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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の歌う偽りの願いを
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白銀の少年の歌う計画の願いを

 なにか、音が聞こえる。扉を叩く音のような気がする。少しうるさい。……それに、シトラスの声だ。

「ああ……朝、か」

 起き上がりつつある意識の中、そう呟く。けれど、呟くだけだ。起きることまではできない。もう少しでいいから寝ていたい。枕に顔をうずめて、もう一度眠りにつこうとする。

 ふっと意識が落ちそうになった時、体も少し沈みこんだ。ん? と思って、目を開ける。

「おはよう、エディス」

 まるで子どもの時のように、ドゥルースがいた。




「うひゃうひょう!! はないと思う」

「まあ、変なことしでかすドゥルースさんが悪いんやし」

 ええんです、と言うルシリアに、アップルパイを持ってきたシトラスが苦笑する。

「すみません、エディス。僕が入っていったら良かったですね」

「いや、九割俺が悪いし……」

 ほどけかけている首の包帯を手で押さえながらエディスは呟いた。自分でもうひゃうひょう!! はないと思う。

「ルシリア、ドゥーは?」

「さっき手洗いに行かはった」

 エドワードと話しているルシリアに訊くと、

「呼んだ?」

 と言ってリビングにドゥルースが現れた。

「呼んだ呼んだ」

 二日前、ギールがこの家から出て行った。それから、ドゥルースとルシリアはこの家に住んでいる。まるで、エディスの寂しさを埋めるように、小さい頃のように。

 夕陽はまた、昇った。晴れた青空は陰り、闇は空に還った。そうして残ったのが、色を少し変えた夕暮れ。欠けた月を慰めるような、優しい橙。黄に赤が混ざってできた、橙。

「時間は残されていない」

 太陽も、若草も、全て。この手にあるものは重く、愛しい。灯も、風も、全て。この背に負ったものは重く、切ない。

「多分、三か月後――次の中央軍集会が行われる時に、エディスさんは動いてくる」

 俺は、この国に生きる人たちを守りたい。ここに来るまでに、たくさんの人を失ってきた。だから、もう二度と失くしたくない。

「能力の発生源である神を食らい、自らが神に成り変わる。それが彼女の目的だ」

 魔力は空気中に分散した、この土地に元から住んでいた神。魔物は神が入った死骸。もし、その発生源である神が全て食われて、消えてしまうとしたら。魔法は、魔物は、能力者は一体どうなってしまうんだろう。

「もし神が食われてしまうとあの人に手出しができなくなる。神がこの星の汚染から耐えられなくなって死んでしまっても対処方法が分からないから終わりだ」

 全て、消えてしまうんだろうか。

「そうなる前にエディスさんを殺して、神の崩壊を止める」

 たとえ自分を産んだ母であっても、犠牲を増やしたりすることはできない。

「……それでいいの?」

 誰かにとって大切な人を、あの人のためだけに殺すことなんてできない。

「ああ、それでいいんだ」

「分かった。じゃあ、僕はなにをすればいいの?」

 温かいものは、この世界にある。小さな小さな、両手でしか掴むことのできないような、そんなちっぽけな世界だけど、ここにもそれがある。

「エドはアーマーと、その兄のフェリオネルを迎えに行ってくれ」

「異動手続きは一応済んだもんね。了解、すぐに迎えに行くよ」

 にこっと笑うエドワードに、エディスは微笑み返した。可愛い可愛い自分の弟に向かって。

「エディス、僕はどうしたらいいんですか?」

「シトラスは、デューがいつこっちに来るのか調べてほしい」

「デュー? って、あの踊り子のことですか?」

 首を傾げるシトラスに、そうだと返す。

「これからの戦いの中で必ず彼女の力が必要になる。だから、捜してほしい」

「はあ……分かりました」

 それから、ドゥルースの方にエディスは体を向けた。自分の隣で、誰よりも優しく自分を見守ってくれている、ドゥルースの方を。 「俺は?」

 ほっとする、温かい笑顔で訊いてくれるドゥルースに、エディスは苦い気持ちになりながらも言葉を口に出した。

「ドゥルースは、ある人を迎えにいってくれないか?」

「ある人?」

「…………頼みづらいことなんだけど」

 ドゥルースの耳の横に手を当てて、他の人に聞こえないように小さい声でぼそぼそと呟く。すると、ドゥルースが目を見開いた。聞こえたらしいエドワードが首を傾げる姿が目の端に映った。 「分かったよ」

「ごめん」

 苦笑したドゥルースは、謝罪の言葉を聞いて、さらに苦い表情になってしまう。

「そろそろ、ちゃんと話さないといけない時期だとは思っていたんだ」

「あの時は話せるような状況じゃなかったしな」

 その言葉に、ドゥルースは立ち上がった。

「じゃあ、今から行ってくるよ」

「い、今からですか!?」

 慌てるルシリアの目の前に、ドゥルースが手を出す。

「君はダーメ」

「はい?」

「今回君は連れていかない」

「な……っ」

 ハッキリと言い切られたルシリアは、声を震わせる。

「な、なんでですか」

「君にまで幻滅してほしくないんだ」

「アンタに幻滅なんかっ、するはずないやろ!」

 椅子を倒してドゥルースに縋り付くルシリア。その頭を撫でようとして、ドゥルースは頭を振った。

「駄目だ」

 そして、そう強く言った。

「どうしても二人きりで話がしたいんだ」

「……分かり、ました」

 頭を項垂れるルシリアに、ドゥルースは少しためらった後、手を伸ばす。だが、その様子を横目で見ていたエドワードがルシリアの肩に手を回した。

「じゃあ、僕と一緒に東に行こう!」

「はい?」

「僕、兄さんの所に来るまであんまり外に出たことなかったんだー。だから、外の常識知ってて、道案内できて、ついでに話もできる付添人が一緒に来てくれたらいいなーって今思い付いたんだけど……ね、いいでしょ?」

 にこにこ笑って提案するが、ルシリアになんでや? という顔しかされない。そのため、エドワードはターゲットをドゥルースに変えた。

「いいですよね」

 眼光の鋭さに、ドゥルースは一歩退いて、顔を引き攣らせながら頷く。

「よしっ、じゃあ用意するよ!」

 間髪入れずにエドワードはルシリアの手を掴んで階段に向かっていった。だが、階段の一段目に足を置いた状態で立ち止まり、

「と、兄さんはどうするの?」

 と訊ねた。

「俺は通常通り仕事だ」

「兄さんは中央から出られないもんね」

「……そのせいでお前達に迷惑かけることになって、すまないが」

「ううん、いいの!」

 僕は兄さんの味方なんだから! と言ってくれるエドワードに、エディスは自然と笑顔になった。

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