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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

アカイレイ (吹奏楽部)

作者: 萩原 サユリ

1⃣

放送でオルゴールが鳴っている頃は、辺りは闇に包まれており、彼女達以外、誰も居なかった。外からは雨と雷の音が聞こえている。そんな中、彼女達は、2階の東側にあるトイレに行った。廊下には窓1つ無く、橙色の光だけが道しるべとなる程暗かった。トイレに着くと、

「幽霊出そうじゃない?このトイレ」

と、黒沢由香梨は言った。

「やだ…そんな事言わないで、怖いじゃないの」

木々田綾乃は声を潜めて由香梨の横腹を肘で突ついた。

この2人は咲吹幸中学校1年だ。2人共、吹奏楽部に所属する。

「でも、此処で自殺した人、居るって噂だよ」

「噂でしょ?そんなの迷信に決まってるわ」

「そうかなぁ?あたし、居るって信じてたけど…あら?ねっ、綾乃、見て…赤いシミ」

「えっ?」

由香梨が指差す所を見ると、確かに赤いシミが1つ、トイレの壁にある。

「何…よ、これ…」

「絵の具かな…?血みたいな赤色ね。ま、この廊下の突き当たり美術室だから、きっと絵の具ね。でも、気味悪い。さっさと出よう」

「そうね」

2人は出た。ドアの影にいる少女が、彼女達を見つめているとも知らずに…。

2⃣

翌朝、朝のホームルームの時間に、担任が新入生を紹介した。

「今日からうちのクラスに入る赤石霊さんだ。赤石さん、皆に一言」

「…赤石霊です。好きな色は赤です。宜しく」

霊は不吉な笑みを浮かべた。その時、由香梨と綾乃は背筋が凍ったような気がした。だが、2人は知らなかった様だ。霊が不吉な笑みを浮かべた瞬間、自分の上履きが真っ赤に染まった事を。

3⃣

放課後、2人は部室である音楽室へ行っている途中、奇妙な物音を聞いた。まるで扉を叩いている様な、蹴っている様な音だった。

「行って…みる?」

「うーん…そうね…」

音の正体を知ろうと、トイレに向った。

そこは相変わらず暗かったが、無視した。しかし、いつ何が出てもおかしくない状態だった。

1番奥の個室の扉だけ閉まっている。ここに間違いない。由香梨は少し大きな声で、

「誰ですか?名前、言ってください」

少し間があり、相手が返答した。

「…、黒沢さん?」

何と、赤石霊だった。

「赤石さん?!」

「その声は、木々田さん?」

「うん。そこで何してるの?」

「あ…紙が無くなってたから…」

「なぁんだ、じゃ、さっきの音は赤石さんだったのね」

「さっきの音?ああ、そうなの。ごめんなさい、驚かせましたか?」

「ううん。赤石さんで良かった。幽霊だったらどうしようかと思ってた」

と言う感じで事件は解決!したはずだったが…

4⃣

「今日から入部しました、赤石霊です。パートは、クラリネットです。宜しくお願いします」

それを聞いた2人は吃驚してしまった。由香梨のパートはホルン、綾乃のパートはトロンボーンだ。一緒に練習をしていると、不意に霊が第2音楽室の中を見回し、

「あの、どうしてここにはフルートが無いんですか?」

由香梨と綾乃は顔を見合わせ、

「そう言えば、無いね」

「うん。聞いてみる?」

という事になった。顧問の高木瑞穂に理由を聞くと、断られた。しつこく頼むと、渋々話してくれた。

「あなた達には知って欲しくなかったんだけど…。これ、絶対に秘密よ?丁度13年前、フルート担当の生徒に起きた悲劇…」

瑞穂は首を横に振りながら言った。

5⃣

1998年10月18日。音楽室から、フルートの奏でる音色が響いていた。

この日の完全下校時間は6時。しかし、今の時刻はその時間より2時間程過ぎている。彼女は壁の時計に目をやり、呟いた。

「あ…もうこんな時間。そろそろ帰らないとな…」

急いでフルートを片付け、階段を降り、昇降口へ向かうために職員室の前を通ろうとした。すると、中から何やら物音が。そっと中に入り、電気を付けると、そこには黒い服を着た中年男性が学校の大切な書類をあさっていたのだった。

「あっ!」

思わず声を出してしまい、慌てて口を塞いだが、遅かった。男性は振り向き、彼女の方へ歩み寄って来た。

「貴様…見たな?」

彼女は怖くなり、一目散に家に帰ってしまった。帰っても警察には連絡せず、そのまま寝てしまった。そのせいで、書類は奪われてしまった。

翌朝、学校中は大騒ぎになった。目撃者は進んで申し出る様に全校集会で言われたので、彼女は昨夜の事を包み隠さず話した。が、先生達は彼女を責めた。なぜあの場で警察に連絡しなかったのか、厳しく言った。部活でも、イジメられ、仲間外れにされた。先生達からの信用も失った。その事件から1年後。まだイジメは続いていた。しかし、あの時よりも、もっと深刻な物となっていた。そんなある日、部活の仲間に言われたある一言が、彼女の胸に突き刺さった。

「あんたなんか、死んじゃえばいいじゃん」

そう言って、カッターナイフを渡された。彼女は辛かった。そして、1999年12月5日、遂に彼女は決心をした。

皆が帰った後、学校の東側にあるトイレに行った。そして1番奥の個室に入ると、大好きだったフルートを吹いてみた。静かなトイレに、綺麗な音が響く。彼女は涙を流しながら、フルートを大事そうに頬にすり寄せた。これが最後だと思うと、まだ死にたく無いと思う。が、もういじめられるのは御免だ。そう。生まれ変わってからまた吹けばいいじゃない。そうよ。涙を拭い、カッターナイフを取り出した。それを首筋に当てた。ヒヤリとした歯が触れると、手が震え出した。

「ごめんなさい、お母さん、お父さん。私、もう我慢できません。ごめんなさい…」

そう呟くと、一気に斜めに引いた。冷たい氷が、首の皮膚の上を通る感じだった。意識が薄れて行く中、月夜にキラリと光る銀色のフルートが見えた。それから、暗闇の中へと沈んで行ったーー

死んでいる彼女を見つけたのは、翌日の放課後だったと言う。彼女の口元は、微かだが、笑っていた。

それからが問題だった。彼女のフルートは無事だったのでそのまま使ったが、そのフルートを吹いた人は、必ず、死に追い込まれた。それはまるで、彼女の呪いの様に…それきり、無くなった。

6⃣

「そんな事が…」

「ええ。本当に可哀想な話よ…さ、部活に戻って」

「はい」

2人が職員室を出て行った後、瑞穂は呟いた。

「その自殺した生徒、赤石さんに似ているのよね…まさかね。何考えているのかしら、私。さあ、仕事仕事」

練習に戻った2人は、さっき聞いた事を霊に話した。

「ふーん…その自殺した生徒の名前は?」

「聞いてない」

「そうですか」

「でも、本当かな?」

「いつだって綾乃は信じないんだから」

「だって、出来過ぎてるよ。それに死ぬって…証拠が無いじゃないの」

「そうだけど。ね、赤石さんは信じる?」

そう言って霊の方を見ると、彼女はいなかった。

「あれ…?さっきまで…」

「どこ行ったんだろう?」

「トイレかな?」

「だろうね」

その時、顧問が集合と言った。

「先生、赤石さんがいないので、探して来て良いですか?」

「じゃあ…お願いしようかしら」

2人は階段を降り、探した。が、一向に見つからない。

「帰っちゃったのかな?」

「うーん…」

そう言った時、

バン!バン!バン!バン!

手の平で思い切り扉を叩く音が聞こえた。それは、トイレの方からだった。

「誰だろう?」

「行ってみよう」

トイレに入ると、ピタッと音が止んだ。

「ねえ、私怖いよ」

「行ってみようって言ったのは誰?」

「私だけど…」

「しっ!ここみたい。鍵は…掛かってないよ。開けるね」

由香梨は扉を開けるとーそこには何もいなかった。

「何だ…何もいないじゃん。ほら、戻ろう?」

そう言って、後ろを向いた瞬間だった。由香梨はその場に凍り付いてしまった。綾乃の後ろには、真っ赤な幽霊が立っていたのだ。

「どうしたの?由香梨」

「う、後ろ…」

「後ろ?」

綾乃は後ろを向くと、悲鳴を上げた。

「ゆ、幽霊!!」

「きゃあ!」

そのまま出ればいいものを、個室の中に入ってしまった。由香梨はその幽霊をじっくりと見ると、語りかけるように言った。

「赤石さん…?まさか、13年前に自殺した生徒って…」

「そう。私よ」

幽霊が言った。綾乃はえっ、と小さく驚いた。

「私ね、死んで、自分の責任から逃げようとしたの。まあ、実際こんな事して逃れらる筈ないけど。でも、この道を選んだ。何故だと思う?…怖かったから、よ。例え許してもらえても、その後、果たして普通通りの生活が出来るかって、怖かったの…」

そう言って、不吉な笑みを浮かべた。本当に、体が凍りつくような笑みだ。赤石ーではなく、真っ赤な幽霊は続けて、

「死んだ直後は良かった。あ、私死んだんだ、これでみんなからいじめられずに済むって思った。フルートは、生まれ変わったら吹けるしいいやって。だけど…後からね、考えたの。次に人間に生まれ変われる可能性はどれ位なのかなって。そして、気が付いた。もしかしたら、次は犬になっているかも知れない。他の国の住民かも知れない。いや、もう生まれ変われないかも知れないって。そこで初めて後悔した。死ななければよかったって思った。もう…フルート、吹けないかもって…さみしいの。誰もいないから。真っ暗な部屋に、私1人で、話し相手もいない。それに…」

霊は個室に入ってきた。2人は抱き合って、隅っこに縮まった。

「羨ましいの」

霊の顔が、一気に別人のようになった。怖くて、綾乃は泣き出してしまった。

「楽器を吹いて、笑って、部活を楽しい楽しいってやってるあんた達がね。私の不幸も知らずに、ニコニコして、みんなで色々話して…私もそうしたかったわ。でも、周りの人がいじめるんですもの、出来ないわよね?ずっと味わってきたこの孤独を、分かってもらえる人なんで誰1人いないんだからね?」

いつの間にか、霊の手にはカッターナイフが握られていた。それを見て、流石に由香梨もゾッとした。

霊がカッターナイフを振り上げた。

「私1人だけ痛い思いするのは不公平よね…?まずは、後ろにいるあんた。私と同じ苦痛を味わいなさい…」

カッターナイフの刃が綾乃の首に刺さる。綾乃は目を大きく見開き、その場に崩れる様に倒れた。

目の前で友達が殺された…由香梨はショックで立ち尽くした。霊が由香梨の方を見て言った。

「さあ、次はあなたよ…

由香梨は狭い個室の隅に寄った。壁にピッタリと背中を付け、迫り寄って来る霊を見た。失望と恐怖が混じり合い、心臓が激しく脈打つ。

「やめて…赤石さん。やめてーー」

首の皮膚の上を、冷たい氷の刃が通った。と思ったら、燃えるような熱さ。徐々に痛みが湧いてきて、由香梨は目を見開いた。霊はニヤリと口元を歪め、由香梨の耳元で囁いた。

「ーーまた生まれ変われるわよ、ねぇ?」

その声も聞こえたかどうか、定かであった。

死んでいる2人を見付けたのは、それから1時間も後であった。

初めての投稿です。この話は、私が小説を書き始めてからすぐに書いたものです。ですから、たまにおかしいところがあったでしょう?「何だ、この小説は!!」と思われる方がおられましたら、すみません。温かい目で見て下されば幸いです。ご閲覧、ありがとうございました。今後とも宜しくお願い致します。

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