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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
20/203

宴の始まり

 オープンキャンパスは表面的には、平和に終わった。

 裏で腹黒バトルが繰り広げられ、その争いに俺が巻き込まれ、散々にいたぶられた事を知るものはいない。

 後半はお互い攻撃がうまくいかないストレスを、2人共俺にぶつけてくるんだもんな……2人がかりで人間サンドバックにされた気分だ。



「本当に打ち上げ行くの?」

「もちろんです。古谷教授とお話できるチャンスですよ」


 紫は珍しく浮かれていた。彼女に打ち上げに参加してほしくなかった俺はため息をつく。でも紫の喜ぶ姿を見られるのは嬉しい。


「でも本当に自分の飲み物用意するだけでいいんですか?」


 紫の手にはスーパーで買ったお茶やジュースのペットボトルがある。


「うん。つまみ類はまとめて買ってくれるから、後で割り勘で払えばいいし。多分千円にもならないと思うけど」

「安上がりなのは助かりますね。でもなんで先輩そんなにお酒買い込んでるんですか?」


 隣を歩く俺は、ケースで発泡酒と酎ハイを1つづつ、カートに載せて引いている。


「確かお酒は古谷教授が、用意してくださると聞いてますけど」

「……まあ……後でわかるよ」


 百聞は一見にしかず。今はただ曖昧に答えるしかできなかった。


 飲み会会場の国文学研究室の近くまで来たとき、紫が突然俺の服の裾を掴んで立ち止まった。

 彼女らしくない可愛らしい仕草に胸がときめいたが、彼女の鋭い視線にすぐ気がついた。


 少し前を一人の男が歩いていた。すぐに誰か気づかなかった。


「鈴木先輩……」


 紫の呟きに譲司もやっと思い出した。2人の出会いのきっかけであり、紫の最悪の相手セクハラ男鈴木だ。あの時の事を思い出すとむかむかする。あの後俺が先導して鈴木を無視し続けたので、サークルに居場所がなくなってこなくなっていた。


「なんであいつこんな所に」

「鈴木先輩もバイトしてたんですよ。私わざと避けてたから一緒に仕事しませんでしたけど」


「つまり今日の打ち上げに参加するって事? 大丈夫?」


 紫の瞳がわずかに不安で揺れた気がした。でもすぐに不敵な笑顔を浮かべる。


「今度何かしようとしてきたら、遠慮なく痛めつけてやります」


 同情の余地はないが、どんな報復をするのか恐ろしくもあった。打ち上げの間は彼女のそばから離れないようにしよう。



「今年も無事オープンキャンパスを終える事ができたのも、皆さんのおかげです。今日は大いに楽しみながら、親睦を深めましょう」


 乾杯の音頭をとったのは、当然古谷教授だった。

 いつも仕立てのいいスーツを着こなす、ジェントルマンの見本のような上品な佇まい。

 60は超えているというのに、いまだに女子学生のファンがいるのも頷ける。


「柾木先輩。どうして皆さん古谷教授の用意したお酒に手をつけないんですか?」


 未成年のためお酒の飲めない紫は、不思議そうに言った。

 古谷教授の飲み会常連メンバーは当然のように自分用の酒を用意している。何も知らずに『酒は古谷教授が用意している』という言葉を信じた人々は、慌てて買いに走ったり、俺のもとに譲ってくれるように頼みにきた。


 せっかく用意した酒を誰も手をつけないので、古谷教授は少し寂しそうに一人酒を飲んでいた。


「田辺さんはお酒飲まないからわからないよね」


 俺は苦笑しながら『古谷コレクション』の酒を眺めた。実は古谷教授はかなりの酒豪な上にとんでもない趣味の持ち主だった。


「ワイン、焼酎、ウイスキー、ブランデー、スピリッツとか色んなお酒あるけど、どれもかなりアルコール度数が高いんだ」


 まだピンとこない紫に具体的に説明した。


「俺の持ってるビールや酎ハイは3%ぐらいだけど、古谷教授は『10%以上じゃないと酒と認めない』って方だから」


 3倍というのでやっと、アルコール度数の高さがやっとわかったようだ。

 紫は自分のお茶のペットボトルを見つめて、明らかに落ち込んでいた。


「大丈夫だよ。古谷教授は未成年の飲酒は絶対認めないから、田辺さんに無理強いしたりしないし」


 まあそのかわり、成人には容赦ないんだけどね。

 俺の心の声を聞いているはずもない紫は、嬉しそうに古谷教授の元へ歩いて行った。

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