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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
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財布でショッピング

 まずはショッピングモールで昼食後、紫の買い物は始まったんだが……。


「田辺さんこっちも絶対似合うから、着てみて~」

「佐倉さん、もう勘弁してください……」


 紫が音をあげるのも無理はなかった。ショッピングモールのほとんどの店を覗いては、次々と試着を要求する美咲に、紫はお得意の愛想笑いが引きつっている。

 紫~。被ってる猫が脱げかかってるぞ~と言ってあげたい。


「美咲ちゃん楽しそう」


 なんともピントのずれた事言ってるのは、真宮だ。

 大量の荷物を持たされて、小柄な体をユラユラさせながら、顔はヘラヘラ笑ってる。


「うん。このミュールもよく似合ってる。サイズも問題なし。お買い上げ決定」


 かってに断言する美咲。仄暗い笑顔を浮かべて俺に近づいてくる紫。


「柾木先輩。お願いします」


 上目使いぶりっこモードの紫に、悪寒がはしった。


「うん。買ってくるね」


 さっさと退散すべく背を向けると、背後からボソッと声が聞こえた。


「財布先輩がんば!」


 男以前に人として扱われてないなんて。さすがに腹が立って何か言ってやろうと振り向いたら、いきなり紙の束を突きつけられた。

 手書きの細かい文字でびっちり書き込まれたのは、服やバックなどの名と数字。


「いじめ被害で使用不能になった品物とその金額のリストです。ついでに精神的苦痛に対する慰謝料も書き出しておきました」


 ひとつひとつの値段は慎ましやかな生活をしている紫らしいのだが、はんぱない量を一円単位で余すことなく書き込まれたリストに、執念を超えた恐ろしさを感じる。


「私からの提示金額は以上ですが、申し訳ないという先輩のお気持ちでさらに上乗せでもいいですよ。気持ちはプライスレスですよね」


 プライスレスの使い方間違ってるし。しかも愛想笑いのまま、金出せおらぁのどす黒いオーラを漂わせて脅された。


「最後の良心で先輩の敬称だけは残してあげます。財布先輩」


 つまりお前の金にしか興味ねぇんだよって事だね。

 今日の紫はかなりの戦闘モードだ。全力で俺のやる気をそいで、二度と近づいてこないようにつぶしにきている。

 紫が金持ちに嫉妬するのとは反対に、俺は金目当てで近づく人間を虫以下ぐらいに軽蔑している。

 だからこそこの財布扱いは今までで一番キツい攻撃だった。

 本人も嫌ってくれとばかりにこんな嫌がらせしてくるのだ、こんな女嫌いになってしまえばいい。


 だけど何故だろう。彼女を諦められない。

 なかなか落ちない女に意地になってるだけなら、軽蔑するような事をしてきたんだ。止めてしまえばいい。

 でもきっと紫への気持ちは、単に意地の張り合いだけじゃない。確実に俺の心に根を張り、蝕み、苦しませる。


 もう引き換えせない所まできてしまったのだ。



 ショッピングモール内の店を見尽くして買い物はやっと終わった。荷物持ちの男二人係りでも、抱えきれないほどだ。


「車とはいえ、軽だからこんなに載るかな?」


 俺がぼやくと、美咲は自信満々に言い放った。


「トランクあるし、後部座席女子二人でゆったりだから詰め込めるし、助手席の真宮先輩もコンパクトだから大丈夫です」


 男なのにコンパクトと言い切られ、しかも当たっているため真宮は盛大に落ち込んでいた。


「じゃあ次はお着替えしましょ」


 爛々とした目で闘志を燃やす美咲に、紫は後ずさりしたが、体格差でみごとに捕まった。


「じゃあ商品は全部置いてってください。待ち合わせはトイレ前で」

「了解」


 思わず敬礼したくなる勢いで、同意した。あの悲惨な勝負服の紫を変えてもらえるならありがたい。


「行くぞ。真宮」

「えっ。待ってなくていいんですか?」


「服類だけじゃなく、化粧品や整髪料さらには持ち運び用のコテまで買ってたからな。まあ軽く一時間はかかるんじゃないか?」

「……」


 天然な上に女に疎い真宮では、まったく理解不能だ。


「だから時間つぶしに行こうぜ」


 普段男っぽい服装だが、美咲の選ぶ服のセンスは間違いなかった。さすが女子高育ち。出来上がりが楽しみだ。

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