表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の嘆く愛の願い
2/210

白銀の少年の嘆く家族の約束を

 それから、また半年が過ぎ、僕は六歳を越えていた。そして、僕はもう、諦めていた。

 真夏の――と言ってもこの国は一年中寒いのだけれど、それでも少し暑い日――僕はついに売りに出されることになった。

「六歳までに」

 まんまるお日様が笑ってる。お前は嘘を信じてたんだよって。

「お父様……エディスさん」

 エディスさんも、嘘だったのかな。僕が作った、嘘の人? ふいに泣きそうになったとき、僕だけに涙が降った。

「え?」

 急にずぶぬれになって、目をぱちくりとさせた。

「つめた……」

「おーい! 大丈夫ッスかー!?」

 たっと寄ってきたのは真っ黄色の長い髪をした男の子だった。顔を泥とで汚した、汚い格好。

「あー、随分濡れちまったッスね、お前さん。ま、夏だからすぐ乾くッスよ」

 ごしごしと顔をふかれる。つんっとした、汗の匂いがした。

「あ! もしかしてお前、今日の大目玉ッスか!?」

「う、うんっ。多分」

「うわーっ、さっすが! 僕らとは違うッスね!」

 にこにこと笑っている。

「僕も今日、出るんッスよ」

「そうなのっ!?」

「どうせ安くたたかれるッスよ」

 今度はけらけらと。とても楽しそうだ。

「でも僕、奴隷に納まるつもりないッスから」

「え?」

「絶対、偉くなってやるッス! 奴隷なんかで人生終わらせてやらないッスよ!」

 ぐっと少年が拳を天に向かって繰り出す。届かない、場所。

「僕はジェネアス! お前は?」

「エ、エディス……!」

 にかっと笑う。拳を突きだしてきた。それにちょっと拳をあわせる。

「じゃっ、また生きて会おうッス!」

「うんっ」

 その言葉が本当になると、その時の僕らは思ってもいなかったけれど。




「大丈夫?」

 ずぶぬれになった、水のしたたる髪に手を触れられた。

「寒いでしょ?」

 と言って、その人は着ていた上着をかけてくれた。

「あ、あのっ」

「なあに?」

 ふわりと微笑まれて、いたたまれなくなる。

「だ、駄目だよっ。これ……」

 上質の布で作られた上着を返そうとする。だけど、その人は首を振って受け取ってくれない。

「着ててよ。こっちが寒くなるから。見ててさ、辛いんだよね」

「あ……」

 ずぶぬれの体を抱きしめる。冷えた、感触。

「ねえ。君、今日売りに出される子?」

「え? う、うんっ」

 こくこくと頷く。

「だったら、俺と一緒に来ない?」

 手を差し出される。その手も、この上着みたいに温かいのだろうか?その手を、取りたい。でも、その手を取ったら、もう”エディス”さんとも、”お父様”とも会えなくなる。

「あの……ご」

「ねえ。俺寂しいんだ」

 その人が俺の前にしゃがむ。この人は綺麗な服が汚くなるのを気にしないんだろうか?

「俺とさ『家族』になってほしいな」

「かぞく?」

 なんだか、優しい言葉。

「そう、家族。父様、母様、俺もいるから兄様。それにお手伝いさん達」

「お父様、お母様」

「新しい、家族はいらない?」

 首を少し傾けて。じっと見られる。

「……新しい」

 家族。お父様、お母様。家族は、変えられるものなの? 家族は、お金で買えるものなの?

 エディスさんは本当にいたの? それとも僕が生み出した作り物の人? 僕は、僕を誰も迎えに来てくれない。来てくれないお父様に、僕は捨てられたの?

「しい。ほしい、よっ」

 もし、僕がお父様にとって、いらない子で。この人にとって必要な子なら。

「あなたの、家族になりたい……」

 僕は、エディスでいよう。エドワード・ティーンスなんて。ずっと前に、エディスさんと別れたときに死んじゃってたんだよ。

「うん。じゃあ、おいでよ。絶対にお父様に勝ち取って貰うから!」

 ぎゅっと抱きしめられて、涙が零れた。

「俺はドゥルース。君は?」

 嬉しかった。でも、

「僕は……僕の、名前は」

 でも、

「エディス」

 苦しくて、悲しくて、寂しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ