白銀の少年の嘆く能力の約束を
「さっきのって、なんだよ」
「あの黒い塊だ。バクバクヴァンパイア食ったやつ!」
「シュウ、アレは食ってたわけじゃない」
じゃあなんだよ、とシュウが詰め寄ると、シルベリアは頭を振った。
「溶かしていたんだ」
「溶かすぅ?」
「ああ。よく調べなくても分かる、あれは能力だ。お前、何か口から出なかったか、言葉が」
興味があるのか、シルベリアが目を輝かせて自分を見てきた。そういえば生態研究を専門にしていると言っていたか。エディスは仕方がないのでしばらく前の時間に起きたことを思い出そうとするが、その前にぽっと言葉が頭の中に浮かんできた。
「愛を嘆く者、起動します」
「ふむ」
シルベリアが立ち上がると、エディスの左斜め後ろにある中背の本棚に手を伸ばし、B5のファイルを取り出した。そしてベラベラとページをめくると、目的のページで手を止め、笑顔で二人の方を振り向いた。
「ヴァンパイア系の能力の一つとして記録が残っているな。硫酸の塊を出し、それで目的を溶かして滅す高レベルの能力だ。前大将の持っていたシールド系能力の<愛を欲する者>のように、大抵ヴァンパイア系の能力者の起動音には最初に愛がつくから、覚えておけ」
「覚えてなんになるんだ」
「俺が、能力者? 俺は人間じゃあないんだぞ?」
バラバラとシルベリアがページをめくり、赤色のルーズリーフのページで手を止めた。
「前例はある。魔物で能力者だった者はいた」
「そんな奴がいたのか……」
「ああ。愛を嘆く者がそうだった」
エディスは頭を上げ、シルベリアの顔を見た。シルベリアはエディスと目が合うと眉を下げ、口を開いた。
「詳しい情報は削除されていたため詳しくは知らんが、愛を嘆く者は軍のために尽くし、そして戦死したと言われている。だが、その功績も勲章も全て他の士官のものに変えられている」
結局は人間ではないと、化け物だからと、そういう態度を取る。此処の人間は魔物を殺すためにいるとは分かってはいるものの、もう少し態度をどうにかできないのか。眉を顰めるエディスの顔を見、
「悪気はないから言うが、学者として俺はお前の身体を調べてみたいという誘惑に負けそうでは、ある」
そう言った。 「おい、シルベリア」
べチッと物が引っ付くような音をさせてシュウがシルベリアの頭を叩く。シルベリアは叩かれた頭を上げ、鬱陶しげに垂れた前髪をかき上げると、
「人の話はちゃんと最後まで聞け。お前はせっかちすぎる」
ため息を吐いた。
「負けそうだと言っただけだろうが。本気でする気はない」
「だったら、どうするつもりなんだ。軍は能力者を集めているんだぞ」
「黙っていればいい。多分バレないだろう。他に能力者がいる軍内部で発生したから、俺達の他には誰も気付いていないはずだ」
「そんなに簡単にいくか?」
顎に手を当て、斜めの方向を見、悩むシュウの情けなさにシルベリアはエディスを顎で指す。
「それとも、実験材料にするつもりか。王族の献上品を」
それにシュウはエディスを見てから顔を渋くさせた。
「そういうわけじゃねえよ」
「第一、お前にも被害がくることになるぞ。もう一度騒がれたいか?」
ん? とシュウとエディスが顔を不思議だと曇らせる。なにを言っているんだコイツは、とでも言いたげな目をしている。
「どういうことだ」
とシュウが訊くと、シルベリアは呆れた、という顔をする。
「お前ら分かってないのか」
「なにをだ?」
シルベリアはフン、と二人を小馬鹿にしたような顔をし、
「お前と」
シュウを先に指差し、
「お前は」
後にエディスを指差した。
「パートナーだろうが」




