後書き
最初に思い描いていたラストでは、シュウは完全に狼化して地を這う者と一緒にいました。シルベリアはデューと旅に出て、リスティーと共に最前線に出たレイアーラが王となり、ミシアはリスティーと戦って敗れ、メルサンは地を這う者戦で破壊される予定でした。
1.キシウの腹を剣で突き刺して強引にドアの向こうに押し込んで生贄に使いエディスも生還。その後エディスが元帥、レイアーラが王になる。(シュウ狼化エンド)
2.キシウではなくエディス母戦を終えた後、エディス単体で神を倒す。その後ギールが消息不明になり、エディスは国を建てなおしてからエドワードたちに預けて人捜しの旅に出る(同じくシュウ狼エンド)
の二つを考えて気に入らず、途中でシュウはなんのために存在しているキャラなんだと思い直し、最終的にこうなりました。
本編を書くにあたってのテーマは、「好きだけど○○」「好きなのに○○」でした。主人公のエディスなら「好きだけど憎い」、エドワードなら「好きなのに口に出せない」。シュウだと「好きなのに傷つけたい」です。
歌手の歌を聴いていて「上手いなーすごいなー」と感激する気持ちと、「私もこんな風に歌えたらいいのに」と羨む気持ちの二種類を感じることがあると思います(人それぞれなので、感じない方もおられると思います)。
どんなものでも、合判する気持ちがあり、それに苦しむことがある。その気持ちとどう付き合っていくか、を描いていこう!と。書き終えた今は、ちょっと大きなテーマだったと感じています。
作中で一番成長したのは、エドワードだと思います(一番強くなっていったのはリスティーだと思いますが…正直しっかり者すぎて怖いくらいです)。
エドワードは父親との関係や、人に対しての関わり方がエディスにとてもよく似ています。だからエディスはエドワードを一番気にして、自分と同じようにならないようにしたがっていました。それが通じて、エドワードは辛い過去や気持ちの整理を行って元の素直な性格を取戻しました。
逆に、主人公のエディスはそれを乗り越えようとしませんでした。
愛しいも、憎いも、可愛いも、苦しいも、楽しいも、苦しいも。全て自分が感じた大切な感情で、切り離すことはできない。切り離しても、その思いは蘇ってきて、自分から離れていくことはない。そう思って、大事に大事にしまっていました。
過去に出会った人たちの優しさと悲しみにばかり引きずられて、自分の未来を見ようともしなかった。夜ベッドに入って考えることは「明日はなにを食べよう」とか、「あの小説の続きはどうなるんだろう」じゃなくて、「あの悲しい月色の目をした夜はどうしているんだろう」や過去の人ドゥルースやエディスさんであったりと出会ったことへの償いや謝罪の言葉ばかり。
彼を書いている最中に「常に後ろ向きで爆走してたから崖に落ちたのに、意外と高さがある崖で、その怖さに声を上げることもできずに落ちていったっぽいな…」とぼんやり思ったことがあります。
もう少し目の前の現在に目を向けて、たまには立ち止まって友達とくだらないことを言い合って笑い合っていれば、こんなに深い崖に自分から落ちていくことはなかったのかもしれない。
エディスが遊んでいるシーンを書かなかったなーということに、最終決戦を書く辺りで気づきました。どこに行っても結局仕事の話をしていたり、戦ったり。気が休まる時がなかった。
他人ばかりを気にして、自分が誰かにしてほしいことをなぞるようにしていった。誰よりも無音の悲鳴を上げていたのは、多分エディスでした。
ドゥルースと別れて以降、手を引いてソファーにでも連れて行って休ませるような年上がいなかったことで、「助けて」の一言を言わなくなっていった。周りは磨けば磨く程美しく輝くと思っていましたが、本人は磨かれれば磨かれる程小さくなっていき、輝く部分を削り取られていくように感じていました。
人との関わりあいと未来に期待を抱くのを拒んだ結果、神なのか化け物なのか人なのか空耳なのかわからないものの声のみが聞こえる世界に閉じこもってしまった。次に銀色の扉が開けられた時が、エディスとギールが混じりっ気のない恋をする始まりなのではないかと思います。