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『僕がいた過去 君が生きる未来。』本編  作者: 結月てでぃ
白銀の少年の嘆く愛の願い
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白銀の少年の嘆く親子の約束を

 記憶を遡って最初から目を覚ましてみると、いつもあの女の人が出てくる。輝く白銀の髪に、優しい蒼氷色の瞳。左耳につけられている月の形のピアス。

 いつも俺は寂しかった。誰がいても、どれだけ愛を捧げられても、どれだけ愛を囁かれても。

 だって 何時かは皆 行ってしまうに決まってるから。


「そう。にーっと! そー、かーわいっ!」

 ぎゅっと握りしめてくる。ふくふくろした柔らかい胸に顔を埋めながら僕は笑った。

「もっと綺麗で可愛くなって、いい人の所に行くのよ」

「うん!」

 ここは国の中で最も汚らしくて、欲望にまみれた場所。毎日ぶくぶくとふくらんだ金持ちが気に入った人間を金で買う。その金ほしさにギラギラとした目を商人達が光らせる。その下では、ただ、ただ少しでもいい人にと願う商品。

 奴隷市。それがこの場所を記す名前。

「可愛いから、君はきっと高く売れるわ」

「うん。ありがとう!」

 その奴隷市でも特別に綺麗な商品が作られる家。僕はそこに住んでいた。

「いい奴隷は頭も良くなくちゃ! さ、お勉強の時間よっ」

「ええーっ!?」

 そして、そこにエディスさんも、住んでいた。



 僕はエディスさんの歌が好きだった。エディスさんの澄んでいる、だけど大輪の甘い薔薇のような声が好き。歌っている時のエディスさんの優しい目が好き。優しくて綺麗な、エディスさんが好き。

「エディスさんが歌ってるの聞くの、僕好きっ!」

 ある日、僕がそう言ったら、エディスさんはこう言ってくれた。

「なら、一緒に歌いましょう」

 って。獣みたいに鋭い目で僕を見て。

 それから繰り返し繰り返し、毎日歌を覚えて、毎日勉強して、毎日綺麗になるために体を磨いて、毎日、ご主人様に気に入られるための勉強をした。そうして、繰り返し、僕はエディスさんと暮らした。

 やがて、僕の髪が腰までとどく様になった時、僕は変わる事になった。


 その日のエディスさんは変だった。そわそわと落ち着いていなくて、よく僕の髪とか顔を撫でた。まるで忘れずに覚えていようとするように。まるで確認するように。

 ひときわ大きい人の歓声が聞こえたとき、人が来た。その人がエディスさんを目で捕らえたのを見て、僕はやっと理解した。エディスさんが、遠くに行ってしまうのだと。

「エディスさ」

「エディ……エドワード!」

 僕が吹くの袖を掴むより早く、エディスさんが僕を抱きしめる。

「ああ!できれば貴方も連れて行きたかった! エドワード……私の」

 蒼い瞳がゆらりと波打つ。

「私の、息子」

 お母さんとは言えない。言ったらダメだったんだと思う。とにかく、僕は黙って堪えていた。

「あの歌を、舞台に上がる時に歌いなさい。そうしたら、お父様が迎えに来るから。いいわね。絶対にお父様、この国で一番偉い人が貴方を六歳までには迎えに来るから」

「エディスさん……」

 目の周りがあつくなって、エディスさんがぼやけてくる。

「エドワード。エドワード・ティーンス。それが貴方の名前よ。いい? 覚えておくのよ、しっかり」

「うん」

「だけど、これからは私の名前を。エディスを名乗りなさい。いいわね?」

「……うん」

 ぎゅっとその胸にとびついていく。柔らかくてあったかい。甘いお花の匂いがする。

「エドワード。愛してるわ。だから、這いずってでも生きなさい」

 あたたかさと匂いが離れた。それに目を上げても、もういなくなっていた。

 母を思うには十分な時間だった。でも、母を知るには、足りなかった。

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