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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
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その後の話と第1ラウンド

 『柾木譲司俺のもの発言』の噂は翌日には大学中に広まった。


 そして紫は多くの女子の敵になった。

 ほとんどは無視・仲間外れ程度の敵意だったが、過激な一部の人間は小・中学生レベルの陰湿ないじめをしているらしい。

 もちろん俺の目の前でいじめをするバカはいないので周りからの噂だが。彼女はいじめを華麗にスルーして、今までと変わることなく大学に通っているようだ。


 いじめに耐えるけなげな姿に男子の隠れファンが増殖。今の所お互い牽制しあってるが、中には抜け駆けする勇者もいて、ことごとく玉砕してるらしい。

 勇者達は何も語らないので何があったかは推測にすぎないが、あの腹黒い彼女の事だからひどい断り方をしてるのだろう。


 俺も機会をうかがってたが、二人きりになるチャンスはなかなかめぐってこなかった。

 噂の二人が人前で会話するなど火に油を注ぐようなもの。それがわかっていたから我慢はしたのだ。


 そして事件から1週間後チャンスは訪れた。


 学内の図書館の片隅。本棚に埋もれるように置かれた小さな椅子と机の閲覧スペース。そこで紫は一人本を読んでいた。

 本棚に隠れて他の人間からは見えない。

 チャンスだ! と俺の心は早鐘のように鳴り響いた。


 紫はまだ俺の存在に気づいてないようで、目の前の本を読みふけっていた。夢みるようなとろけそうな笑顔。

 サークル仲間達に見せる笑顔以上に魅力的だった。多分彼女の心からの笑顔なのだろう。

 サークル仲間達に見せていた笑顔など、ただの愛想笑いだ。そんなものを欲しがった自分が悔しい。


「楽しそうに本を読んでいるね」


 そう言いながら、ゆっくりと近づいて向かい合わせの席に座った。紫は本から顔をあげたが、その時には張り付いたような愛想笑いが浮かんでいた。


「柾木先輩こんにちは」


 余裕の笑顔だ。彼女にまったく隙は感じられない。


「この前は申し訳ない事をした。俺のせいで田辺さんひどいめにあってるんだって? 本当にごめん」

「先輩は私を助けようとしただけじゃないですか。先輩は悪くないですよ」


 口ではしおらしいこと言ってみせても、背後に漂うオーラは『お前のせいだ』とありありと語っている。

 女は怖いなあ。


「でも、軽い気持ちであんな事言ったんじゃないんだ。俺と本気でつきあわないか?」


 公認彼女になれば堂々と彼女を庇えるし、彼女を屈服させたいというほの暗い欲望もあった。紫は愛想笑いをやめて、探るような試すような無表情になった。


「お気持ちは嬉しいですが、私結婚を前提にしたお付き合いしかしない主義なんです。先輩にその覚悟はありますか?」


 結婚の2文字を突きつけられて、思わず酢を飲んだような顔をしてしまった。

 まだ学生で20歳だぞ。学園一のプレーボーイでまだまだ女の子と遊びたい。しかも会社経営をしている家業を思えば政略結婚の可能性もありうる。

 色々な考えが頭をよぎって、しばらく思考停止してしまった。落ち着け自分。


 男女の恋愛駆け引きにおいて、男が口約束で「いつか結婚しよう」とか言ってのらりくらりとかわすなどよくある事。

 腹をくくってここは口約束に乗ったふりをしよう。


「軽い気持ちじゃないって言っただろ。もちろん将来的には結婚も考えて真面目に付き合うよ」


 将来的にはであって特に期限をもうけない事が重要だ。

 すると彼女は薄笑いを浮かべた。まるで釣り人がたらした糸に魚が引っかかったように。

 そして紫はバックから折り畳まれた一枚の紙を取り出して、俺の前で開いて見せた。


「ではこちらにご記入をお願いします」


 それは婚姻届だった。

 しかも妻の欄はすでに署名捺印済み。


「……」


 ぶっ飛びすぎてて、何も反応できずに固まってしまった。


「判子今ないですよね?念のため先輩の判子用意してあります。『柾木』って三文判で普通に売ってないから彫ってもらったんですよ」


 ニコニコ愛想笑いを浮かべながら、恐ろしい言葉を続ける。つまりこの場で署名捺印しろと?


「先輩の記入が終わりましたら、私が今日中に役所に届けてきますので」


 考えておくと言って書類を預かるのもダメというわけか。

 ヘビーな攻撃にリタイア寸前だったが、なんとかなけなしのプライドをかき集めてささやかな反撃を試みる。


「結婚って家とかの問題もあるし、そんな簡単に進めていいものじゃないよね。親御さんに挨拶とか……」

「私の保護者の同意は得てます。未成年ですから。ほら婚姻届の同意欄にも記入あるでしょう?」


 嘘だ! 確かに記入はあったが、どう見ても彼女の筆跡と同じだ。まともに会話したのが今日初めてなんて男と結婚なんて、親は普通納得しないぞ。


「先輩は成人ですから親の同意はいらないですよね。私への気持ちが本当だっていうなら覚悟見せてください」


 この女……平然と私文書偽造なんて犯罪してるあたり、初めから結婚なんてする気ないんだろうな……。

 だからといって署名捺印なんてしたら、これをネタに今後脅されかねない。


「ごめん。やっぱり即答できないから、考えさせて……」


 そう言い残して、その場から逃げるので精一杯だった。


 恋の第1ラウンドはいきなりヘビーな先制パンチで、ダウン寸前。

 ラウンド終了まで立ってるだけで精一杯だった。

 二人の恋愛バトルはまだまだ続く。

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