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皆殺しの剣  作者: ktr
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第二話 水の都

私達は、水の都と呼ばれる街ウォタについた。

そこは湖の上にある都市で、白い石レンガの綺麗な街並みに、大きな教会がシンボルだ。

水路が張り巡らされ、船が生活の一部となっている。

観光地としても有名で、特に年に1度あるお祭りの時期は非常に盛り上がる。


タイミングを調整したので、今日がそのお祭りの日だった。

着いたのが昼過ぎなので、少し遅刻だったが、メインイベントである鎮めの儀には間に合ったので問題は全くない。


人混みの後ろから舞台を眺めると、都市の中央にある円形の舞台に、年齢、性別バラバラな10人程の人間が座り込んでいるのが見える。

また、生きた鶏や牛などの家畜が檻に入れられ祀られているようだ。


やがて時間になると、どこからともなく声が聞こえる。


「これより、鎮めの儀を始めます」


音楽が流れ始め、同時に湖から噴水のように水が噴き上がり始めた。

音楽に合わせて10人がすっと立ち上がると、それぞれ違う踊りを踊る。

水飛沫がキラキラと舞う中、様々な色のヒラヒラとした服を着て踊っている姿はなかなかに幻想的だ。


暫くの間踊っていたが、その中の1人、白い服を着た女性が踊りを辞め、棒を拾って構える。

すっと振りながら「湖よ鎮まりたまえ!」と叫ぶと、10人はその声をきっかけにその場にパタパタと倒れた。


バーン!という大きな音を最後に音楽が止まり、暫し訪れる沈黙。

そして、湖から噴水のように上がっていた水が時間と共に収まって行き、再び沈黙が訪れると、どこからともなく声が聞こえる。


「これにて鎮めの儀は終了にございます」


舞台にいた10人が立ち上がり、礼をする。同時に拍手が巻き起こる。

私も合わせて拍手をするが、ロウは興味がなかったのか手を叩きながら欠伸をしている。


儀式が終わった後は、祭壇にいた鶏や牛を捌き、料理が振る舞われる。

ロウは、先程の退屈そうな態度はおくびにも出さず、堂々と料理を受け取りに行き、取ってきた料理を私に押し付けると、また並びに行った。

こいつは…


さて、この儀式を取り仕切っているのはこの国の殆どが信仰している宗教、水神教だ。

私達は観光の延長で教会を見に行った。


教会は、この街で一番大きな建物なので、迷うことはない。

敷地内に入り、建物まで行く途中の道を見ると、色々な石像があるようだ。

歩きながら、石像を見て行くと、蛇、鰐、蛇、蛇、蛇、蜥蜴、蛇、蛇、龍、蛇、と、色々な…色々な…

前言撤回、少し…いや、かなり偏っている気がする。

不思議に思い、私が石像をマジマジと眺めていると、突然声をかけられた。


「どうされましたか?」

観光ガイドで見たことがある見事なハゲ頭は水神教の教主その人だった。


「えーと…」

「蛇が多いですか?」

「はい、そんな感じです」

「水神様は蛇の姿を模っていると言われているのですよ」

「ああ、なるほ…ど…?でも、蛇以外もありますよね?」

「伝承には色々と尾ひれがつくもので、手足があった、羽根があったなど、色々な話が残っています。共通しているのは、少なくとも爬虫類ということですかね」

「なるほど」

私は、改めて石像を眺める。

ロウは立ち止まった私に気付かず先に行ってしまっていたが、建物の近くで気付くと引き返してきた。


「本日は、鎮めの儀を見に?」

「ええ」

「お楽しみ頂けましたか?」


戻ってきたロウが代わりに答える。

「料理は美味かったな」

「もう!…すみません」

「いえいえ、お楽しみ頂けたのなら何よりです。実の所、私もあの料理は自慢なのですよ」

うん、確かに美味しかった。それは間違いない。


「ところで、あの儀式にはどんな意味が?」

「今は我々が信仰を捧げていることもあり、めっきり減りましたが、昔は湖が荒れることがよくあったみたいでしてねぇ…そういった時は、10人前後の人間と家畜を生贄に捧げて収めていたらしいのですよ。流石に今は生贄はなくなりましたが儀式は形を変えて継続している…と、こういうことです」

「こんな綺麗な湖なのに…」

「まぁ、昔は整備もされてなかっただろうしなぁ」


2人して湖を眺める。


「ところで旅の方、かなりの手練れとお見受けしました。この老人のお願いを聞いてくださいませんか?」


私とロウは顔を見合わせる。


「なんでしょうか?」

「実は、近年この街では神隠しがあるのですよ」

「神隠し…ですか?」

「ええ、市民もすっかり怖がって怯えております。そこで調査と…出来れば、解決をお願い出来ないかと」


ロウは顎に手をやると、教主を値踏みするように眺める。


「ふーん…で、解決した場合の見返りは?」

「ちょっと、ロウ!」

「慈善事業じゃないんだ、正当な要求だと思うが?」

幼馴染みに普段から鋭い目付きで更に睨まれた、ちょっと怖い。


「そうですな…報酬はこれくらい、前金で3割、成功報酬が残り7割では、如何かな?」

「…期間は?」

「3ヶ月としましょう。費用は前金から使ってください」


私も頭の中で電卓を叩くがこれは…


「破格だな」

「それだけ私共も頭を悩ませているということです。ないとは思いますが持ち逃げした場合、ギルドに申し入れしますので悪しからず」

「冒険者として、3ヶ月縛られるのは痛いわね。すぐ解決した場合はその時点で終わっていいの?」

「勿論です、それで如何ですか?」

「ロウは、どう思う?」


ロウは腕組みをして暫く考え込んでいたが、結局…

「任せる!」

と、私に丸投げした


「うーん、路銀も心許ないので受けましょうか」

「おお、そうですか。ありがたい。では、前金です」

教主は穏やかな笑みを浮かべ、金貨の入った袋を差し出してくる。


「では、善は急げだな行くぞ」

ロウは、ひったくるように袋を掴むと教会の外へ歩き出す。

「朗報期待しててください」

私は、教主に頭を下げると、慌てて幼馴染みを追いかける。


「ええ、楽しみにしています」

手を振る教主に見送られながら、私達は教会を後にした。



さて、捜査と言えば聞き込みだろう。

そして、情報と言えば、酒場とギルドだ。


ロウは酒場、私はギルドへと向かい、聞き込みを始めた。

聞き込みを続ける内に、幾つかの共通点が判明する。

2人で情報を持ち寄って整理した。


神隠しは老若男女対象を問わないが、身寄りのない者が大半。

大半と言っているのは、一家まるまる消えてしまったケースもあるためだ。

また、目撃者が全くいない。

1人でいるところを狙われるようだ。


「つーか、これ闇奴隷商かなんかじゃね?」

「それなら、水神教でも調べがつくんじゃ?それに、今まで調査してきた冒険者が手掛かりすら掴めないのもおかしいわ」

「んー、それもそうだな…」


更に、暇そうにしている門番や若者などに聞き込みを続けると、新たな事実が判明する。


一つは、冒険者の神隠しも多いこと。

一つは、神隠しの事を調べている者は例外なく神隠しにあうこと。

そして一つは、強さは定かではないが勇者候補ですら神隠しにあったことがあること。


「あの、狸爺め…わざと黙ってやがったな!何が楽しみにしていますだ!危険度が全く違うじゃねーか!」

「あの条件だから、何かしらあるとは思ってたけどねー」

「ぐぬぬ…まあ受けたもんはしゃーない、やるぞ」


更に更に、聞き込みを続ける。


水神教の教徒は基本的に神隠しには合わないそうだ。

素行の悪い信者は対象になることがあるため、神の怒りだと恐れているとのこと。


また、神隠しの情報ではないが水神教の気になる話もあった。

ここ数年はないが、水神教の信者が減ると湖が荒れることが多かったらしい。

それも信者が増えると、はかったようにピタッと止まる。

しかし、そんなにタイミングよく?

それも神の怒りだというのだろうか?

「なんか怪しいわね…」


待ちでの調査に行き詰まりを感じたので、水の都から少し離れた森まで捜査の手を広げた。

神隠しにあった勇者候補が最後に行った場所だという。


森に入って、ロウと別れ、1人で歩いていると、いきなり7人の男に囲まれた。

「へっへっへっ、いけねぇな。姉ちゃん。こんな所を1人で歩いてちゃ」

「そうだよなぁ、何をされても文句は言えねえよなぁ」

残りの6人が、ゲラゲラとゲスい笑い声を出す。


「あら、何をされちゃうのかしら」

人差し指を顎に当て、首を傾げる。


「とってもいいことだよ」

赤黒く光る玉を取り出す、あれは…


「魔法封じの玉なんて、その辺のゴロツキが入手出来るものじゃないわ。あなた達は一体…?」

「おっと、これを知っているのか。とある方から依頼されててな、何、心配せずとも、すぐに仲間の男とも合流出来るさ。俺たちがたっぷり遊んだ後にな」

「まさか、ロウにも…?」

「ああ、倍の人数を行かせている。魔法封じの玉も持たせてな」


「へぇ、魔法封じの玉を持って、倍の人数で」

「正確には15人だがな。まぁ、運が悪かったと思って諦めるんだな」

「ええ、本当に運が悪いわ…」


片手で顔を覆い、首を横に降りながら溜息をついた。


「あなた達が」


瞬間、ロウが木の上から、降ってくる。

その勢いのままに大剣を振るい、男の1人を真っ二つに唐竹割りにした。

突然の出来事に、呆気に取られている隙に、ロウは大剣から両手を離すと、右手で左腰のナイフを掴み、左手を右腰のポーチに突っ込む。

右手を右に振るうと、1人の男の両目にナイフが生え、

左手を左に振るうと、引き抜いた手に握られた剣の塚のようなものが一瞬で伸び剣となり、1人の男の首を飛ばす。

ここまでされて、ようやく事態を把握した男達が、応戦しようと振り向いたので、

私は普通に駆け寄ると背後から魔剣で心臓をひと突きした。

私からも攻撃があるとは思っていなかったのか、前後から襲われ狼狽する男の喉に魔剣を突き込むと真横に振り抜く。

恐らく、この中で最も強いであろう男が、私の背後から斬りかかろうとしているのは分かっていたが、

彼がいるので完全に無視しつつ、目にナイフが生えた男の首を跳ねに行く。

終わって振り返ると、ロウがリーダー格の男を捕縛する所だった。

私に斬りかかろうとした男は、既に上半身と下半身に分かれて横たわっている。


「さて、興味深い話をしていたな」

「ええ、かかった魚は大きいかしら?」

私は、にっこり微笑んだ。


週1更新くらいにしたい(願望

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