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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第3章 短編集
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春雷 後編

 しばらく眺めていて気づいた。紫は本を読んでいるように見えて、さっきからまったくページが進んでいない。

 しかも空が稲光で光る度、紫の体がわずかに揺れた。


 もしかして……。


 遠くで響く雷の音が近づいてきたころ。突然紫が立ち上がって、慌てて本を片付け始めた。


 すでに紫の顔は青ざめている。


「帰る……」


 つぶやくと紫は図書館を飛び出した。


「待って。雨に濡れる」


 俺の制止を振り切って、雨の中駆ける紫。すぐに追いついて、腕を掴むと紫は子供のようにだだをこねた。


「やだ、帰る……お家に……キャー」


 その時近くに雷が落ちる音がした。紫は目をつぶって必死に俺にしがみついた。なだめるように背中を撫でた時、ドキドキした。


 紫は極度に素肌の露出を嫌うため、夏でも長袖だし、体の線がでないゆったりとした服を着ている。

 しかし今雨に濡れ、素肌に服が張り付いて透けて見えた。しかも今日は淡いブルーのブラウスだ。

 し、下着の線が透けている。しかも無造作に縛られた髪の下のうなじが、濡れて艶めかしい。


 しばし俺は煩悩と格闘した。落ち着け自分。ひとまず雨宿りだ。


 痩せすぎて、細く華奢な紫の体を壊さないように抱きよせて、歩き始めた。



 幸い近くに大型スーパーを見つけられた。傘だけでなく、タオルや着替えまで買えたのはラッキーだ。

 だいぶ濡れてしまったので、今更傘を差しても無意味だ。

 まあ俺の身長にあう服が見つからなかったので、タオルでふくだけで紫の分だけ服を買った。

 紫にスーパーのトイレで着替えてくるように言うと、室内だというのにまだ外を気にしてビクビクしている。


「ここは大丈夫だから、行っておいで」

「ほんとに?」


 目をうるうるさせて怯える紫はむちゃくちゃ可愛かった。


「濡れた服のままだと、狼の方が怖いよ」


 つい本音が駄々漏れたら、紫にむちゃくちゃ睨まれて、トイレに駆け込むように逃げられた。


 大きめのTシャツとスウェットに着替えた紫は、大人の服を着た子供みたいで可愛かった。


 さてこの後どうしよう。室内にいても稲光や雷の音に怯える紫。まだ当分雨もやみそうにない。

 ふと、スーパーの窓からある店が見えた。


「田辺さん。雷が怖くない所に行こうか」


 狼発言に警戒しつつも、紫は渋々ついてきた。



 着いたのはカラオケBOX。窓はないし、外の音が聞こえる事もない。

 個室で2人きりというのは、かなりいいシチュエーションではないか!


 紫は珍しそうに部屋の中をキョロキョロした。


「田辺さん。カラオケ初めて?」

「はい。友達いなかったし、来る機会なかったですね」


 当たり前のように暗い過去を言う。


「せっかくだから歌おうかな~」


 俺は女の子受けしそうなラブソングばかり選んで歌ってみたが、紫はどうでもいいという顔で天井を見つめていた。


「先輩の気持ち悪い、愛の言葉攻撃は、英語の勉強で慣れました」


 鼻で笑う紫の表情は、実に憎らしげだ。


「じゃあ田辺さんも何か歌ってみたら?」

「へ?」


「それとも、歌苦手だったりする?」

「歌えます」


 紫は珍しく俺の挑発に引っかかった。

 紫にペンタッチで選曲する機械を渡したら、まず操作方法からつまずいていた。

 悪戦苦闘する姿も思わず助けてあげたくなるほど可愛いい。今日の紫には庇護欲をそそられる事ばかりだ。


「本で選んで、番号言ってくれれば曲入れるよ」


 紫は分厚い本をめくりながらしばらく悩み、番号を言ったのでそれを入力する。しばらくして流れてきた曲に驚いた。


 童謡だった。カラオケで童謡って子供じゃないんだから……

 しかも歌い方がまた、舌っ足らずでたどたどしく、あどけない子供のようだった。

 可愛いは可愛いんだけど、自分がロリコンになったような気まずさがある

 歌い終わって満足げに微笑む紫に思わず余計な一言を言ってしまった。


「ランドセルが似合いそうだな……」

「先輩、小学校付近で挙動不審者でつかまるんじゃないですか? M大学の不名誉になるのだけはやめてくださいね」


 ニヤリと微笑む紫の表情で、彼女がわざと童謡を選んだと確信した。


「いたいけな幼女に手を出す人間のくず」


 猛毒を撒き散らしながら、彼女は実に愛らしく童謡を歌い続けた。君19だよね。

 小学生と言い張るつもりか!


 俺と彼女の間にあるハードルがまた一つ増えた。

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