白銀の少年の嘆く吸血の約束を
暗い世界にぼんやりと浮かぶ月の金をした瞳。わずかに開かれた口から覗くのは、白い犬歯。周りに従えるのは、蝙蝠。背中には、黒い翼。
「こ、殺し……の、ヴァンパイア」
にい、とヴァンパイアの口の端が上に上がった。
ヴァンパイアには、三つの種類がある。一つ目の種類は、人の生き血を飲み、生気を吸い殺す“殺しのヴァンパイア”。蝙蝠を従えていたり、翼を有しているという者が多い。二つ目の種類は、人の生き血を飲む代わりに生命を与えることが可能な“癒しのヴァンパイア”。殺しのヴァンパイアは、まだ数多く残っているが、死者をも生き返らせると言われていた癒しのヴァンパイアは、早い頃に狩られ、今では滅多に発見されることがない。だが、それよりも少ないのが、三つ目の種類だ。これは、癒しのヴァンパイアによって生命を与えられた者のみが変化する。変化した者は、普段は人間の姿をしている。だが、まるで狼男のように満月を見るか、血を大量にかぶるか。そのどちらかをすると、ヴァンパイアに化してしまう。その姿は、両の目のどちらかが赤くなる。血のように美しい紅玉の色に。瞳だけではなく、殺しのヴァンパイアの有す翼に似たものも生える。だが、それは黒ではなく、白だ。その容姿の美しさから、半ヴァンパイアなどという無粋な呼び方ではなく、“血紅玉の天使”という愛称で、高値で取引をされる。すでに、癒しのヴァンパイアさえ絶命しかけている今では、ほぼ現存していないとされているが。
「逃げっ」
ドアノブをつかもうとするが、その腕を押さえられる。
「どうして逃げる必要が?」
ヴァンパイアはクスクスと笑い、エディスの髪の毛をすくい、口付けた。
「私には分かる。お前には私と同じ血が入っている」
クイ、と顎をとらえられる。
「少し欠けているが、充分だろう。よく見るがいい」
金の光を優しく地にそそぐ、
「あっ」
ほぼ満月に近い、月。
「やはり、血紅玉の天使、か」
一音一音、わざと聞かせるように、区切って発音した。顔を、目を隠したくとも、両手をつかまれてしまっている。エディスはそれでも、体をねじり、なんとか逃れようとした。
「うあっ」
右の眼球に湿った感触。
「美しい、目だ」
もう一度、舌で舐められる。
「乙女の血を、と思い出てきたが、これが手に入るのならばもういらないな」
今度は首を舐められ、ヒッと喉を引きつらせた。血紅玉の天使は、人間の魔物収集家や金持ちに大喜びされる代物だが、ヴァンパイアにとっても最上級の代物だ。その血は乙女よりも甘く、そして清らか。さらに生気に人にはない特殊な力が含まれているのだ。求めないはずがない。半分の存在である彼らは、人間からも、ヴァンパイアからも、狩られる存在だ。
【護り神 此処にッ!】
「痛っ」
はぁっとエディスは息を吐いた。その手はじっとりと水をふくんだ軍服の胸元を掴んでいる。自分の周りにシールドを張り、駆けだす。
「逃がすか」
舌打ちをし、ヴァンパイアがその背を追う。
「捕まって、たまるかよ!」
投げ出すように体を屋上から放り出す。
「空から逃げる? それこそ不可能だ」
ヴァンパイアの背に、黒い翼が生える。エディスはそれを見、唇を噛み締めた。
「風が、痛ぇ……っ!」
体重に任せ、下へと落下する。視界は悪いが、地上への距離を計るため、目を開いた。そこに映ったのは、呆けた顔をした青年だ。
「ぅ、え!?」




