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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
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華麗なる勝負服

 今日の予定はショッピングモールで買い物後、紅茶専門店でお茶だ。


 どちらも駅から遠いため、レンタカーを借りてきた。なぜ家の車を使わずにレンタカーにしたかというと、紫の機嫌を損ねないためだ。

 紫の家は経済的に不自由らしく、そのせいか逆に金持ちへの反感があるようなのだ。俺が嫌われている原因の一つだと思われる。

 家の車のような高級外車できたら、『このブルジョワめ!』と睨まれる。たぶん。

 だからわざわざレンタカーで国産小型の一番地味な車を選んだ。4人を運ぶだけならそれで十分だ。


 待ち合わせの駅前ロータリーはすいていて、多少止めておいても問題なさそうだった。安全運転で止めて車を降りようとした所、近づいてくる人に気づいた。


 真宮拓海だ。

 小柄な体で俺に向かって一目散にかけてくる。犬っぽいよなこいつ。

 顔も童顔だし、くるくるまわる表情とキラキラした瞳はまるでチワワだ。

 女の子だったら懐かれて嬉しいけど男だしな……とつい心の中でため息をつく。だって他のメンバーは女子2人なのに、一番に嬉しそうに駆け寄ってくるのが男って……せつない。


 俺は車を降りて、駆け寄ってくる後輩に軽く挨拶した。


「おはようございます。先輩」


 律儀に深々とお辞儀つき。着ていたパーカーのフードがずり落ちて、前が見えなくなって慌てている。

 まごうことなき天然だ。男が天然で可愛くてどうする。


「他の子達は?」

「あっちに…」


 まだフードと格闘しながら、首を回した。真宮の想い人、佐倉美咲だった。

 美咲は真宮と正反対にすらりとしたモデルのような長身だ。すっきりとしたショートの髪で切れ長の瞳ときりりと引き締まった口元が凛々しい。

 確か中学高校と女子校育ちと聞いているが、さぞかし同性にモテただろう。

 真宮と並ぶとまるきり男女逆転カップルだ。


 今日の彼女の服装は、Gジャンに黒のキャミソール(小さくワンポイントリボンつき)。下はかなり短いショートパンツにミュール。もちろん生足。

 じろじろ見ては失礼だが、つい目がいってしまいそうなほど、長くて綺麗な美脚だ。

 ボーイッシュにまとめてきたが、ちゃんと自分の売りがわかってやってる勝負服だ。

 まあ肝心の真宮が天然だから、気付いているのかわからないが。


「田辺さんは?」


 やっぱりオシャレした女の子はいい。紫も可愛い服だといいなと期待して、あたりを見回した。


 見つけた瞬間目をそらしたくなるほど、強烈なインパクトだった。

 Tシャツ、ジーンズ、スニーカー。地味だ。しかもただものではない。

 Tシャツのプリントは某有名キャラのバッタモノ。しかも何度も洗ったせいか、襟周りがクタクタだし、他の色物と一緒に洗濯しちゃったみたいな、まだらにあわいオレンジ色。

 ジーンズはもともと安物のやぼったいシルエットのジーンズを、やっぱり長年使い込んだせいかまったくオシャレでなく色落ちして、サイズも伸びきってユルユルだ。

 そしてスニーカーは……もともとそうとう履きつぶして、クタクタな上に、ペンキでもかけられたような感じ。たぶん本当にいじめでペンキかけられた被害品だろう。痛々しい。


 頑張ってオシャレしたのが伝わるのは、左手首の幅広のブレスレットのみ。それもプラスチック製で子供のおもちゃのような安っぽいものだ。


 そして極めつけはバック。大きな紙袋ひとつだ。

 しかもこれがファッションブランドのオシャレな紙袋ならまだいいが、某有名チェーンスーパーの紙袋で、しかも補強のためのガムテープつき。


 これは狙ってやってるとしか思えない。大学の時の私服の方がまだましだ。


 逆勝負服か? むしろ絶対デートだと思わせないための、本物の勝負服かもしれない。


 俺は引きつった笑みを浮かべて固まる。真宮と美咲だって紫に微妙に目をあわせないようにしてるし。

 まるでガッツポーズでもしそうなほど、嬉しそうな笑顔を浮かべた紫。


 やっぱりわざとだな。おまえ!


 しかしあえて口ではつっこまず、みんなを車に誘導した。


「じゃあ助手席、真宮で後部座席女子2人ね」

「ちょっと! 待ってください。先輩」


 真宮が慌てて抗議した。まあ……デートならカップルで隣になるものだが、紫が素直に助手席に座るわけない。美咲を助手席に座らせるわけにはいかないから、無難に真宮だろう。


「行きは俺が運転するけど、帰りは真宮代われ! だから助手席で道覚えろ」


 適当な言い訳で真宮を軽くあしらって、車に乗り込んだ。


 運転に集中しながら、時々ミラーで後部座席の様子を確認する。

 女子2人は気まずい空気で、目をそらしていた。まあ美咲は真宮と紫の仲を疑っててライバルと思ってるんだろうから、難しいのかな……。

 先に動いたのは紫だった。紙袋から何か取り出して、美咲に渡そうとしていた。


「美味しいよ」


 おお! スイーツお裾分け作戦か。女子のコミュニケーションの定番だな……と思って、紫が渡そうとした物を見た瞬間、うっかりハンドルが滑って車が軽く蛇行した。


「先輩危ないですよ! 運転に集中してください」


 隣の真宮からまっとうな突っ込みが入る。でもあれ……鼈甲飴だよね。女子学生のスイーツお裾分けじゃなくて、おばあちゃんのお裾分けになってるよ。

 いかんいかん。運転に集中だ。


 真宮に道案内をしながら、極力後部座席をみないようにしていた。

 もうそろそろショッピングモールかなという頃、ちらっと後部座席を確認したら、いつの間にか2人が仲良さそうに話をしていた。

 うまくいって良かった。と思ったら紫の視線を感じた。何か企んでいそうな怪しい笑顔だ。


 ヤバい目をそらさなければ、と思ったが、その前に紫は紙袋から水筒をとりだした。今時のオシャレでエコなデザインタンブラーではない。昔懐かしの水筒だ。

 取り外した蓋をコップ代わりに、水筒の中身を注いだ。

 それを目にした瞬間、盛大にハンドルが滑って、先ほど以上に大きく車が蛇行した。


「先輩本当に危ないですから、前見て」


 いや待て、俺に代わって紫に突っ込み入れてくれ。なんだあの沼からすくってきたような、ドドメ色の液体は。

 紫は平気な顔して飲んでいるが、中身が、気になる。見た目の凶悪さで言うなら青汁よりも恐ろしい。

 しかし俺はドドメ色ドリンクの謎をとけぬまま、目的地へたどり着いてしまった。

ドドメ色のオリジナルドリンク。これは実話です

高校時代の友人がお弁当と一緒に毎回持参してました

しかも空のペットボトルに詰めてたから、色が丸わかり

毎回微妙に色が違う所がまた気になる感じでした

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