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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の歌う偽りの願いを
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白銀の少年の歌う反軍の願いを

 凍えるような寒さの北。それとは対称的に燃えるような暑さの南。反軍はそこから立ち上げられた組織である。

 非常に保守的な考え方をする北とは反対に、気性が荒く行動的な人が多い。

 攻撃方法も、素手などが多く、軍屈指の肉体派集団のいる地区だ。


「お待ちしていました」

 南から中央行きの汽車の下り場。そこにドゥルースはいた。右手は広げ、右手は胸に当てて、右足は後ろに下げる。その場にいた女性は美青年の恭しいポーズにきゃあきゃあと黄色い声を上げた。

「早くおいでー。行くわよ!」

 だが、ドゥルースがポーズを決めた先にいる少女は後ろを向いてそう叫んだだけである。

「待って、待って~」

 とたとたと汽車から降りて、少女の後を追うように来たのは、金髪の少年だった。少女は足元に置いていた茶色のトランクを持ち上げ、その手は駅の正面玄関へと歩いていってしまう。

「え、ちょっと……」

 相手にされるどころか視線一つ寄越して貰えなかったドゥルースは慌てて声をかけた。だが少女は止まらない。少年が自分と少女を交互に見るだけだ。

「リスティー・フレイアム大佐! エディス・ディスパニ・エンパイア准将からの命であなたを迎えにきました!」

「……はい?」

 その声でリスティーはやっとドゥルースを見た。

「軍人でもない人がなに言ってるのよ。迎えなんて必要ないから、帰って」

 だが、その目は鋭く、ドゥルースを全体的に拒んでいた。

「エディスに君のことを頼まれたんだ。一緒に行こう」

「嫌よ」

 そう言い切り、ふいっと顔を背ける。ドゥルースはそれでも後を追おうとする。

「あなたの迎えなんていらない。そう言ってるんだけど」

「……どうして、そこまで?」

 カツッとリスティーが履いているパンプスが鳴る。無言でガツガツと階段を下りていく。石の階段から黒いコンクリートで舗装された中央の地に足を下してから、リスティーは身体の向きを逆に変えた。

「あたしは嘘吐きが大嫌いなの」

 腰に手を当て、上半身を前のめりにした、挑発的な態度。裾がふんわりとした、花のようなラインのピンク色のワンピース、白色のパンプス。町中で見かけても軍人だとは誰も思わないだろう。年下の少女にドゥルースはにこりと笑いかけた。

「嘘吐きだなんて酷いな」

「自覚がないのか、自分が何をしたのか分かっていないのか。どっちにしろ大馬鹿ね。誰にも教えてもらえなかったの?」

 おどおどと二人を交互に見るばかりのカロルがリスティー、と泣き出しそうな声を出す。

【地獄の業火よ!】

 足を大きく開き、大声で詠唱をし始めたリスティーに、ドゥルースはため息を吐いた。そして、隣にいるカロルに下がるようにと言い、手を上げる。

【暗黒よ 光を焼き尽くせ】

 リスティーはそれを訊き、一度を口を閉じ、咳払いをした。そして、もう一度口を開く。

【光よ 我らを照らせ】

 その瞬間、ドゥルースの周りに浮き、魔法として固まりかけていた魔力が霧散した。

「この国の魔法は光が中心よ。魔物の領分の闇なんて、滅多に使う奴いないわよ」

「まあ……そうだろうね」

 ドゥルースは子どもの頃から何度も何度も聞かされてきた言葉が頭に浮かんできて、奥歯を噛み締める。

「だから、反軍に闇魔法を使う人はいないわ」

ドゥルースはピタリと固まり、少女を見下ろした。リスティーは下りた階段をわざわざ上ってき、ドゥルースのすぐ前まで行き、下から睨みあげた。

「よくも騙ってくれたわね」

「今のはんっ」

「あたしよ」

 ヒールの部分で足の甲を思い切り踏んづけられたドゥルースは涙目になる。しかしリスティーはなおもギリギリと強く踏みつける。だが、その時ドゥルースの胴にカロルがひっついた。

「リスティー、もうダメだよ!」

「カロル……」

 激しく頭を振り、ドゥルースにひしりとしがみ付く。

「ドゥーをあんまり怒らないで」

「……え?」

 目を見開いて涙を流しかねない様子でそう言うカロルを見るドゥルース。

「馬鹿っ!!」

 両手を握り締め、リスティーは大きな声でそう詰った。

「どうしてっ、どうして大切にできないのよ……っ」

 唇を噛み締め、潤んだ目を吊り上げ、必死で自分に訴えかけてくるリスティーに、ドゥルースは手を伸ばす。

「ごめんね。……ありがとう」

「なにも知らない子どもじゃないんだから」

「うん」

「ずっと一人で我慢してきたのよ」

「うん」

「行くわよ」

 ドゥルースに背を向け、凛と顔を上げて言うリスティーに、ドゥルースは目を閉じた。

「本当にありがとう。幸せだよ」

「そりゃーよかった……」

 だが、唐突に現れた三人目の男の声に、目をかっ開いた。

「グレイアス。アンタ、どうしてここにいるの」

 エディスは? とリスティーが訊ねているのは、黒くぼんやりとはしているが、結構な色男だ。だが、ふわふわと所在なさげに浮いているところからすると、魔人なのだろう。

「水ん中に放り投げられて、凄い勢いでここまで来た」

「水ぅ!?」

 なによそれ! と目を怒らす彼女の腕を魔人が引いていく。しゃがんで張り巡らされた川の堀を覗き込む。そうするとスカートの中身が見えそうになり、近寄ったドゥルースは思わず唾を飲み込んだ。隣でその様子を見ていたカロルがむっとした顔になり、ドゥルースの薄い手の皮をつねる。ごめんごめん、と謝っていると、リスティーがひょいっと堀の中に飛び降りていった。

「びっしょびしょじゃないー。誰よこんなことしたのー」

 女性とは思えない程軽々と上ってきたリスティーは、あんまりよ! とレースのハンカチで剣を拭う。

「キラキラした頭の男だ」

「……腰くらいの長さの?」

 トントンと足の爪先で地面を蹴りながら訊ねたリスティーに、魔人が頷く。

「じゃあ、あの人かな」

 なんのことだか分からないドゥルースたちを置いてけぼりにしそうな勢いの少女は、ここでやっと二人を見た。

「あたし、先に行くから。カロルはゆっくり来てね」

「はーい」

 カロルに手を振ってから、リスティーは走り出した。

「グレイアス、疲れてるんなら剣の中に入ってて。置いていきかねないから」

 グレイアスが色を失って剣の中に入った。魔人が慌てて剣の中に入らなければいけない程の足の速さの人間なんていないはず――ドゥルースはそう思った。

「じゃあ、後でねー」

 だが、手を振ってから走り出した少女の後を追って走りだし、すぐについていくのを諦めることになった。

「僕、リスティーの場所分かるから……ゆっくり一緒にいこう?」

「そ、そうさせてもらうよ」

 自分の服の裾を引っ張る少年を見る。すると、少年は昔見たことがあるような笑顔をした。

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