白銀の少年の嘆く化物の約束を
「王様ー!!」
耳が壊れそうな程の歓声。
「凄いな……」
「ホントにな」
かばうようにぎゅっと抱きしめてくれている。きょろきょろと周りを、ううん、人の目線の先を見る。
エディスさんはどこだろう? そればかりが先走る。
「お妃様よ!」
誰かが悲鳴にも似た大声でそう叫ぶ。
「エディスさんっ」
小声で小さく呼んで、見る。
「誰?」
エディスさんのような美人じゃなかった。ううん、美人だったけれど、人間程度の美しさだった。
「あ、あのっ!」
「おい!」
近くにいた綺麗な身なりをした女性に声を掛ける。嫌そうな顔をされたけど、今はそんなこと、どうでもよかった。
「お妃様って、どの人ですか?」
「あの人よ」
その人が教えてくれた人は、やっぱり違った。さっきの、人だった。薄い水色の髪を体にまとわせて、穏やかな笑顔を浮かべている。…どこ。
「どこ、なの、エディスさん」
よろりと後ろに一歩引く。また、見失った。どうして嘘ばかりつくの? どうして僕を置いていくの! どうしてそんなに僕が嫌いなの。
「あ、おい!」
気が付いたら駆け出していた。
「いっそ、出会わなかったら、よかったのに!」
走って走って走って。息も切れ、足もがくがくとしてきた頃に腕をつかまれた。
「うわ! な、なに!?」
いつの間にか帽子は落ち、月や天使ともとれる容姿がはっきりと見えてしまっていた。
「一人かい?」
大人の男だった。ぴかぴかと光る体をしていて、少し不気味にも見える。
「まも。なんの用だよ!」
服の裾から細い刃のナイフを取り出し、前にやる。
「お金、欲しくないかい?」
「別に。汚い金はいらねえよ」
体を見つめてくるソイツをキツく睨む。
「いいだろう? どうせ長く綺麗なままで生きられない身分なんだから」
と男はナイフを見ても怖じ気ずに体を奪おうとしてくる。
「やめろ! 触んな!!」
ナイフで切ろうとする前に、手を力任せに殴られる。無防備な腹を思いっきり蹴られた。苦しくて咳をしている間に両手をひとまとめにされ、頭の上でとめられる。
「綺麗な肌だね……」
服を脱がされ、素肌を触られる。
「やめろって、言ってっ!」
はっと、体が固まる。
「……おや? 観念したのかい?」
首筋に顔をうずめられても何も言わなくなった少年を見、男はにやにやと笑った。
「月」
「え?」
ぽつりと何かを呟いた少年を見る。
「ひっ!」
ひきつった顔の瞳にうつるのは、少年の瞳。赤い、赤い、血の紅。
ぐじゅりと果実が潰れるような音が、した。
「また、やっちまった」
けほっと一つ咳をした口からは生暖かい液体だったものが零れた。
「あんまり、やりたくねえのに」
これは、罪。生きようとした、罪。ガランっと、金属が落ちる音がした。
「誰だ!」
ばっと振り向くと、そこには少年がいた。
そう、これは罪。少年が生を取った、罪。満月の日のみに少年は血に犯される。人ではない別のもの。人を餌にする魔物の呪い。
半分は人、もう半分は魔物。左目は蒼、右目は紅。人の生き血を吸う魔物の呪い。
「……ヴァンパイア」




