白銀の少年と家事の約束を
「あれ? メルサン」
「お疲れさまです、准将」
部屋を入った途端、目に入ったのは赤い髪のガイノイド。
「あーっと、俺、外にいてた方がいいか?」
「妙な詮索はせんでいい! さっさと入ってこい。用なんだろ」
エディスが玄関で靴を脱ぐと同時に、メルサンが玄関までやってきた。
「帰んのか?」
「はい。まだ仕事が残っていますので。私の仕事ではありませんが」
それでは、と頭を下げてメルサンはエディスを振り切るように去って行った。
「……相変わらず、なんだな」
ふう、とエディスは息を吐いて、
「よー!シュウ!」
それから何もなかったように部屋の中に笑いかけた。
「何の用なんだ。どうせ、面倒臭いことなんだろ」
「もっちろん! 協力してくれるよなっ?」
「聞くだけ聞いてやるから話してみろ。協力するかどうかは別だ」
「よっしゃ!」
ぐっとエディスが拳を握るのにシュウが苦笑した。
「で、何だ?」
「ああっ! 実はさー」
にっこりとエディスが満面の笑みで微笑む。
「最初はグーッ」
屋敷の中でのん気な二つの声が響く。
「ねー、あれって、何なのぉ?」
不快な顔をする地を這うものに、エドワードが顔を斜めにした。
「さあ? 僕、しーらないっ」
「じゃあ、私も知らない」
Ⅱ階の廊下で、手すりに手をついて一階を覗く二人だった。
「ジャンケン……」
最近、シトラスとギールはジャンケンに凝っていた。というよりも、それに一日を賭けていた。一日の家事の分担を決めているのだ。
「くっそー、また負けたああぁぁ」
大抵、負けるのはギールの方であったが
「それでは、風呂掃除、トイレ掃除、その後洗濯物と草むしり、よろしくおねがいしますね」
シトラスはクスクスと楽しげに笑う。なにしろ彼の分担は料理、屋敷内の掃除、食器の管理と得意分野だけだからだ。
「ねえ、そろそろこの決め方変えない?」
「いや、です」
「あー、疲れたー!!」
叫んで、ごろりと大きな庭にねっころがると、まるで猫になったみたいでいい気持ちだ。
「お疲れさま」
ひょいっと、いきなり目の前にエディスの綺麗な顔が逆向きに入ってきて、ギールはぎょっと目を剥いた。
「帰ってたの」
「おう。今日は半ドンだったんだ」
「珍しい。って、軍に半ドンなんてあるの?」
「それはそれだ」
つまりは、
「休日なのに出勤しただけ?」
じゃないのだろうか。
エディスは少し考え、バレたか、という顔を一瞬したが、すぐに真面目ぶった顔をして。
「そうとも言う」
などと言う。
「家事で疲れたのか?」
「うん、まあね」
「よし、待ってろ!」
いきなり格好良い顔をしてそう言って走り出した。すぐに戻ってきて、ギールの身体の横に放置してあった洗濯籠を抱えて、正面にある物干し竿まで歩いていき、音を鳴らさずにタオルを伸ばしてから干した。ぼーっとしていたが、その辺りで上体を起こした。エディス!? と叫びそうになったが、喉の奥に封じ込めておいた。
黒と赤のベルトだらけな特別仕様の軍服ではなく、肩まで襟があいている服を着て、黙々と作業をしているのを、背後から見ていたら。
「何か、新婚さんみたいだね」
小さな笑いと一緒に、呟きが出た。
「なんか言ったかー?」
「ううん、何も言ってないよ」
微笑みかけるとエディスは仕方ないな、という感じで眉を下げた微笑みを返した。