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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年と真紅の約束を
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白銀の少年と救助の約束を

 そして、数日後、エディスはギールの裏稼業を探るために追いかけていた。

 ダァンっという乾いた銃声が聞こえた。住宅地ではなく、人がいない場所からだ。

「チッ、早速かよ!」

 エディスは走った。黒のコートがはばたく。前方に進むと、崩れたコンクリートの山に囲まれた場所に出た。

「おいおい、何やってんだアンタら」

 ギールが地面に倒れていた。じわっと、地面に赤い液体が流れる。その前には、妖しく光る拳銃を持った男が背を向け、立っていた。

「面倒くさ」

 声に男が振り返った。目が既にいってしまっている。薬か何か、危ないものをやっているのだろうか。

「仲間なんぞいやがったのか、てめえ!」

 ゴリッとギールの頭を男が踏む。

「仲間じゃないよ」

 くすりとギールが笑う。

「ああ、仲間じゃない」

 腰に提げていた剣を手に取る。

「軍だ、投降しろ」

 鞘を放り投げ、剣を向けた。

「投降しなかったら? どうなるんだ、美人な軍人様よ」

「刑務所行きにしてやる。薄暗い中でクソ不味い飯を何年か食ってこい」

 ハハッとエディスは笑った。

「投降したら?」

「優しく、俺が刑務所に連れて行ってやる。少しは刑が軽くなるぞ」

「んー、そうだな。少し魅力的だな」

 男がエディスの顎を思いっきり掴んだ。

「つっ」

「お前みたいなのとお手手を握って刑務所デート、なーんてのは」

「なら、来るかよ」

 男の手を強く叩き、落とす。

「おい、コイツの罪は」

「暴行殺人、婦女暴行」

 ギールは血だらけだというのに、上半身を起こす。

「暴行殺人ー?」

 じっとエディスは男の顔を凝視した。

「ふーん、そんな風には見えねえんだけどな。ま、婦女暴行は分かるけど」

 へえっと呟いた後、

「で、どうすんだよ」

「そりゃーもう、決まってんだろ!!」

 ガッと男はエディスの肩を掴む。

「刑務所には行かねえよ!」

「そうかよ」

 ふーっとエディスが息を吐き出した。男はエディスに飛びかかったが、ひらりと避けられる。

「仕方ねえな」

 男が左手に持つ拳銃を殴って落とし、それをギールの所まで蹴る。

「持ってろ!」

 ギールは、近くに落ちた拳銃を取りに走った。

【護り神 此処に!】

 拳銃を掴んだギールの周りにシールドが展開され、男はそれに顔面をぶつける。エディスは駆け寄って、抱きとめた。

「もう一度だけ言うが、投降しろ」  呆れ気味に言ったエディスの髪を結っていた緑色のリボンを、男は解いた。

 なにをするんだ、とエディスは言おうとしたが、言う前に男がいきなりエディスに殴りかかってきたため、体を横に反らして避ける。目尻が吊り上った青い目で鋭く男を捕え、エディスはなんの予備動作もなく、跳び上がった。

「え……」  予想していなかった動きをした少年を、男は呆然と見つめる。エディスは膝を男の顔に埋めるように蹴った。

 そのまま地面にひっくり返った男は、笑った。 リボンを髪につけ直したエディスは、男の横に片膝を立てて座った。そして、男の顔の上に手をかざす。

 男は笑って、エディスの長い左髪を掴んで引っ張った。

「痛っ」

 と声を上げながら、エディスは自分の作ったシールドから出てきたギールが銃を男に向けているのを見て、目を見開く。

【黒の印を持って導きの陣を引く

 静まれ人 舞えよ風

 封陣解縛】

 慌ててエディスがそう唱えると、男の体は光に包まれた。男はなにか叫んでいたが、もうエディスたちに声は聞こえず、やがて消えていった。

「……大丈夫か」

 エディスはそれから、警戒するようにギールを見ながら声を出した。すでに銃は下されている。

「なんとかね」

肩からの出血は止まったのだろうか。ギールは痛くもなさそうに歩いてくる。

「そっちこそ、大丈夫?」

「俺は、別に」

パンパンとエディスの体から埃を落とすかのように叩く。

「な、なんだよ」

「あんなのに簡単にベタベタ触らせて。いけないだろ」

 ぎゅ、と抱きしめられる。

「髪引っ張られただけだろ」

 渋い顔になったエディスをそのまま抱いていたギールは、しばらくするとはっという顔をした。

「エディス!!」

「なんだよ」

 ギールは目を吊り上げて、逃げられないようにエディスの肩を掴んだ。

「約束、やぶっただろう。関わるなと俺は言ったじゃないか!」

「俺、関わらないなんて約束した覚えないんだけど」

 エディスはハッキリと答えた。

「は? あ!」

 エディスはあの時微笑んだだけで一言も発してはいない。つまりは、口約束すらしていないということだ。

「あの少将にでも命令をされたの?」

「違う」

「違うの?」

 ギールの視線から顔を逸らすことでエディスは逃げようとした。

「違うの? エディス」

 どうなの? と重ねて聞かれ、エディスは恐る恐る顔をギールに向ける。

「違うけど」

「じゃあ、なに?」

 きつくきつく抱きしめ、耳元で促す。

「……心配だったんだよ」

「俺のことが?」

「そうだ。お前のことが心配だったんだ」

 ギールは眉を下げた、なんともいえない表情でエディスの背中を撫でた。

「帰ろうか。体をちゃんと洗おう」

「ああ。……いや、待て」

 肩を掴み、抱えるように歩き始めたギールの服を掴む。

「何? どうかした?」

「少し前に住民から被害届が出ていたけど、ここにいたのは、アイツだけじゃないはずだ。他の奴を捜さないといけない」

 その囲いから抜け出し、走って行こうとするエディスをまた、ギールが抱きしめた。

「もう死んでる」

「はあ?」

「死んでる」

 同じことを繰り返して言うギールに、エディスは唇を噛んで走り出した。ギールは腕を強く掴みながら無理だ、と言う。

「まだ、間に合うかもしれないだろ!」

 どうしても敵の所に行こうとするエディスの体を持ち上げる。さーっとエディスの顔色が真っ白になる。きっと、頭の中も真っ白になってしまっているのだろう。

「冗談だよ。気絶させておいて、軍に通報しておいたんだ」

「嘘だろ」

 間を開けずにすかさず言ってきた。

よく分かっていることだ、とギールは内心苦笑する。

「信用できない?」

「アンタ、嘘つきの人種だろ。目ぇ見りゃー分かる」

 ギールは笑った。本当に、よく分かっていることだ。ギールはポケットから液体に塗れた布を取り出してエディスの口に強く押し当てた。

 にっこりとギールの口が笑みの形に歪む。強く抵抗していた体は、しばらく押さえていると力を失くしてギールの腕の中におさまった。

「君のため、だ」

 額から髪をどけ、そこに口付ける。四肢を投げ出した体を、宝物のように抱える。

「君は綺麗じゃないといけない。……彼女のためにもね」

 血だまりになっている右側の堀の方を見て、ペロリと唇を舐めた。

「それにしても、お腹が減ったなあ」

 くすくすと笑うと、そのまま背中を向け、置いて行く。空にはまた、月が昇っていた。

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