酒は飲んでも飲まれるな
今回はアルコールに関する描写が多くなっています。
無理な飲酒は急性アルコール中毒の危険性があるのでやめましょう
フィクションだから、でたらめにお酒が強い人ばかりでてくると思ってお読みください
紫が古谷教授と楽しそうに話す所を、俺は離れた所から眺めていた。
俺と話す時もあんな無邪気に笑ってくれるといいのにな……。
発泡酒をちびちび飲みながら、一人ぼーっとしていたので、突然声をかけられてびっくりした。
「一人で飲んでるなんて珍しいな」
「あ、朝比奈先輩」
「女の子達が話しかけたがってるぞ」
「わかってます」
何人か話しかけられたが、無視していたら誰も声をかけなくなったが、諦め悪くこちらをちらちら見ている。
「柾木がここまで入れこむとはな……簡単になびかないから意地になってるのか?」
「そんな軽いものじゃないです」
発泡酒の残りを一気に飲んでため息をついた。本当に自分の諦めの悪さを呪いたくなる。
「じゃあ僕は古谷教授の所に行ってくるから頑張れよ」
朝比奈は軽くひらひらと手を降って、歩きだそうとする。慌てて俺は朝比奈を引き止めた。
「ちょっと待ってください。それってあの古谷教授に付き合って飲むって事ですか?」
「誰も教授の相手しないと失礼じゃないか」
「自爆行為でしょ。そこまでして点数稼ぎしたいんですか?」
朝比奈は爽やかな笑顔を浮かべて、言い放った。
「死ぬ気で行ってくるから、骨は拾ってくれ」
「ああ……。だから田辺さん巻き込んだんですね。田辺さんが来るなら、俺も絶対来ると思って……」
引き止めても無駄だと悟ったので、俺はついていくことにした。
「朝比奈君、柾木君お疲れ様」
古谷教授はいつもどおりの穏やかな笑顔で2人を迎えた。
「教授、僕もコレクションのおすそ分けいただいてもいいですか?」
朝比奈が営業スマイルでそう答えると、教授は少年のように輝いた笑顔を浮かべた。
「もちろん。いや、最近の若い人はお酒に弱い人が多くて、なかなか老人の趣味に付き合ってくれないんだよ」
若くなくても教授の酒豪っぷりについていける人は、そうそういないと思うのだが。
「柾木君もお酒強かったよね。何がいい? ウイスキーの上物があってね」
ウイスキーってだいたいアルコール度数40%ぐらいだよなぁ。
ちなみに教授はストレート派なので、水や氷などは一切用意されてない。
コレクションの中で比較的にアルコール度数の低そうな、ワインとか日本酒の方がいいな……。
「泡盛もあるよ。ちょっと珍しいの取り寄せたんだけど……」
一般的な焼酎のアルコール度数は25%ぐらいだが泡盛は要注意だ。40%以上の高アルコールのものもあるからだ。
「もしかして与那国島の……」
「よくわかったね。好きなのかな?」
全力でお断りした。アルコール度数60%のモンスターを始めから相手したくない。
俺は無難にワインをもらったが、朝比奈先輩は教授に勧められるまま、次々といろんなお酒を飲んでいる。
小声で先輩に耳打ちした。
「そろそろ止めたほうが……」
「この状態の教授が、止めてくれると思う?」
教授は無邪気な子供のように次はこれと、どんどん勧めてくる。教授自身も人に勧めながら強い酒をぐいぐい飲んでいる。
止めるのは無理そうだ。そろそろ逃げようかなと思い、近くで見ていた紫に声をかけた。
「早くこの場を離れよう」
「先輩だけ行けばいいじゃないですか?私は教授にお酒飲まされる事ないし」
「危ないのは教授じゃなくて……」
「危ないのは誰って言うつもりだ?」
背後から肩を掴まれ、振り向くのも恐ろしい声がする。
「朝比奈先輩飲みすぎじゃ……」
「俺はまだ大丈夫だよ。お前全然飲んでないよな。付き合えよ」
朝比奈先輩が『俺』って言ったー!ヤバいヤバい。
「どうしたんですか? 柾木先輩。急に顔色悪くなりましたよ」
紫は不穏な空気にまだ気づいてないようだ。目で逃げろと言ったが通じてない。
朝比奈は素面でサディスティックにいたぶる時も、一人称は僕のままだ。冷静に計算していじめているのでまだましなのだ。
しかし酒を飲みすぎると、もっと危険だ。
「柾木。お前ならこれぐらいまだまだいけるよな」
そういいながら、紙コップに酒を注ぐ。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいそれ『スピリタス』じゃないですか」
世界最強の酒。アルコール度数96%だ。もちろんストレートで飲むものじゃない。
「あぁん? 俺の酒が飲めないのか?」
助けを求めて古谷教授を探す。
「柾木君。朝比奈君を頼みました。田辺さん、何か危険になったら私を呼びにきてくださいね」
古谷教授は穏やかな笑顔のまま去って行った。押し付けられたー!
古谷教授がいなくなったのを確認して、朝比奈は意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前が飲まないなら田辺さんに飲ますぞ」
「飲みます、飲みます」
慌てて紙コップを取って、一口だけ口をつけた。舌をビリビリ突き刺す刺激と、身体が燃えるような強烈な暑さが襲った。
「飲み方が足りねーよ。もっとグビグビいけよ」
朝比奈は俺の頭と紙コップを掴み、無理やり口に押し付けてくる。
「口あけろ。流し込んでやる」
さすがにヤバいと思ったのか、紫は被った猫を捨てて、朝比奈に食ってかかった。
「酔っ払い。最低。下品な本性さらけ出して見苦しくないですか?」
朝比奈は俺の頭から手を話し、一歩紫へと近づく。
「酒も知らないガキが何言ってる。この……」
ここから先の朝比奈の言葉は文章化不可能です。はい。放送禁止用語、R18指定が必要な危険な単語だらけで、さすがに紫も絶句している。
俺は朝比奈と紫の間に割って入った。
何度も、無理やり酒を飲まされ、最後には床に寝転がった。その状態でも、まだ胸ぐら掴まれて、酒を強要されてた気がする。
しかし俺の記憶が飛んでしまったのでよく覚えていない。
紫大丈夫かなぁ……。それだけが心配だった。