表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
5/203

反撃の第3ラウンド

 マメにお手紙アタックは続けていたが、いっこうに二人の仲は進展しない。

 そろそろ新しい作戦を考えなければと思いつつも、彼女に付け入る隙はみじんもない。


 半ばあきらめかけていたところ、突然チャンスはやってきた。


 ひともまばらな学生食堂の片隅に彼女がいた。

 遠目には何かレポート用紙のような物を、食い入るように見つめているようだ。

 図書館でとろけるような笑顔で、本を読んでいたのとは正反対の、青ざめて余裕のない様子は珍しい。

 レポート用紙に集中していたせいか、俺が間近に近づいてもまったく気づいていなかった。

 俺は後ろからレポート用紙を覗いた。それは英語のレポートだったが、あまりにひどい点数に思わず絶句してしまった。


 さすがに真後ろに立たれて、紫も気づいた。慌ててレポート用紙を隠したが、恥ずかしそうに頬を染める表情が、いつもと違ってごく普通の女の子に見える。


 可愛い!

 予想外の反応に感動しつつ、俺はやっと見つけた彼女の弱点に付け入ることにした。


 向かいの席に腰掛けて、余裕の表情で話しかけた。


「英語苦手なんだ~」

「……」


 彼女は悔しげな表情を浮かべながら、俯いてた。


「俺が英語教えてあげようか?」


 びっくりしながら彼女は顔をあげた。いつもよりぎこちない愛想笑いを浮かべながら冷たく切り返す。


「結構です」

「俺、田辺さんに手紙で添削してもらうようになってから、文章書くの上達したんだよね。おかげで課題のレポート評価がよくなったよ」


「それが何か?」


 わざと間を作って、意地悪な笑顔を浮かべてみた。


「今度は俺が協力するよ。お互い助けあうのが友達だよね」

「……」


 目で人を殺せるなら、今俺死んでたかも。それぐらい彼女の目は殺気だってた。


「俺は母親がイギリス人のハーフで、親の仕事の都合で、子供の頃イギリスに住んでた帰国子女だから、ネイティブな英語話せるよ」

「英語がうまいからって人に教えられるとは限りませんよ」


「高校生の家庭教師した事あるけど、その子メキメキ英語上達して、志望校のランク一つ上がったよ」


 紫は唇を真一文字にして、まるで何かに耐えるような表情をした。俺の提案に少しは心を動かされているのかもしれない。俺はとどめの一言を言った。


「それにその成績のままじゃ単位ヤバいんじゃない?」


 彼女は渋柿をうっかり口にしたように、ものすごい嫌な顔をしてしばらく黙っていた。俺の誘いにのるかどうか。プライドと成績アップを天秤にかけて相当悩んでいたようだ。

 そして長い長い沈黙の後、無理やりしぼりだすように小さく声をだした。


「よろしくお願いします」


 俺は心の中でガッツポーズをあげた。


 それからすぐに、2人のスケジュールを確認をして、個人レッスンの日程を組む。

 下準備にまたも徹夜だったが、今回は得意分野で攻められる。彼女が悔しがる姿を想像してにんまりしてしまった。

 今まで好意のある女性をいじめて喜ぶ趣味なかったんだけど、すでに散々精神攻撃を受けてちょっとおかしくなってんのかな?


 レッスン初日。場所は大学近くのコーヒーショップの片隅だ。


「まずは実力確認のためテストをするね」


 俺はパソコンで作った自作のテストを彼女に突きつける。

 彼女も大人しくシャープペンシル片手にテストに取りかかった……はずだったが……右手を持ち上げたまま固まってしまった。

 目はテストの隅々まで見るように動いているが、まったく手は動いてなかった。

 しばらくして地の底から這うような重く暗い声がした。


「……わかりません……」


 つまり、全問手がでないくらいお手上げって事ね。一応高校生レベルで作ったテストなんだけどな……。

 

「じゃあ次はこっち」


 念のため作っておいたもう一つのテストを取り出す。

 今度は彼女もちょっとほっとした表情で、テストに取りかかったのだが……5問で手が止まった。後はさっきと同じだ。


「……わかりません……」


 ちょっとまて、これ中学レベルのテストだぞ。しかも回答した5問だって、スペルミスとか文法がおかしかったりで点数は0点だ。


「よくこのレベルでうちの大学受かったよね」

「……高校3年間この大学の英語過去問だけを、徹底的にやりました。他の教科でカバーしないとやばいくらいギリギリでしたけど」


 でも、受験対策の勉強って身につかないですよねって、最後にボソッと紫がつぶやいた。

 つまり山はって、意味もわからず丸暗記。受験終わったら綺麗さっぱり忘れたと。

 俺も溜め息つきたい。先は長そうだ。


「じゃあ今日の課題。これ貸すから次までに暗記するくらい聞いてきてね」


 差し出したのはMP3プレイヤー。紫が戸惑っていたので、イヤホンをつけさせて録音していた音を再生した。

 彼女が青ざめた表情のまま固まった。

 それは俺が英文を読み上げるお手製学習教材だ。


「英語はまず耳からなれて覚えるのが一番だからね。一応その英文と日本語訳の文章もあげるけど、できるだけみないで勉強してね。次のレッスンでその英文からテストするからよくよく聞く事」


 彼女はあからさまに嫌な顔した。

 俺の声を何度も聞きこめって言ってるのだから、かなりの精神的ダメージを与えられそうだ。

 心の中で高笑いをあげたら、うっかり顔にもでたようで、彼女にまた目で殺せそうな殺意をこめて睨まれた。


 第3ラウンドにして初の反撃成功。

 先のわからなくなった恋愛バトルは、ついに運命の第4ラウンドに突入する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ