表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落彼女  作者: 斉凛
最終章
172/203

茨王子2

 2月2日 am10:00 譲司


 古屋教授の教授室に集まったメンバーは、俺と古屋教授と上條先輩と、なぜか朝比奈先輩のお姉さんの優姫さん。

 初めて会ったが、朝比奈先輩と顔はまったく似てないすごい美人だ。そして朝比奈先輩と同じくらい危険な匂いのする人だ。


 古屋教授が真剣な表情のまま、俺に昨日の有力情報の確認を始めた。


「柾木君。田辺さんが朝比奈君と一緒にいるというのは確かなのかね」

「目撃情報は、昨日の昼頃に品川駅の山手線のホームで、田辺さんが朝比奈先輩らしき人と一緒にいたというだけです。今も一緒にいるのかはわかりません」


 優姫は上品な仕草で口元に指を添えて、確認するように言った。


「裕一だという確証はないのかしら?」

「目撃した人間が朝比奈先輩を知らなかったので。写真を見せれば確認できるでしょう。ただ、田辺さんの態度から見てまず間違いないかと」



「裕一が女の子と一緒ね……。大丈夫かしらその子。裕一に騙されてたりしないかしら……」



「それはないでしょう」

「ないわね」

「ありえません」


 古屋教授と上條と俺の息のあった反対に、優姫は頬をひきつらせている。


「ずいぶんと自信があるのね」


「腹黒さでは朝比奈と互角だから」

「朝比奈先輩は今体調悪いんですよね?その分田辺さんの方が有利ですよ」

「そこまですごいと、会ってみたいような、会うのが怖いような……」


「田辺紫っていう作家、知ってますか?彼女ですよ」

「え!あの今噂の……。確かに手強そうね」

「優姫さん知ってるんですか?田辺さんが作家ってどういう事?」


 優姫が知ってた事より、上條が知らなかった事の方が驚きだ。知り合いがあれだけ世間を騒がせているのに。


「上條先輩知らなかったんですか?今テレビや週刊誌で騒がれてるんですよ」

「テレビ見ないから家にないし、週刊誌も見ないわね」


 俺の中では世間を騒がす大事件のような気がしていたが、案外世間の人にはどうでもいい些細な出来事だったのかもしれない。

 俺は紫の作家デビューの経緯と葛城との事件について、上條達に話した。


「大変だったのね……。柾木君、田辺さんの事心配でしょう」

「昨日の昼までは無事だったとわかって良かったんですが……。なぜ朝比奈先輩と一緒なのか、納得できないんですよね。ありえないでしょう。あの二人が仲良く一緒にいるなんて」


 なぜ紫が辛い思いをしている時に、そばにいるのが俺じゃないのか。理不尽な苛立ちがこみあげて、昨日は眠れなかった。

 あの二人に限って何かあるとは思えないのだが、今の二人がまともな状態じゃないと考えると、可能性が0ではないかもしれない。



「柾木君。気持ちはわかりますが少し落ち着きなさい」


 古屋教授の穏やかながら冷静な言葉に、正気を取り戻した。


「すみません。取り乱してしまって」

「取り乱すほど、裕一と彼女が一緒にいる事が意外?」


「ええ……まあ?」

「それって彼女の自由意志で一緒にいるの?裕一に騙されたり、脅されたりとかそういう可能性はない?」


「……それって何か心あたりでもあるんですか?朝比奈先輩がそんな事しでかすような事情が……」


 紫が騙される事はないかもしれないが、あの朝比奈なら脅すくらいやりかねない。悪い想像が頭をよぎる。俺の顔色が変わったのを見て、慌てて上条が口を挟んだ。


「優姫さん。それ以上朝比奈を犯罪者にでっち上げるの止めてください。柾木君が信じかけてるじゃないですか。可哀想に」

「でっちあげ?」


 この人朝比奈の姉だよな……。でっちあげで弟を陥れて、何がしたいんだ?


「柾木君ごめんね。優姫さんは警察沙汰にして、特別家出人として警察に捜索してもらいたいのよ」

「特別家出人ってなんですか?」


 そこから先は優姫が説明してくれた。警察に捜索願を出しても、ほとんどは一般家出人として処理される。

 職務質問などでたまたま家出人を発見した場合、連絡がくる程度で、警察が積極的に探してはくれないそうだ。

 しかし犯罪の被害者や加害者だったりなど事件性が高い場合や、自殺の危険性が高いなど、生死に関わるような場合、警察が積極的に捜査を行うそうだ。


「遺書を残したわけじゃないから、明確に自殺の可能性があるとはいえないし。彩花さんの体からも睡眠薬を飲まされた痕跡は残念ながら残ってなかったわ」

「優姫さん。昨日もいいましたけど、例え証拠が出ても、私は朝比奈を傷害で訴える気なんてないですからね。優姫さんは朝比奈に前科がついてもいいんですか」


「よくはないわ。でもこのままいなくなって会えなくなるくらいなら、私はどんな手段も使うだけよ」


 優姫のやり方は強引すぎるが、気持ちはわからなくはない。

 俺だって紫と二度と会えなくなるぐらいなら、犯罪者にしてでも探し出したいとは思う。


「お姉さん。気持ちはお察ししますが、ただ田辺さんが一緒にいただけで、朝比奈君を誘拐犯にする事はできないでしょう。それに朝比奈君の一番の味方であるべき家族に、濡れ衣を着せられて見つけられても、朝比奈君が素直に帰ってこれなくなるのではないでしょうか?」


 古屋教授の常識的な言葉に、優姫も何も言えずに肩を落とす事しかできなかった。

 ただ見つけ出すだけではダメなのだ。昨日の朝電話がきた時、あの時紫を引き止められなかった。それなのに紫を見つけ出して、どうやって説得したら連れ戻せるのだろう。


「大学に残っていた二人の写真を用意しました。二人が今も一緒にいるかはわかりませんが、この写真を手がかりに探しだすしかないでしょう」


 古屋教授が取り出したのは、今よりわずかに幼さの残る紫の写真だった。受験の時の願書に添付されていたものだろう。

 俺達は携帯で二人の写真を撮って記録し、探しあるく事にした。上條は二人の写真をじっと見ながら、疑問を口にした。


「二人とも地味で目立たないタイプだけど、田辺さんは最近有名人なのよね?目撃情報とかわからないかしら?」

「出版社に届く情報は、こちらにも教えてもらえるように頼んでいるんですが、今聞いてみます」


 俺はみんなの前で沢森の携帯に電話した。


『柾木君。何かあったか?』

『沢森さん忙しい所すみません。昨日の夜ご連絡した以上の事は、まだ掴めてないのですが、そちらは何かわかりましたか?』


『まだめぼしい情報はないが、田辺さんを探し出すために2つ手段を考えて、今準備中だ』

『探し出すための手段?』


『一つは中沢出版の公式サイトに、田辺紫のページがあるんだが、そこに期間限定で目撃情報を書き込む掲示板を作った。今日設置したばかりだから、まだ手がかりは書き込まれてないんだが』


 俺は沢森と電話しながら、教授室にあったパソコンからネットを検索した。

 紫の事情には触れずに、キャンペーン企画として『田辺紫を探し出せばサイン本プレゼント』とゲーム的なサイトになっていた。

 昨日の朝話をしたばかりなのに、もうこんなサイトを立ち上げるとは。沢森の仕事の速さに舌を巻いた。


『それともう一つ。葛城先生が明日、生出演するテレビ番組があって、そこで田辺さんに呼びかけてくれるそうだ』


 葛城が紫のために立ち上がった。それなのに俺は何もできずに手をこまねいているだけでいいのか?気持ちばかり焦る中で、俺は必死に自分にできる事を考えた。


『沢森さん、お願いがあります』

『何かな?』


『サイトの掲示板や、テレビで葛城さんの呼びかけを見て問い合わせが殺到する可能性があります。こちらにも他に協力者がいるので、それらの情報を集めてすぐに解析できるように、俺に指揮を任せてもらえませんか?』

『わかった。一度打ち合わせもしたいんだが、こちらは今手一杯で動けないんだ。社にきてもらってもいいかな?』


 俺はすぐに返事をして電話を切った。


「柾木君……。大丈夫?」


 上條の目が不安に揺れていた。朝比奈を心配しながらも、俺の事まで心配してくれる。紫と一緒にいたかもしれない朝比奈に嫉妬はしたが、上条の優しさを見ると何としても二人を、探し出さなければという思いがわき上がる。


「二人の捜索は俺に任せてください。上条先輩は朝比奈先輩を見つけ出した時、どうやって連れ帰るか考えていてください。病気の事とか考えると朝比奈先輩の方が、説得は難しいでしょうから」

「ありがとう。柾木君もあまり無理しないでね」


 俺は頷いたが、その約束を守るつもりはなかった。紫と朝比奈を一刻も早く探し出す。そうじゃなければ俺の精神までおかしくなりそうだ。無理するなと言うのが無理だ。

 俺は頭の中で計画を練りながら、中沢出版へと急いだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ