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難攻不落彼女  作者: 斉凛
外伝
202/203

世界で一番パパが好き 後編

「すごい家だね」

「そう?」


 葵ちゃんの家は三階建ての大きなお家で、庭も広々としていた。お嬢様の家というのはワクワクだったけど、ちょっと心配。

 葵ちゃんのお母さんどんな人だろう? パパが心配するなんて、怖い人なのかな? ちょっと不安。でも葵ちゃんはイイコだし、そのお母さんだもん、大丈夫だよね。

 玄関に入ったらすぐに、葵ちゃんそっくりの女の人が出迎えてくれた。すぐわかった。葵ちゃんのお母さんだ。


「いらっしゃい。どうぞあがってください」

「上条結花です。おじゃまします」


 葵ちゃんのお母さんはニコニコ笑っていて、全然怖そうに見えない。よかった優しそうな人だ。私はお土産がある事を思い出して渡した。


「これパパが作ったお菓子なんですけど、よかったら食べて下さい」

「あら。ご丁寧にどうも」


 葵ちゃんのお母さんは笑顔で受け取りながら、ぼそっと小声でつぶやいた。


「あの男の菓子ね。毒でも入ってるんじゃないかしら」


 怖い。一ミリも笑顔を崩さずに、怖い事言った。やっぱり怖い人かもしれない。


「お母様。結花ちゃんが震えてます。ひどい事言わないで下さい」

「ごめんなさい。つい本音が」


 本音なんだ。やっぱり二人は本当に仲悪いんだな……。


「ねーね。おかえりなさい」

「おかえりなさい」


 可愛らしい声がはもりながら聞こえてきた。家の奧から幼稚園生ぐらいの子が二人やってきたのだ。見た瞬間天使だーと思った。

 ふわふわの髪、ふっくらすべすべの頬、ぱっちりおめめ。お人形さんみたいでものすごく可愛い。葵ちゃんのお父さんに似ていて、将来が楽しみな子達だ。

 二人は見た目そっくりで、着ている物がスカートとズボンという違いしか変わらない。二人の手にはぬいぐるみがあった。


「だあれ?」

「だあれ?」


 二人して私を見ながら小いさな首を傾けた。その仕草もめちゃくちゃ可愛い。


「私のお友達の結花ちゃんよ。結花ちゃん。弟の薫と妹の明」

「双子? 可愛い子達ね」


 薫君と明ちゃんは私の服を手に見上げている。


「あそぼう」

「あそぼう」

「だめよ。結花ちゃんはお姉ちゃんと遊ぶの。あなたたちは『お父さん犬』と遊んでなさい」


 お父さん犬って何? と思っていたら、二人は口を尖らせて文句を言った。


「ええー。お父さん犬あきたー」

「うごかないし、すぐこわれるしつまんない」


 そう言いながら、二人は手に持ったぬいぐるみをぶんぶん回したり、床にたたきつけたりした。ぬいぐるみの形は犬っぽい。乱暴な扱いに所々壊れかけている。これがお父さん犬かな? なんでお父さん?

 よく見ると顔の所が、葵ちゃんのお父さんそっくりに縫ってあった。人面犬みたいで気持ち悪い。そうか、それでお父さん犬。


「あ、首とれた」

「あたしのも足もげた」

「あら、いつもながら脆いわね。直してあげるから、二人ともいらっしゃい」


 葵ちゃんのお母さんが二人を連れていってしまった。

 それにしてもお父さんそっくりのぬいぐるみを、簡単に破壊する弟と妹も怖いし、それを平気で見てるお母さんと葵ちゃんも怖い。何かここの家の人たちは、どこかずれてる気がする。


「さあ結花ちゃん。私の部屋に行きましょう。本を見せてあげる」

「う、うん。そうだね」


 靴をぬいで揃えていたら、玄関の扉ががちゃりと開いた。


「ただいま。あれ? お客様?」


 入ってきたのは私達より年上の、背の高い中学生ぐらいの男の子だった。


「お帰りなさい。お兄様」

「ただいま」


 ああ。葵ちゃんのお兄さんか。ちょっと不思議な感じがする人だ。お父さんとお母さんの顔を丁度足して2で割ったような顔立ち。お父さんほど華やかじゃないけど、整った顔が凛々しくてなかなかかっこよい。


「お邪魔してます。上条結花です」

「ああ。葵の友達だね。葵の兄の夕です。後で天体望遠鏡用意しておくから後で見においで」


 そう言ってにっこり笑った顔がすごい可愛くて、私の胸がドキドキして、体が固まってしまった。固まった私を置いて夕さんはさっさと家の中に入ってしまう。


「結花ちゃん」


 葵ちゃんに間近で声をかけられて、やっと私は我に返った。


「結花ちゃん」

「何?」


「お兄様の事好きになりかけてたでしょう」


 じと目で葵ちゃんに問いただされて、私は慌てた。恋とかしたことなかったんだけど、さっきのってそういうものなんだろうか?

 よくわからなかったけど、葵ちゃんが怖い顔していたので否定しておいた。


「違うよ。確かにかっこいい人だなと思ったけど」

「ならいいんですけど。お兄様モテモテだから、あの人を好きになったら絶対苦労するもの。結花ちゃんにつらい思いさせたくないから」


 ああ。葵ちゃんは私の心配をしてくれたんだ。葵ちゃんの優しさが今は嬉しい。


「心配してくれてありがとう」


 私はにっこり笑ってそう答えた。



 その後は夕食の時間まで、葵ちゃんの部屋で本を見た。葵ちゃんの部屋には児童文学だけじゃなくて、ちょっと難しそうな小説もいっぱいあった。葵ちゃんの言葉遣いが大人っぽいのは、きっとこういう本を読んでいるからなんだろう。

 それと葵ちゃんのお母さんが書いた本を見せてもらった。葵ちゃんのお母さんは作家さんで、本が好きな葵ちゃんのために本を書いてくれたらしい。すごい羨ましかった。

 そうして夢中で本を見ているうちに、あっという間に夕食の時間になった。


 ダイニングにはとても広いテーブルがあって、みんなが一緒に座ってもまだ余裕があった。

 葵ちゃんのお母さんは、薫君と明ちゃんがおおはしゃぎで食べているので、目が離せないようだ。葵ちゃんのお父さんは、葵ちゃんの事が可愛くて可愛くて仕方がないって感じで、葵ちゃんばかり見てる。

 葵ちゃんは時々「ウザイ」とか「キモイ」とか葵ちゃんらしくない言葉で、お父さんを罵りながら無視していた。葵ちゃんにかまいすぎて嫌われちゃったんだね。うちのパパがあんなだったら嫌だな。

 私は主に葵ちゃんとおしゃべりしながら食事していたんだけど、とても気になる事があった。一緒に食べているのに、夕さんは誰とも話をしていなかったのだ。

 別に仲が悪いとか、機嫌が悪いとかそういう事じゃないと思う。でもなんだか寂しそうだ。こんなにたくさんの家族の中でひとりぼっちな感じがする。

 私は気になって夕さんに話しかけてみた。


「あの! 夕さん」

「何かな?」


「天体観測ってどこでやるんですか?」

「屋上だよ。このあたりは一戸建てばかりで、高い建物が少ないから見晴らしがよくて気持いいんだ」


「屋上があるんだ。楽しみ」

「食事が終わったらね」


 もっと話しかけようと思ったけど、他に話題がなくて話しかけられなかった。どうしようと思っているうちに、夕さんが食事を終えて立ち上がろうとしていた。


「結花ちゃん。お風呂先はいる?」

「葵ちゃん先入ってて。私は本読んでるから。ごちそうさまでした」


 私は慌てて立ち上がって夕さんの後を追いかけた。廊下で階段を上ろうとしている夕さんを見つけて話しかけた。


「今天体観測してもいいですか?」

「いいよ。おいで」


 夕さんは優しい笑顔で私を呼んだ。



「すごい! 月がぼこぼこしてる」

「クレーターっていって、隕石とかがぶつかった後なんだよ」


 私ははしゃいでみせたけど、本当は凄い緊張していた。かっこいい夕さんと二人きりで、屋上から天体望遠鏡で月をみている。ちょっとロマンチックでドキドキする。

 私は間ができるのが怖くて、いろんな星を見ては夕さんに質問した。そのすべてにスラスラ答える夕さんは、とても頭が良くて優しくてかっこいい。

 いいな葵ちゃんこんな素敵なお兄さんがいて。


 私はテンションあげすぎて、疲れて少し深呼吸した。すると夕さんはまた素敵な笑顔で笑った。


「結花ちゃんはいいこだね」

「どうして?」


「俺に気を使ったんでしょう。あんまり家族と仲よくしないから」


 私の気遣いが気づかれてた。夕さんはちょっと寂しそうに笑っている。


「でもみんな夕さんの事が好きですよ。きっと」

「うん。母さんは薫と明で手一杯だし、父さんは母さん似の葵に夢中だからね。仕方ないよ。別にもう家族とべたべたするような年じゃないしさ」


 夕さんは仕方ないっていうけど、私にはそれはひどく寂しい事に思えた。


「私、一人っ子でパパもママも忙しかったから、本当は兄弟が欲しかったんです。兄弟がいたら寂しくないかなって思って。でも兄弟が沢山いても寂しい事もあるんですね」


 夕さんは驚いた表情をしたけど、すぐに笑った。


「じゃあ俺が結花ちゃんのお兄さんになるよ。そうしたら結花ちゃんも俺も寂しくないよ」


 それはなんて魅力的な話だろう。私は大きく頷いて言った。


「それすごくいい! 嬉しい」


 夕さんが私の顔をじっと見て、それから口を開いた。


「結花ちゃん。ちょっと目を閉じてて」


 そう言いながら夕さんの顔が近づいてくる。私は素直に目を閉じた。夕さんは小さな声で囁いた。


「目の下にまつげが落ちてる。とってあげるね」


「何やってるんだ! 貴様!」


 突然屋上の入口から怒鳴り声がしてびっくりしてふりむいた。そこにはここにいるはずのない人がいた。


「パパ! 何でここに?」

「それは……」


 パパが焦っていると、後ろから葵ちゃんのお母さんがやってきて、笑顔で教えてくれた。


「結花ちゃんが心配だから、こっそり覗いてたんですよね。この変態バカ親は。のぞき見出来るようにしてくれって、頼まれたときはどうしようかと思いました」

「余計な事を……」


 じゃあ今日ずっとパパが私の事を覗いてたの! 想像してみただけで恐ろしくなった。葵ちゃんのお父さんと同じくらいうっとうしい。


「パパ気持ち悪い」


 私が正直な感想を言ったら、パパはすごくショックを受けた顔をしていた。隣にいた夕さんと葵ちゃんのお母さんが、たまらないという感じで大笑いしていた。


「きさま。僕が隠れてるのわかってて、出てくるように、わざと結花に近づいたな」

「さあ? 何の事でしょう?」


 夕さんの笑顔はどこか意地悪で不気味な感じがした。まさかね? パパの考えすぎだよね?


「結花もう家に帰ろう」

「やだ。帰らない。パパなんか大嫌い」


 私はそう言い残して屋上を飛び出した。たぶんこの家で一番まともなのは葵ちゃんだ。葵ちゃん助けて!

 その後しばらく私はパパとは口を聞かなかった。

娘の反抗期に朝比奈もショックを受けているでしょう。

譲司は柾木家で最底辺のポジションです。

幼児の双子よりも弱い。

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