白銀の少年と夢の約束を
【彷徨える水の神よ
我が元へ 我が生へ
力は此処へ
力を破壊へ
変換し 我が柄へと変わり
激流を操る鎮めの力
全てを飲み込む力
流れを この手に】
はぁっと息を吐き出す。後一回しか彷徨える魔術は使えないだろう。でないと、反動が起こってしまう。
「ルシリア、大丈夫か? 無理させて悪いな」
気遣ってくれる主にちょっとだけ無理して微笑み、首を振る。
【水伯の怒り】
やがて、水がぽつりと降って、それから大量の水が落ちてきた。
それと同時に、
「いい加減、なめないでよね!!」
少年の声が近くから聞こえてきて。
【覇王の脈動】
じゃっという、土を踏む音に、ゆっくりと主が腰を上げる。
「らあああああああぁぁぁっ!!」
手に槍を持った、少年が冷えた雨を越えて、向かってくる。周りにいた味方が急いで攻撃しかけるが、全て弾き返される。
「俺が、相手します」
「だが、お前は疲れれているだろう?」
「あれは、多分あっちの大将とちゃいますし。副将なら俺が相手するのがええと思います」
がちゃっと音を立て、自分の獲物であるトンファーを手に取り、言った。前髪の一部だけが白い、茶色の髪は、きつく三つ編みに編まれている。瞳の色は、空の青。身に付けているのは、反軍の服だ。先ほどから、彷徨える魔術を使っていたのも、彼だ。
「久しぶりに骨のありそうな奴やし、俺と同じくらいの年の奴みたいやから。ドゥルースさん行くと弱い者苛めになります」
「いや、多分あの子はもうちょっと年上だと思うよ? 二歳くらい上とみて、十五歳くらいだと思うんだけど」
「ええから、大将は奥で偉そうにしといたらええんです! ひっこんどいてえな!」
むっとしたような顔をし、ルシリアは行ってしまう。
「エディーがいるのに、怒ってるのかなぁ。あれ」
確実に、怒っていた。エディスが来た、その日から。
「ま、楽しとけっていってるんだし、その通りにさせてもらおうとするか」
生あくびをし、ぼんやりと目の前で始まった戦闘を傍観する事に決めた。
【覇王の激動】
カシャっと短い音を立て、槍が短くなっていく。
「兄さんを、返せ」
「返せるもんなら、返したいとこや」
「あ、なに? アンタ、兄さんに妬いてたりするの?」
剣の形になった武器で相手の首、腹、心臓など危険な所ばかりを狙う。
「誰があんな顔だけ人間に妬くっちゅーんや!!」
「うっわ、何すんの! ってか、絶対、妬いてるでしょ!!」
「妬いてない!!」
「嘘付け!」
あいつ等は何をしているんだ、という言葉がドゥルースの口から思わず零れそうになった。
「そろそろ、真面目にいかせてもらうよ」
【覇王の雷道】
「ドゥルースさん!!」
ぼやっと見ていたドゥルースの元に雷が飛んで行く。
「はいはい」
適当に腕を振り、それを消す。
「余所見をしている奴を放置する程っ、僕は甘くない!!」
「ぐっ、あ、あっ、あああぁぁ!」
腕に深く剣を突き刺し、地に縛り付ける。
【覇王の激動】
次に左腕。勿論どちらも、筋は避けてある。
「まだ、やる?」
「この身体、朽ちても!」
【覇王の激動】
【覇王の激動】
次に両足を。
「殺してあげない。でも、これを外したいなら、自分を切り裂くことだね」
「つっ! ならぁ……!」
ぐっと歯を噛み、痛みに堪える準備を。
「ルシリア! もういい、十分役に立った! だから、それはやめてくれ!」
「……すみません、でした」
ドゥルースに叫ばれ、ルシリアは力を全て抜く。エドワードも、召喚した剣を一つずつ抜いていく。
「君は、エディスの義理の弟?」
「そうだけど」
自分の隣に立ってきたドゥルースに目もくれず、エドワードは答える。
「エディス・ディスパニ・エンパイアは、僕の兄だ」
「だけど、本当は違うな」
「エディスさんはそれを認めているんだけどね。だって、彼は僕と生きることを決めた」
ピリッとした空気が、その場に充満した。
「エディスさんを返せ。あれは僕の物だ」
「元々、エディスは俺の物だ」
「今更な何しに戻ってきたの? 馬鹿馬鹿しい、死んでいれば良かったのに!」
正面から一生懸命、話すエドワード。
「少年、いいかい。正直すぎるのも、真面目すぎるのも、時には人には、残酷になるっていう事も、あるんだ、よ!!」
急に優しげな態度を覆し、怒りを露にし、こちらを攻撃してくる。それを正面に受けるような体制を取っておきながら、エドワードは後ろに跳んだ。
【甘える小龍よ
その夢を
その心を
色に変えて
この手に この手に
さあ おいで おいで
おいで】
「道は作ったよ! 出番、出番、出番だよぉー!」
ぷかりと周りにシャボン玉のような、ふわふわとした柔らかい丸い物体が集まってきた。
「皆、皆、皆……ねえ、僕に力を貸して欲しいんだ」
【小龍の夢道】
エドワードが唱え終わると、その周りにはシトラス、地を這う者、トリエランディア、飛踊、そしてギールが立っていた。