白銀の少年の嘆く魔物の約束を
ああ、日が沈んでしまう。夕陽が消えてしまう。消えないで。消えないで。僕を置いていかないで。
「くっ、うううっ」
血が口からこぼれ出していく。命が、吸い取られていく。苦しい。熱い。
「あぁ……」
ドゥルース。ドゥルース。ドゥルース。君の、ため、なら、死んでもいいと思ってた。
「怖、い」
一人は、怖い。一人で死ぬのは、怖い。
「愛して、る」
それだけ。もう、それだけしかない! ドゥルース。
「も……っう」
分かってる。分かってる。もう、君が生きていないことなんて。だって、この命さえ尽きようとしているんだから。
「ドゥー。僕、魔法つかえた……よ」
ほろんと笑みが出てきた。ドゥルースの両親から教えてもらった禁術。たとえ、彼らが僕の命を使って助かろうとしただけでも、僕は嬉しかった。
「幸せ……?」
僕は、これで幸せになれる、の?
「君、死ぬの?」
ひんやりとした手が頬に触れた。
「……うん。たぶん、ね」
口の中が血でカピカピになる。
「君も、死ぬの?」
目を開けてみたら、そこには闇がいた。闇の中で、月が揺れる。
「そうだな。死にたいんだがな」
「どう、して?」
闇が苦笑いを浮かべる。
「愛した奴が、死んだから、かな」
「愛?」
「あ? ああ、中央の離れの白い城に住んでた、忍冬って呼ばれてたお妃様だよ」
話すと、ちらりと白い牙が見えた。この闇は……人じゃ、ない?
「すい、かずら?」
「金銀花って異名があるからな。アイツの白銀の髪が光の下だと金にも見えたから、その名前で呼ばれたんだとさ」
白銀の、髪。さらりと闇が僕の髪を触る。
「名前……」
「え?」
「その、お妃様の、名前……」
「ああ! エディスだ。綺麗な名だろう?」
エディス。エディ――
「エディス、さんっ」
ぼろぼろと涙が零れる。
「お前は? 俺は……」
聞こえない。聞こえない! 聞こえない!!
「エディス」
「は?」
「エディス……僕は、エディス」
どうして今頃来るの。酷いよ、酷いよエディスさん!
「お前もエディス?」
「……そう」
「でも、男じゃ」
「くれたの。大切な、人が」
酷いよ、エディスさん。僕に生きろって言うの? 這いずってでも、生きろって?
「……生きたいか」
ううん、死にたいよ。このまま、ドゥーと一緒に死にたい。
でも、でも。
「生きなくちゃ、いけない」
せめて、君のために死にたかった。だけど、死ねない。
「じゃあ、俺の命をお前にやる」
エディスさん。僕は恨んでもいいかな?
「あり、がと……」
白い首に魔物の牙が深く食い込む。ぶつんという短い音をさせて、血が流れ出す。真っ赤な、真っ赤な。
「あ……」
熱い。熱い。熱いっ!体の中を別の物が支配する。魔物に、体を侵食される。
「……うっ」
どさりとその場に下ろされる。熱いのに、どこかすっきりとしていた。
「あ……ありがとう」
まだその場にいるだろう、闇に話しかけた。
「別に」
僕にとって、あの闇は闇でしかなかった。でも、他の闇と違った。ちょっとだけ、特別な闇だった。




