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難攻不落彼女  作者: 斉凛
最終章
179/203

茨王子4

トラベルミステリー?ってぐらいにいろんな交通手段が出てきます

作者の付け焼刃な知識なので、「ここ違うよ」って所は遠慮なく突っ込んでください

 2月4日 pm1:00 譲司


 メールボックスに朝比奈の名前を見た瞬間、餌にかかったかと黒い笑みがこぼれる。しかしメールを開くとそんな余裕が吹き飛んだ。


『死ね、柾木、今すぐだ。

 死んで詫びろ。

 というか殺す

 遠距離からでも呪い殺す

 首を洗って待ってろ



 追伸 田辺は今箱根の○○○ホテルにいる』



 怨念のこもったメールに冷や汗がでる。朝比奈なら呪いぐらいやりかねないから恐ろしい。ここまで朝比奈を煽ったのは自分だから仕方がないのだが。

 しかし嫉妬で自棄になった俺はいつもと違う。いつもなら泣いてわびそうな黒メールに闘志を燃やした。

 やっぱり紫と今まで一緒にいたのか。しかも箱根のホテル。日本音痴な俺でも知っているぐらいの有名ホテルだ。そんな所で今まで何してた?もし紫に手を出してたら、呪い上等、受けて立つ。



 朝比奈にどんな罠をかけたのか?その鍵はメールにあった。紫と一緒なら、ネットで田辺紫を探せキャンペーンの存在に、いつか気づくと思ってた。

 葛城にも協力してもらって、ネットの広告もした。そして公式ホームページの企画欄にメッセージを残したのだ。


『田辺紫逃亡の共犯者A氏に告ぐ。すぐにメールを確認せよ』


 他のサイト閲覧者はこれも紫捜索キャンペーンのヒントぐらいにしか思っていないだろう。しかし朝比奈ならこれで気づく。そうやってメールを見るように誘導した。

 そして朝比奈のPCメール当てにこんなメールをした。


『紫の居場所をすぐに教えてください。さもなくば添付ファイルの写真をネットに公開します。早くしないと続きの写真もとりますよ』


 添付メールは眼隠しと手を縛った上条の写真だった。上条に合意の上だし、無論ネットに後悔する気もない。しかし朝比奈を脅すためとはいえ、少々やりすぎたかもしれない。


 俺はすぐに上条や他の協力者にメールの一斉送信で連絡した。


『田辺紫の居場所が判明。現在箱根の○○○ホテルにいる。朝比奈裕一もまだ近くにいる可能性が高い。至急箱根方面に向かってください』


 俺の部屋のパソコンだらけの司令塔は、すでに昨日のうちに沢森にバトンタッチしている。俺は今小田原の駅近くの喫茶店にいた。上条の情報から伊豆、箱根方面にいる可能性に賭け、どちらに居ても急行できるように中間地点の小田原に、ノートパソコン一つ持って待機していたのだ。

 上条は今付近の聞き込みに回っている。朝比奈と紫が箱根にいるなら、今一番近くにいるのは、俺と上条だ。俺はすぐにタクシーを捕まえて、ホテルに向かいながら上条に電話した。



『メール見ましたか?』

『ええ、柾木君は田辺さんの確保に向かって』


『はい。ありがとうございます。上條先輩も朝比奈先輩捜索お願いします。伊豆のテニスサークルのメンバーがこちらに向かってるので、みんなそちらで使ってください』

『そっちはいいの?』


『田辺さんの方が居場所がはっきりしてるし、万が一取り逃してもサイトから情報が集まりますから』

『ありがとう助かるわ』



 上條には余裕を見せたが、正直俺は焦っていた。紫の方が朝比奈より手持ちの金が少ないはずだ。今までは朝比奈が逃走資金を出していたのだろうが、もはや紫に援助するものはいない。

 今日の宿もないような、追い詰められた状況なら、安易に死という選択を取る可能性もある。絶対に今日中に見つけ出す。



 タクシーが目的のホテルに着いたと思った時、近くのバス停が目に入った。バスに乗り込もうとする人物に俺は慌てた。


「すいません。あのバスを追ってください」


 見間違いなどではない。あれは紫だ。紫が降りる所を見逃すまいと、俺はバスから目を離す事なく、見続けた。

 もう会えないかと絶望した紫が、今そばにいる。絶対に逃さない。もう駆け引きだとか紫の気持ちだとか関係ない。ただひたすらに紫を追いかけて、ストレートに気持ちをぶつけるだけだ。



 しかしバスというのはやっかいだ。この近辺の駅と路線については調べて頭に入っているが、バスの路線まではわからない。箱根はバスが充実していて行き先も多い。ネットで調べたくても、携帯は電波が入ったり入らなかったりで不安定だ。

 バスでどこかの駅について電車に乗る前が捕獲チャンス。一番近くの駅は宮ノ下だが、バスは逆方向を向かっている。紫はどこに行くつもりなのだろう。

 ここはタクシーの運転手に聞くのが一番だろう。


「すいません。あのバスどちら方面に向かってますか?」

「御殿場のプレミアムアウトレット行きですね」


「御殿場?御殿場駅まで行ってしまうんですか?」

「いいえ。今日は平日だから御殿場駅には行きませんね」


「途中でどこかの駅に寄りますか?」

「途中強羅の近く通るけど、少し歩きますよ」


 という事は、どこかでバスを乗り換えるか、強羅まで歩かなければ電車に乗れない。乗り換えで待っている間に捕まえよう。

 しばらくバスをつけていると、谷沿いの山道の途中のバス停で、紫がバスから飛び降りた。バスとは別の道を走っていく。タクシーはバスを追おうとしたので慌てて俺は止めた。


「待ってください。さっきの脇道の方に行ってもらえますか?」


 しかし一度通り過ぎてしまうとタクシーがUターンするのに、時間がかかりそうだ。ここで降りて紫を追った方がいいか?土地勘もない所で紫を見失ってしまったらおしまいだ。ここは運転手にまた聞いたほうがいい。


「さっきのバス停脇の道からどこへ向かってるんですか?」

「強羅駅です」


 登山鉄道に乗るつもりか。電車で山を下って小田原まで行かれたら、東京方面か静岡方面かわからなくなって、捜索が困難になる。何としても駅に着く前に捕まえなければ。


「すいません。ここで降ります」


 俺は運転手に駅までの道を聞き、タクシーを降りて駆けだした。

 紫はバスを飛び降りて駆けだした。タクシーが追っているのに気がついたのだろう。もしかして誰が追っているのかも気づいているのだろうか。だとすれば嬉しい。彼女はまだ俺が追ってくると信じてくれているのかもしれない。



 さっきのバス停の脇の道まで引き返した。紫が向かった道は急な上り坂で、くねくねと曲がる道は遠くまで見渡せない。

今のところ紫の姿は見当たらないが、強羅駅に向かっていると信じて俺は坂道を上った。

 坂道を走り続けるのはきついが、男で体育会系な俺より紫の方がずっときついはずだ。駅までに追いついて見せる。


 やっと坂道を登りきると、建物が見え始め、道もまっすぐになった。まだ紫の姿は見えない。もう駅の近くまで来ている。俺は焦り始めていた。息の上がった呼吸を整える間もなく、強羅駅まで走る。


 駅前で小さな紫の背が見えた時、俺はやっと追い付いたと安堵してしまった。登山鉄道に乗らせないために先回りしようとしたら、紫は駅とは違う方角に走っていった。

 どうしてだ?と一瞬考えて自分のうかつさを呪った。強羅駅は登山鉄道の終点だが、もうひとつ山の上の方に向かうケーブルカーの始発駅でもあった。

 たしかケーブルカーで早雲山まで行ってロープウェイに乗り継げば、芦ノ湖のある桃源台駅までは行けるはず。しかしそこから先どうするつもりだ?



 悩む時間も惜しく俺も慌ててケーブルカー乗り場に向かった。改札まで来た時、電車が止まっている事に気付いた。

 まずい。電車に乗って逃げられる。慌てて改札をくぐったが遅かった。紫を乗せた電車は発車してしまった。


 次の電車は15分後。絶望的な気分でホームに立ち尽くした。しかしここまできて諦めてたまるか。

駅でバスや電車の路線図や時刻表など、集められるものはすべて集めて、今後の紫の行き先を考えた。

 調べてみるとロープウェイは桃源台で行き止まりだが、桃源台からはバスや芦ノ湖を船で南へ行くルートもある。

 かといって、次の電車に乗って慌てて追いかけて、紫が途中の駅で下り線に乗り換えて、強羅まで戻り、登山鉄道で小田原方面まで逃げられたら終わりだ。

 紫を追うべきか、引き返してくる方にかけて待ち伏せするか?

 次の電車はまもなく来る。迷っている時、携帯にメールが届いている事に気がついた。沢森からのメールだった。急いで中を確認する。


『SNSに続々と田辺紫の目撃情報が寄せられてる。要確認』


 俺は慌ててネットを開いてSNSのつぶやきを見る。ここ数日の箱根での目撃情報が多いが、一番最新のつぶやきに目を奪われる。ちょうど早雲山行の電車が到着したので、迷うことなく電車に飛び乗った。


『箱根のロープウェイなう。田辺紫発見』


 紫はロープウェイで芦ノ湖方面に向かった。間に合ってくれ。俺は祈るような気持ちで電車に揺られた。



 ケーブルカーの終着点、早雲山についた。ここからロープウェイに乗り換えだ。ロープウェイは待ち時間なくすぐに乗れそうだ。終着点、桃源台へはやる気持ちを抑えて、俺はまた携帯を開いた。

 さらに山に入れば電波がなくなるかもしれない。今のうちにサイトをチェックしておこう。


『大涌谷なう。田辺紫も下車。黒玉子を食べにきた?』


 なぜ、大涌谷でロープウェイを降りた?大涌谷は山の中。こんな所で降りても他に乗り換えできそうな乗り物はない。引き返してくるつもりか?しかしすぐ下りに乗り換えたなら『黒玉子を食べにきた?』なんて書き込みされないはず。

 俺は見ず知らずの書き込み一つを信じて、ロープウェイに乗り込んだ。

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