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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の嘆く愛の願い

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30/210

白銀の少年の嘆く入浴の約束を

「寒ーっ!」

「早く開けろ、早く!」

 ガチンガチンと鍵を鍵穴にはめるのに、長髪の青年は戸惑った。

「まったく、うるさい奴だ」

 やっと鍵を開け、中にどかどかと入る。明かりを付けた部屋の中に招かれ、エディスは一歩踏み入った。

「すっご」

 ぽかんと部屋を見渡すエディスに二人は苦笑した。

「悪いなー、俺ら昨日まで修羅場でよ」

「修羅場?」

「ああ。会議に提出する論文と、作品をそれぞれやってて」

 右半分は紙、左半分は金属。それなりに広い部屋だというのに、よくもここまでと思うくらいにみっちり埋まってしまっている。

「二人は」

「あー、とにかく! 質問も難しい話も後。お前は先に風呂に入って来い!」

 青年に背を押され、脱衣所まで行かされる。

「シルベリア、入浴剤どれにするー?」

「薔薇。服はどうする」

「却下だ! お前のシャツとズボンを貸してやってくれ。下着は、確か一番下に新しいのがあるから、それを出してくれ」

 なにがいい、とどピンクの袋以外を見せられる。適当に一番端にあった黄色の袋を指差すと、それの封を切り、湯船に入れに行った。

「ほら、服と下着だ」

 真っ白のシャツとズボン、それの下に下着を重ねて、長髪の青年から手渡される。

「ってシルベリア、なんだその格好は!」

「ん? 俺も一緒に入ろうかと」

 着ていたブルーシャツをすでに脱いだ長髪の青年は、エディスの軍服の紐を取り、ベルトを外した。

「なんだ? お前も一緒に入りたいのか?」

「入るか!!」

 シャツを脱ぐエディスの隣を、どかどかと通り過ぎて行った。

「早く来い。余計に体を冷やすぞ」

 すでに真っ裸になり、バスルームに入っている長髪の青年に手招きされる。エディスは急いでズボンと下着を脱ぎ、バスルームに入った。ぶわっと湯気が直接体を温める。

「あったかい」

 と言うと、長髪の青年はくすりと笑った。

「髪を洗ってやるから、ここに座れ」

 こくりと頷き、青年の前に置いてあるイスに座る。すでに温度調節がしてあったのか、シャアッと音をたてて丁度いい温度の湯がエディスの肌を打った。水に濡らし、汚れを少し落とした髪にシャンプーをつける。

「あ……いい匂い」

 髪は泡でくるむようにし、軽く指先に力を入れてこすり、頭皮の汚れを落とす。

「そうか?」

「うん、なんか……そう、爽やか、だ」

 ハイデの家ではいつも、むっとするような、作った香りだった。

「アイツが華美な匂いを嫌うからな。森や塩系統の物を買うようにしている」

 お湯を出し、軽く泡を流す。優しく、労わるような手つきで、髪の根元以外にリンスをつけられる。

「なんか、不思議だ」

「何がだ?」

「気持ち良い」

 風呂に入る時には、数人がかりで体を洗われた。その洗い方は丁寧すぎる程に丁寧で。まるで体を汚物として扱われているようだった。

「当たり前だ。お前が気持ち良く思うようにしているからな」

 長髪の青年はふふ、と微笑んだ。そう、こんな風に、

「風呂は汚れを落とすために入るんじゃない。綺麗になるために入るんだ」

 人間として扱われることがなかった。

「うん」

 スポンジを渡され、すでに洗ってくれた背中以外を洗う。その際にも優しく擦れ、という注意を受けたが。

「よし、完了。湯につかれ」

 リンスを流し、体から泡をどけると終わり。湯に向かった。

「湯、黄色い」

 白いバスタブの中に入った湯の色を見て、エディスがほうと息をもらした。

「ああ、多分黄色なら柚子だろう」

「ゆず?」

「ミカンに似た果物だ。焼き魚にかけたら美味しいやつ」

 体を洗う長髪の青年から言われ、エディスは頷いた。そして、湯船に入る。じん、と体が芯から温まっていく。かなり冷えていた足と手の先はピリピリとしびれるような感触が走る。

 黄色い湯、白いバスタブ。白いタイルの壁、水色の天井。天井についた水滴。じっと見ていると、水が勢いよく出る音が左耳に入ってきた。見ると、白色のシャワーから水が出、長髪の青年にかかっている。

「よし、少し前につめろ」

 長い髪を手でまとめ、エディスの後ろにすべりこんでくる。

「あたたまったか?」

「う、うん」

 背後からゆるく抱きしめられたのに少しドキリとしたが、嫌な感じは全くしなかった。

「百数えてからあがれ」

「百ぅ!?」

「百だ」

 驚いて後ろを見たが、頷かれるだけ。エディスは仕方なく、一から数え始めた。

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