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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の歌う偽りの願いを
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僕の大切な友人

 エディスの上にシーツを被せ、自分の衣服を正したシュウがベッドから下りる。

「さんを、兄さんを離せ!」

 エドワードが飛びかかると、シュウが暗く澱んだ目を向ける。そして、エドワードを蹴り飛ばした。

【夢の橋に眠る

 虹のひ……!】

 後退しながらも詠唱するエドワードに接近し、頬を張る。力の強い相手に加減なく叩かれたエドワードは壁に頭を打ち付けた。

「……エド」

 ただ景色を映していただけのエディスの目に意識が戻る。

「エド!」

 止めようとベッドから下りようとしたが、上手く体が動かなかったのか、落ちた。その音を聞いたシュウが呆れたようにため息をつきながらエドワードの髪を掴む。

「動くなよ」

 どちらに言ったのか分からない言葉にエディスはためらい、エドワードはキッと目を吊り上げた。

「アンタは兄さんをそんな目で見るなって言ってたじゃないか! また、またアンタが僕から兄さんを奪うのか!」

 叫ぶエドワードを見下し、シュウは笑った。

 エドワードの髪を引っ張ろうとするシュウに静止を求めようとしたが、ぐっと唇を噛み締めて止めたエディスの代わりをするように、

「やめて下さい、シュウ……!」

 シトラスが部屋に入って来、エドワードの髪を掴んでいる手をはずし、首を振った。

「暴力は嫌です、シュウ」

 しゃがみ込み、エドワードを抱きしめるシトラスに懇願するように見つめられたシュウは顔を反らした。

「シトラス、ソイツ連れて帰れ」

 そう言い、エディスの元に戻ろうとしたシュウの腰辺りにシトラスがしがみ付く。

「待ってください、シュウ。彼になにをするつもりなんですか!?」

「なに……って、お前もいい歳になったんだから、分かるだろ」

 離せ、と頭をポンポンと叩かれたシトラスは首を振った。

「やめて下さい。彼は……エディスは僕の大切な友人なんです!」

 友人とハッキリ言い切ったことに対し、シュウは弟を真っ直ぐ見た。

「……だからなんだよ」

「彼が望んでもいない行為を強制しないで下さい。エディスは、貴方を親しい人だとは思っていますが、愛してはいない。絆の意味をはき違えないで下さい、シュウ!」

 かつて自分が否定した少年と、いつも困らせてばかりだったような弟に説教じみた反発をされたシュウは長く息を吐いた。

「お前ら、こいつがなにをしようとしているのか、知って言ってんのか?」

「知らないけど、兄さんなら僕たちを陥れることは絶対にしない!」

「どんなことであろうとも、それが最善の策ならば僕は彼を応援します」

 だから、と自分を見つめてくる年下の二人にシュウはたじろいだ。

「シュウ」

 シトラスの腕を外し、邪魔しようとするエドワードの頭を後ろに押しやり、自分の名前を呼んだ方に進む。

「シュウ」

 エディスは噛み締めていた唇を緩め、その代わりにシーツに隠して見えないようにした手をきつく握りしめた。

「エディス」

 手を伸ばして抱きしめてこようとするシュウを瞬きせずに見つめる。抵抗はしなかったが、受け入れられた訳ではないような様子にシュウ以外の者は眉を曇らせた。

「……お前の手」

「え?」

 突然口を開いたので、驚いてシュウが身体を離すと、エディスの笑顔があった。

「お前の手、相変わらず温かいな」

 ふっと体温の低い唇が頬に当たり、シュウはそこを手で押さえる。その目は唇の主を捕えたままだ。

「その温かい、ドゥーに似た手だけは好きだったよ」

 シーツの擦れる音をさせ、立ち上がったエディスが横を通り抜ける。手を掴もうとしたが避けられ、叶わなかった。

「俺はお前のものにならない」

 エド、大丈夫か? と訊ねながら下着を穿き、ズボンに足を通す。

 破られた赤いインナーを顔の高さまで持ち上げ、

「これはもう着れねえな……」

 と呟いた。

 仕方ないといった感じで素肌の上に上着を直に着、コートを羽織る。そして銀色の髪を結っていたリボンを解き、笑む。

「シュウ」

 床に座ってしまっていたシュウの正面に跪き、手を取った。

「これ、返す」

 そう言い、シュウの掌の上にパートナーの証であるリボンを乗せる。

「今まで、本当にありがとうございました」

 深々と額を床に付けて礼をし、終わればすぐに立ち上がる。

「エド、シトラス。帰ろう」

 種類の違う笑顔を纏いながら、手を差し出した。

「うん……」

 戸惑いながらもエドワードが手に取り、シトラスが立ち上がってから手を握る。

「それでは、大変失礼致しました」

 そのまま部屋の外に出、最後に出ようとしたエドワードが頭を下げる。そして出終わった瞬間、ドアが壊す前の姿に復元された。

 ドアを復元したエディスが何ともいえない表情をしていたので、両端の二人は手をぎゅっと握った。

「兄さん! 早く帰ろうよ。僕、お腹減っちゃったよ」

「今日はエディスの好きなシーフードパスタですよ」

 握り返し、涙の溜まっていない目を閉じる。そして、喉の奥から言葉を引き出す。

「それは、楽しみだなあ……っ」

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