白銀の少年の嘆く能力の約束を
エディスは、余計にヤバイ!! とさらに心臓を掴まれた気分になった。地面にぶつからないためにと翼を出現させたばかりだからだ。
口をぽっかり開いて、見つめていた青年が、ふいに目をキツく尖らせる。エディスを背後から追うヴァンパイアを視界に入れたからだ。その青年はぐっとしゃがみこむ。そして一息吐くと、横の壁を足で強く蹴った。
「どうした!!」
寮の中から、もう一人、長髪の青年が飛び出してきた。ヴァンパイアを視認すると、両手に天に翳す。
【天空の覇者
その右に立つ雷の名手よ
我にその力を貸したまえ!】
キンッと金に近い光を出し、手に弓矢を召還させた。
「わ!」
壁を蹴り、近づいてきた青年は、エディスを片手で抱え、近くの階のベランダに着地した。守るように抱えられ、エディスは青年を見た。
「け、獣の耳ぃ!?」
本来、耳がある場所には、ふわふわとした、触り心地のよさそうな獣の耳があった。猫のようにも見えるし、犬のようにも見えた。
「黙ってろ」
口を開こうとするエディスの口を手でふさいだ。
「で、つかまってろ」
青年がベランダの手すりに座っているので、体勢的にはかなり危ない。右膝の上にのせられ、右手で支えられているだけだ。なるべく邪魔にならないようにはしたが、青年の胸にエディスは抱きついた。
ギリリ、と地上の青年が雷の矢を番える。
【破雷弓!】
狙いを定め、矢を放つ。二人の目の前を通り過ぎ、ヴァンパイアのわき腹を掠める。ヴァンパイアが哄笑する。
【天をも貫く雷の弓
地上に降り注げ】
ビキッと雨雲が割れる。
「なんだ?」
エディスが上を見上げようとした時だった。轟音と共に、ヴァンパイアを背後から雷が刺し貫いた。それを見た青年はエディスを抱え、膝立ちになる。
腹を抉り取られたヴァンパイアが二人に向かって飛んできたからだ。鋭く光るものが目に入り、エディスはぼうっとそれを見る。光っていたのは、爪だった。猛獣の持つような、長く鋭い、殺傷能力の高いもの。
「ソレを私に、渡セッ!」
「やるかよ!」
青年がヴァンパイアの喉を鋭い爪で引き裂く。吹き出た血は、エディスに降りかかった。
「ああっ!」
その瞬間だった。エディスの右目に激痛が走ったのは。
「おい、どうした!」
痛みのあまりに、涙を零したエディスを見、青年は慌てた。エディスは頭をぶんぶんと振った。
「チッ!」
ベランダの手すりから下り、青年は地上に急降下していく。ふわっとエディスの背に白い翼が生える。くるっと回転をし、青年の胸に抱きつく。すると、斜めにだが、二人の体が浮いた。
「うわっ、ビビッた!」
耳元で青年が叫ぶが、無意識に行動をしているだけのエディスからは反応がない。おさえた手の間から見えるのは、全てを呪うような顔をし、エディスに向かって手をのばしながら落ちていく、ヴァンパイア。
「あ……あ……」
頭の中で響く、声。それは徐々に大きくなり、
【愛を嘆く者 起動します】
艶めいて、エディスの口から出た。
キンッとエディスの右目の視界が変わる。
「お前……?」
左目では視認出来る青年が、右目だと視認出来ない。ただ、見えるのはヴァンパイアのみ。
ぎゅ、と唇を噛む。青年がエディスの体を抱きしめたのを感じ、エディスは右手を離した。
【目標確認……完了】
左目を閉じ、右目だけで世界を視、離した右手で敵の確認を。
【削除する!】
右目の視線をヴァンパイアに合わせ、右目を強く瞬きさせた。
「ぐ、あ、あ」
ヴァンパイアの周りに、黒い物体が現れる。闇の中でも、黒の輪郭は分かりやすい。ムシャムシャとヴァンパイアの体を食べる物体の姿は、よく見えた。
「おい、アレはなんだ」
地上に下りた青年は、エディスに顔を向けた。
「俺にも、よく分からない」
「はあ!? マジかよ!」
ヴァンパイアがエディスにのばした手の指一本さえ残さず、綺麗に食べ尽くした。
「ああ、マジでわか……」
視界がぐらりと揺れ、エディスはそのまま地面に倒れた。
「って、おい! 大丈夫か!」
「コイツ、一体何なんだ…?」
うっすらとした意識の中、エディスは消えたヴァンパイアの声を頭の中で聞き続けていた。お前が欲しいという、悲鳴に似た欲望の声を。




