白銀の少年と罪の約束を
「反軍め!」
「エディス准将を捕虜とするなど、愚かにも程がありますね」
「ああ。知った野郎共が暴れまくってる。これじゃこっちの戦力を上げただけだ」
扉にもたれかかっているシュウは黙ったままだ。
「まだリボンは暖かいわ。だから生きていることは生きてるわよ」
リボンを頬に当てて言う地を這うものの頭をぽんっとミシアが叩く。
「そうです。准将はまだ生きてるんです。ですから、私達が頑張らなくては」
「だな。アイツがすっげえ奴だからついついガキだって事忘れちまってた俺達の責任だな、こりゃあ」
「その割には無茶苦茶な命令してるけどな。お前」
ふーっとタバコの煙を吐き出す。
「無事に取り戻しませんとね。准将を」
「ああ、当たり前だろ」
「でないと少将のサボり癖がさらに酷くなって私が困りますから」
「おーい、メルサンさーん?」
くすっと強張った顔をしているミシア少将に微笑む。ガイノイドは心を揺るがさない。だからこそ、私だからこそ、支えられる。
「准将、もう後少しで貴方の」
「いってえ……」
ずきずきと痛む頭を抑え、エディスは呻いた。
「くっそ。手加減なしに殴りやがって、あの野郎」
「あの野郎ってのは酷くない? エディー」
くすりと頬笑み、背後から自分を抱く男をエディスは睨み付ける。
「別に」
「そっけないね。昔はとっても可愛かったのに」
「なにも知らなかったからだろ。昔と一緒にするな」
けっと吐き出す。気持ちが悪くて、仕方が無かった。
「一緒だよ。だって、最初会った時泣いたじゃないか。嬉しかったんだろ?」
「懐かしさがこみ上げてきただけだ」
「誰かに調教でもされたの?」
ぐいっと無理矢理顎を掴まれ、きゅっと唇を噛む。
「アイツは、こんな事しない」
「アイツ? それは、あのヴァンパイアの事か?」
「俺の知ってるアンタは、こんな奴じゃなかった!」
今までとは全く違う力の入れようでドゥルースを引き離し、距離を確保する。
「甘いな、エディー」
くすりとそれを見てドゥルースは微笑んだ。
「自分だけは変わったのに人には変わるなって? ずっと自分に優しい兄さんでいてほしかったって?」
「そこまでは言ってないが、おおよそはそうだ」
「言ってるよ、俺に優しい優しいドゥルースでいてって」
ふいっと目をそらす。
「エディス、もう昔には、戻れないんだ」
「そんなの、分かってる」
「分かってないだろ。だったら、なぜお前は軍にいた!!」
「痛い! 手を離せ!」
折れそうな程力を入れ、握られたエディスは声を上げた。
「帰ってきたんだぞ、他でもない、お前のためだけに!!」
「俺がっ、俺が軍にいたのは、もう誰も俺のようにならないためだ!」
手を強く噛み、指の先の皮を引きちぎる。
「邪魔をするなら、俺はお前を倒す」
あふれ出す血で空気中に四つ、紋章を描く。
【蒼血のガルバディスト
紫血のルルラルラウディー
紅血のアウガスディラウド
黒血のジュドウアガルバンディア
違いあう血の魔達よ
この血を欲するならば此処に来たりて我が力となれ!】
赤い血球が辺りに飛ぶ。その血を食べるかのように、不気味な塊がまとわりつく。それは、徐々に人の姿を模していった。ドゥルースはそれに表情を変える。
「俺はもう二度と、お前の物にはなれない」
「どうして俺は……罪しか生み出せない」