白銀の少年の歌う戦いの願いを
「あなた、あまり美味しそうじゃないわねえ」
「骨ばってますか?」
短剣を持った左手を前に突き出し、腰をおとした状態のアーマーは、左手を背の後ろに回していた。
「そうね、貧相な体だわ」
「……脂肪の塊など戦いの邪魔になりますので、結構です」
冷静に言葉を返したアーマーを見て、母は口に手を当てて笑い声を立てる。見られているアーマーは、背中に嫌な汗が流れ落ちるのを感じていた。どんなに目を凝らして見ても、この女に隙という隙が見あたらない。そして、まとうオーラが明らかにおかしい。まるで、魔物のような感じがする。美しい容姿の中には魔力しか感じられず、人間の生気のようなものは一切感じることができない。
まさしく、魔女というところか――そこまで考えたアーマーは、息を吸った。そして、低い笑い声を洩らす。
【貴様のような屑が
私の力の元で何が出来る】
それに被せるようにして、少年の高い声が響いてきた。
【彷徨える刻の神よ】
それを聞いた母は、目を丸くさせ、声の発生源を特定しようと周囲を見渡す。
「この呪文――なぜ」
そこで初めて隙ができた。アーマーは詠唱をやめ、短剣を両手に握りしめて走り出した。
「それにしてもお腹が空いたわ」
「俺もだ」
リスティ―が腹を押さえて言った言葉に、男性陣は頷いた。運動をしたために、体がエネルギーを欲している。先程ギールでエネルギーを満たしたエディスと、食物を摂取する必要のないカロル以外は。
「帰ったらシトラスがいるから、それまで我慢しろ」
「シトラス君が起きてたらの話じゃないのー」
「起きてなかったら俺が作ってやるから」
「アンタに作らせるくらいなら自分でやるわ」
断られたエディスはそうか、と呟いたが、ドゥルースは不思議に思い、え? と零した。
「エディーの料理は世界一だよ?」
のろけとも聞こえる発言に、リスティ―は分かってないわね、という様子で息を吐く。
「それは昔のことでしょ。今は危険で見られたもんじゃないの。すぐに考えごとに夢中になるんだから」
「そうなのかい?」
「そうだ」
口を尖らしたエディスの頭を苦笑したドゥルースが撫でようとした時、金属を切っているような音が耳をつんざいた。
「……今日は寝かさないぜ、ってか?」
舌打ちまじりにそう言ったエディスは、駆け始める。ほぼ同時に走り始めたリスティ―が、カロルを振り返る。
「生物反応、六。その内約五名負傷中。交戦中の相手は――不明。分かんない。人間じゃないけど、魔物でもなさそう」
「なら、俺の母さんだ!」
お前の母さんはなんなんだよ、と誰もが言いたかったが、誰もが黙っていた。化け物だという返事がくることを予想していたからだ。
「シュウはシルベリアと! ドゥーはカロルと。決してお互いから離れないようにして行動しろ!」
そう言って、エディスはさらには速く、暗い夜道を突っ走っていく。闇夜にも明るい銀色の髪を揺らしながら。