表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の歌う偽りの願いを
175/210

白銀の少年の歌う魔力の願いを

 銀の剣が、少年の体を斜めに切る。肉を焼くような音と臭いをさせて、右肩から左腰までに黒い傷を生んだ。斬られた少年は、燃えるような目で女を睨む。背から血を流しながらも、女に向かっていく。そして、女の持っている剣を奪い、豊かな胸の間に突き入れた。

「エディスさん……ッ」

 その様子を同じ名前の少年はただ突っ立って見ていた。リスティーが駆け寄ってきて、その背中を叩く。

 ふらついているルシリアが突き刺した剣は、崩れていく。

「……無傷?」

 剣が突き刺さったはずの胸には、血や傷どころか、衣服の損傷も見当たらない。ルシリアは悔しさに歯を噛み締めたが、母は笑い声を立てるだけだ。

「自分の魔力で怪我をする馬鹿がいると思う?」

 そう言って、もう一度剣を作り出す。エディスの手からリスティーが剣を取り、後ろに押す。リスティーは剣の柄に唇を二度当て、構えた。母はそれを嫌そうに顔をしかめて見ている。

 リスティーは剣を一振りすると、母は苦笑して避ける。目を閉じ、一呼吸置いてから、二度かかとを蹴り――突進した。

 いきなり近距離に迫ってきた剣を母は間一髪のところで避ける。二撃目は剣で受けたが、リスティーの勢いを殺せず、剣を真っ二つに折られた。

「リスティー、エディス、大丈夫ッスか!?」

 そこへ、玄関の方からジェネアスとドゥルースがやってきた。ジェネアスは魔力の密度に顔をしかめて、ウエストバッグの中から数本の細長いビンを取り出す。親指でコルクを押し上げて抜き、次々と空中に投げていく。色とりどりの液体は、空中に浮いている魔力を吸い込み、消えていった。

 リスティーに攻め込まれている母は、眉の間を狭めると、しゃがみこんでいるルシリアに目をやった。

 じわりと、母の目の色が変わっていく。赤紫に近い、その目の色は――

「惑わせの魔法だ!」

 と叫んだエディスよりも先に動いている者がいた。

「ルシリア」

 ルシリアの目が暗く虚ろになる前に、ドゥルースは瞼を中指と親指で閉じさせてから、大きな手で覆う。そして、薄く開いた口と、自分の口を触れあわす。

 母はその様子を右の奥歯を噛み、眉根を下げた表情で見ていたが、やがて高笑いをし始めた。

「男同士でキスゥ!? 気持ち悪いわね!」

 そしてまた、赤紫色の目でルシリアを見る。今度はドゥルースも一緒に。

 惑わせの魔法は、目で見ることで行われる。魔法を行使する者が見ることが発動方法であり、対象者が行使者を見ていようがいまいが、関係はない。

 エディスは二人に駆け寄ろうとしたが、ドゥルースが手を上げてそれを制した。

「俺には、惑わせの魔法は効かない。惑わせも、闇系統の魔法だからね」

 その言葉を聞いた母は、小首を傾げる。やがて、そう、と呟く。

「あなた、フィンティア家の赤い悪魔ね」

 赤紫色の目が見つめ合う。優しいドゥルースのことを、悪魔と呼ばれることが、エディスはなによりも嫌いだ。顔にその気持ちが表れる。

「魔力異常の子どもが、同じ魔力異常の子どもを守るだなんて。滑稽だわ」

「魔力異常?」

 今にも母に跳びかかりそうな体勢のリスティーが口を開いた。

「後で説明するッス! 今は……」

「そうね!」

 ジェネアスの発言によって、リスティーは攻撃を再開し始めた。今は他に人がいることもあり、後ろを守る必要もないので、母にだけ注視して向かっていっている。

 母は舌打ちをしそうな顔で、飛ぶ。文字通り、体を浮かして塀の上に乗った。両手を大きく開き、聖母のように微笑んだかと思うと、甲高い超音波のような声を発した。

 耳と目を塞いで耐える。目を開けると、そこには母の姿はなかった。

「消えたか……」

 終らない闇は、まだ深さを増して、エディス達を包んでいっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ