白銀の少年と違いの約束を
「兄さんがいない今、僕らが戦闘指揮に立させて貰うよ!」
「皆、早く戦闘準備をして!」
エドワードの声変わりを終える前の声と地を這うものの高い声が戦場に響く。
「エドワード、それにちぃもお疲れさん」
「ごめんねぇ、エド君、ちぃちゃん。戦闘が入ったら僕らも紛れて出て行こうと思うんだけど……」
「ううん、来てくれただけでも、嬉しいの!」
にぱっと地を這うものが微笑み、
「い、いえ! わざわざトリエランディア大将に出てきて貰ってしまい申し訳ありません!」
ぶんぶんとエドワードが手を振る。
「いいえぇ、君達だけに任してられないからねー」
「できれば相手の大将をぶっ飛ばしたいところなんだけどなー、俺は」
「飛踊! めっ!」
むぎゅっと長身のトリエランディアが小さな少年の口をふさぐ。
「その方が手っ取り早いじゃん」
「それは、そうかもしれないけれどね。駄目だよ」
大きな青年をトリエランディア・グラッセヨ。淡い桜の色を残した灰色の髪に、優しさを映した琥珀の瞳。背は高いが、どこかほわっとした、軍人というよりかは、保育園のお兄さん。そんな雰囲気を持った青年だが、彼はW.M.A黒灰の軍大将である。流れるような剣術に、押しの強い体術が彼の武器だ。
「緊急だっていうから飛んできたのに、人同士の争いとか。この国、そんなことしてる場合じゃないだろ」
「それは、そうなんだけどね」
「そおだろお?」
後頭部で手を組む少年は、飛踊。その名が本名なのか、どうかは誰も知らない。彼は、この国の者ではない。自分の国から逃げ出してきたという。このパートナーをトリエランディアは大切に思っている。
「とにかく、行くよ」
「うん」
肩までの漆黒の髪、血のようなピジョンブラッドの瞳が印象的だ。
「はいはいはーい!! 軍部のみっなさぁーん! 僕達にっ、力を貸してください!」
「全軍、前進せよ!」
ガンッと、トリエランディアの剣が地を打った。
「……で、エドさん」
「エドって、アンタが呼ばないでくれる」
「なんで俺はこんなところにいるんでしょーか」
ロープで胴体を巻かれ、シトラスに引きずられているギールはぼそっと呟いた。
「アンタが兄さんを助けるのは当然のことでしょ」
「そうですよ! エディス様はこんな背ともみ上げが長いだけの無能男を待ってるんですよ!」
「なんかえらい言われようだけど、二人とも俺を手伝ってくれるって事?」
一瞬顔を見合わせ、それからまたギールに向き直り、
「そーかもね」
「ま、エディス様のためですから」
「コイツのためじゃ、ないよねーぇ」
「何勘違いしてるんでしょうね、この人は」
くすくすと笑い出す。
「ま、なんにしろシメはアンタがやるんだし」
「精々頑張ってくださいよ」
「え?」
ギールが首を傾げて二人を見ると、二人は眉をしかめさせた。
「え? じゃないよ、あっちの大将はアンタに任せるって言ってるんだよ」
「負けないで下さいよ」
「ってか、ミシア少将はのん気にコイツだったら大丈夫とか言ってるけど、ホントに大丈夫なの?」
自分に向かって指を差すエドワードに、ギールは苦笑する。
「僕が戦った方がまだマシな気がしますけどねえ」
「ねー!」
乾いた笑い声を出すギールの肩を、二人は叩いた。
「ま、なんにしろ頑張ってよ」
「そーですよ、頑張ってくださいよ。負けたらエディス様取られるんですから」
「はいはい。当たり前でしょ」
縄を、服の裾に隠し持っていたナイフで切って放る。
「それが、エディーの望んでることかどうかなんて、俺は知らないけど」