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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年と真紅の約束を
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白銀の少年と希望の約束を

「どうして皆、お前らは返せって言うかなあ」

「お金でエディス様を買ったのでしょう? でしたらこれをどうぞ?」

 ぽんっとシトラスがスーツケースを放り投げてくる。

「金の問題じゃないのは、もうお前達も分かってるんじゃないか?」

「つまらない人ですね」

 結局。

「力でねじ伏せるしか、方法はない」




 ナイフと剣が交わされ合う音が聞こえる。待って、待って。もうちょっとでいいから、待ってほしい。

「嫌だっつってん、のに」

 エディスはガリガリと短い爪で手錠を引っ掻いていた。

「お願い、待って。誰も、誰も」

 誰も、傷つかないで。俺はいいから。もう、いいから。もう、誰も俺のために傷つかなくてもいい。もう、俺は十分いっぱい貰った。

「やだよ、もう、いやだ!」

 手が熱い。痛い。血が出てる。ガリガリと掻いても、叩いても、手錠は切れる様子を見せない。

「早く、早く、早く!」

 焦っても、無駄で。指がボロボロになっていくだけ。

「エディス!」

「ちょっと、エディスー!?」

 いきなりむぎゅっと頬を掴まれなかったら、きっと泣き出してたかもしれない。

「帰ったら関節外す訓練だな」

「どんな訓練だよ!」

 ぶはっと噴出し、軍で初めて出来た友人の顔を見る。

「来んのおっせぇよ、シルベリア!」

「悪い、お前がかよわく捕まってると思わなかったからな」

 派手な色の髪をした青年だった。青色の瞳が落ち着いた色を灯している。そして顔がエディスに近いくらい、整っていた。裾と袖の部分が黒色、胸元は思いっきり開いており、紐が通されているという色っぽい軍服。彼の名はシルベリア・レストリエッジ。階級はエディスと同じ准将である。今は北部軍本部の司令官を勤めてもらっている。

 彼は、剣の先を手錠の鍵穴に入れたかと思うと、器用に、壊した。

「折角の綺麗な手がぼろぼろじゃねえか」

「いって! コラ、舐めんな!」

「シルベリア准将、どうしたの? エディス苛めてどうするのよ」

 包帯持ってきたから、手を出してと女の子らしい優しさを見せるリスティーに苦笑する。

「コイツは元はこんな性格だ」

「それは新発見ね。クールで大人なシルベリア准将がドSだったなんて」

 茶の髪をリボンでくくり、大きなオレンジ色の瞳をぱちぱちと瞬きさせる。ワンピース風の特注の軍服の上に可愛らしいデザインの白衣を着た彼女はリスティー・フレイアム。地位は大佐。南部軍兵器開発本部、開発部長でもある。そして、自称美少女兼自称軍のアイドル。

「エディス、大丈夫?」

 そして、彼女はエディスの数少ない友人だ。

「もう、怪我ばっかしてー」

「いってー!!」

 ぎゅっと包帯を縛られ、エディスは悲鳴を上げた。

「よし、できた!」

「そろそろ外に連絡取るぞ」

 こんっとシルベリアが壁を叩くと、短く誰かが答えた。

「耳ふさいで!」

 すでにふさいでるリスティーがエディスに頷く。

【誰が貴様に頼んだ

 我が力だ

 我が力

 貴様等屑だ

 消え去れ消え去れ

 崩れ去れ

 貴様等用済みだ

 我が力の前に跪け


 消え去れ消え去れ】

 高らかな笑い声と共に出される呪文。

「お、おい!」

「この悪趣味な呪文って」

「うるさい! 生きたかったら黙って走れ!」

 エディスとリスティーがのろのろと、背後へと移動を開始する。シルベリアは一人でさっさと走っていっている。

「お兄様だけじゃ生易しいわ。もっと大打撃をあげなくては」

 という声がさらに聞こえてきた気が、する。

【貴様のような屑が

 私の力の元で何が出来る

 諦めろ諦めろ

 貴様等屑以下だ

 崩れ去れ

 貴様等用済みでしかない

 我が力の前に生を乞え


 諦めろ諦めろ】

「俺は左を行く!」

 シルベリアが左の角を曲がる。

「リスティー、来い!」

「きゃあっ!」

 エディスがリスティーの背と膝裏に手を挿しいれ、抱え上げる。

「アンタ今怪我してるのよー!?」

「んなもん知るか!」

 右に一足飛びで入り込み、そのまま奥へと走り逃げる。

「くっそ!」

 リスティーを下に下ろし、腕に抱いたまま紋章を描いていく。ぐるりと二人の周りを囲み、細かな文字や絵を描きこむ。

【聖者の揺ぎ無い守り】

「ひとまずこれでよしっと!」

「ね、シールド保てる?」

「……聞くな」

 エディスが苦笑で返した。

【大勇者の政権】

【大賢者の政権】

 青年の声と少女の声がかすかに、聞こえた。身に叩き付けるような、爆発。シールドにもろに爆弾かなにかが当たるような感覚がしてくる。

「くぅっ!」

「きゃ!」

 シールドにひびが入り、かすかに術効果が入ってくる。ぎゅっとエディスの胸に庇われながら呪文を微かに囁く。

【止めなさい

 虐殺なんて何の意味も齎さないわ

 さあ離しなさい

 大丈夫 何も貴方を脅かすものなんて何もないわ


 寂しいのならこの胸においでなさい


 止めなさい】

 ぎゅっとエディスに抱き付き、力と勇気を貰い、最後の呪文を唱える。

【聖女の抱擁】

 かすかに漂っていた術を全て消し去って行く。

「……助かった。サンキュ、リスティー」

「え、あ、きゃあ!! ごごごごめん!!」

 いつのまにやら乗っていたエディスの膝の上からリスティーは慌てて下りる。

「別にいい」

 それに笑いながらエディスは目を犯人の元に向ける。

「エディス准将ー! あれ? 3人共何処に行っちゃったのかなあ?」

「エディス准将様、シルベリア准将、リスティー大佐、何処ですか!?」

 真っ赤な髪をした二人の男女。

「バスティスグラン! やっぱりお前らか!」

「いい加減その悪趣味な呪文は止めろって言っただろうが!」

 左の通路から出てきたシルベリアと同時にそうまくし立てる。

「と言われても……」

「この呪文は兄様の作ったものですもの」

 二の腕より少し長い真紅の髪を二つぐくりにし、緑の瞳を持っている青年。一応特別にしておこう、という意思があったのか、白と赤の特注制服を着させられては、いる。トリエランディアの弟子であり、バスティスグラン家最大の汚点。剣と体術のみの男で、それもただできるというだけ。周りからネチネチとそう言われ続けている彼のことを、エディスは嫌いではなかった。実質、彼のあだ名を『龍』と名づけたのはエディス本人なのだ。名をフェリオネル・バスティスグラン。地位は伍長。

 その隣の少女は真紅の髪を耳より少し下らへんで綺麗にそろえていた。が、彼女がそうすると、おかっぱというよりも、可愛らしいというか、清潔というか、そういう雰囲気が出ているのだ。女の子にしては鋭い目付きの、琥珀の瞳。身に付けているのは――本人は大反対だと言い、着るのを嫌がったのだが――黒と灰色の、通常軍服を少し加工し、それにミニスカートをあわせたものだ。バスティスグラン三兄妹一、頭がよく、魔法を使え、さらに冷静で、軍師になるのが夢だという未来輝く少女だ。これまた彼女は嫌がったのだが、彼女のあだ名は『茶』という。原因は彼女の淹れたお茶はどの事務官よりもおいしい、という噂が立ったことによる。名を、アーマー・バスティスグラン。地位は軍曹。

 先日の魔物との戦闘で殉職してしまったのだが、長男の青年の名は、レイヴェン・バスティスグラン。地位は、大佐だったが、今は少将だ。生前、エディスとも何度か交流はあり、言葉を交わしていたので知っているのだが、彼は使う呪文の趣味が悪かった。性格はおっとり穏やか、というよりかは紳士的な青年だった。が、使う呪文は『俺様呪文』と周りから名づけられていた。そんな彼のあだ名は名の通り、『烏』。三人集まって『烏龍茶三兄妹』と言われていたのは、ついこの前までのことだ。

「分かった。その悪趣味な呪文はもういいとする」

「俺らはここをどうにかしなきゃいけねえってことか」

「あ、あたしもぉー!?」

 半壊してしまった敵の建物。いくら敵でもこれは酷いだろう、ということをシルベリアは思ったのだろう。

「お前はエディスに付いてやってくれ。ここはこいつらに責任キッチリ取らせる」

「えぇ?!」

 シルベリアに指差されたフェリオネルとアーマーはぎゃあ! とでも言いたげな顔をした。

「じゃ、行くわよ!」

「おう!」

 リスティーに押されるようにして走り出す。その背後に『頑張れよ』という声がかけられた。




「あっ! エディス!」

「なんだよ」

 立ち止まったエディスの胸にとんっと硬い物が当てられた。

「エディスの力よ」

「……L.A-21」

 それは、とても美しかった。まっすぐに伸びた漆黒の鞘、金の細かい模様の入った鍔、持ち手はエディスだけのために用意された物だとはっきり分かるように手にしんなりとくる。鞘を取ると金で模様が散りばめられた銀の刃が顔を覗かせた。

「貴方の、力よ」

「リスティー、サンキュッ!」

「整備、バッチリしておいたわよ!!」

 このあたしがわざわざ南から出てきて持ってきてあげたんだから、感謝しなさい! とリスティーはウインクをした。

「本当に、ありがとうな!」

「あっ! 待って、エディス!」

 エディスの腰にリスティーがひしと抱きつく。

「なんだよ」

 柔らかい身体を持った少女に抱きつかれ、エディスは恥ずかしそうに頬をかいた。

「帰って、きてね。絶対……帰ってきて、ね」

「ああ」

「お願い、約束よ」

 エディスがリスティーの腕をはずし、正面に向き合う。

「約束する。絶対に帰ってくる」

 頬に口付けると、にっと微笑んだ。

「心配すんな、俺はいつだって最強、だろ?」

「……うん」

もう一度強く手を握ると、エディスはコートをゆらめかせて、走り去っていった。

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