子として生きるくらいなら。でも苦しい。
「エディ……さん」
遠くに行ってしまった人。僕を置いて何処かに帰ってしまった人。
「だめ、もう、いない!」
なにかから逃げるように体を動かす。人間のものとしては狭く、堅いベッド。奴隷のものとしては大きく、柔らかいベッド。
がくりと体が落ちたかと思うと、冷たく痛い床に体を打ちつけた。
「あ……う、うぅっ」
ふいに苦しくなり、唇を薄く開く。胸からきゅ、と何かが上ってくる。がぼりと唇からそれが出た。
「ドゥー……ドゥー、苦しい、よ」
ぼんやりと周りが赤く染まってくる。これは、なに。
「エディスさん」
その先に彼女の姿を見た気がして。手を伸ばしてみたけれど・・何も掴んでもらえなかった。
「死にたいよ…っ!」
手が、こつんと死に触れた。
額が冷たい。死神の手なのかな?地獄に行くんだろうな。僕は悪い子だから、天国には絶対行けないよ。
「……血」
起きたら、血に似た色が隣にあった。
「エディー、起きた?」
「ドゥー」
ほっそりとした、折れそうに細い腕を取られる。手を握って、弱弱しくドゥルースが微笑む。
優しい、ドゥルース。いつもより態度が、さらに優しかった。
「ここ……?」
「俺の部屋」
だから、ゆっくり寝て。と頭を撫でられる。ふかふかとした、柔らかいベッドは、体に優しく心に痛かった。
僕は奴隷だから、医者に診せない。そんなお金はかけない。
「ドゥー」
「なあに?」
「エ、ディ……って」
服の裾を手が握る。
「エディって」
「エディー?」
ドゥルースの目がぽけっとなる。
「ううん、なんでもないの」
エディによく似た名前で呼ばれるのは、余計に辛かった。
「エディス」
ぎゅっと抱きしめられる。
「ドゥー、なに?」
目を見て、首を傾げて訊いた。すると一瞬悲しそうにして、それから笑って。
「エディスは、俺が守るから」
「うん……うんっ!」
大好き。大好き。大好き。
だけど、怖い。苦しい。辛い。寂しい。
「うん。分かった」
ぎゅっと抱き付き返す。ドゥルースのオレンジ色の髪が日に照らされて輝いた。
血だと思ったものは、優しい夕日の色だった。