白銀の少年の嘆く解読の約束を
「……え?」
「それだけか?」
話し終わり、手を叩いて二人を現実に呼び戻したシュウが頷いた。
「これだけだ」
エディスもシルベリアもふーっと息を吐いた。
「全くなにか分からなかった」
「シュウ、一体これはなにを表しているんだ」
「俺も知らねえよ。親父が覚えておけって言われたから知ってるだけなんだよ」
シルベリアがぷっと吹き出す。
「相変わらずなんだな、シュトーさんは」
「楽しく笑いながら仕事してるよ。ありゃあ後百年は生きそうだ」
三人は顔を見合わせた後、ぼつりぼつり一人で呟き始めた。
「なんでこんなに擬音語が多いんだ?」
「お姫様は分かるが、魔物とはなんだ?」
「グロいんだけど。姫は何かを殺して、殺された?」
あっ、とシュウとエディスが声を上げた。
「姫は神を殺したのか!」
声が重なったことにエディスとシュウがぎょっとしてお互いの顔を見て、目をそらした。
「ごとりごとりは神を殺しに近づいていく音」
「赤のドレスは返り血をすったドレス」
「カラカラ引きずっているのは剣だ」
「なら、この姫は神を殺した後、自殺したんだろうな」
シルベリアがエディスを目の端で伺って言う。
「姫の武器は剣なんだろう?」
「ああ、多分な」
「だとすると、一番最初にすらりすらりと振り回して人間の元にあったのは剣で」
「ガシャンと波打ったのは……氷の、湖だ」
エディスは青い顔をしている。強く握りしめた手は爪が食い込み、血が滲んでいた。
「エディスさんは北の湖に飛び込み自殺をした」
「理由は」
握り締めた手はそのままに、立てた膝の間に顔を埋める。こもった声でエディスは返す。
「……魔物と、引き離された、から」
「ほうせきを落とした魔物、ぼろぼろとなりながら歩いてハートを探す魔物、か?」
「多分、そうだ」
顔を上げずに言葉で頷いた。
「ほうせきと、ハートってのがよく分からないな。姫に関係するのか?」
「その、ハートってなんだってんだよ。聞いたこともない言葉だっての」
シュウがそういうと、シルベリアは首を傾げる。さあ? と口を開こうとした時、
「ハートは英語で心臓のことや、心であったり、愛情のことだ」
やっとエディスが顔を上げた。
「えいご?」
「ああ、だとしたら分かる。やはり魔物は姫の愛を探していたのか」
「なあ、えい」
もう一度シュウがエディスの発した妙な言葉について訊こうとしたが、シルベリアの後にしろ! という言葉にかき消された。
「一度、俺はエディスさんを乞うて泣いている魔物と会ったことがある」
「お前の言ってるエディスさん、とやらがこの姫だったのか?」
「んなの知らねえよ。俺、そんな変な話の作者じゃねえし」
誰もがため息をつきたい気分だった。このエディスと無理に名乗る少年の存在が意味不明すぎたのだった。
「でも、俺が生きてきたうちで聞いたエディスさんのことと似てる」
また顔を隠したい気分になってきたが、エディスはそれを我慢して笑う。
「続き、いいか?」
シュウとシルベリアは顔を見合わせ、
「なかなか、面倒臭い奴をつれてきたようだぞ、シュウ」
「二人で泣こうか? シルベリア」
と言うのにエディスは少し困った顔をする。
「泣くのは全部話し終わった後にしてくれよ……」




