表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
17/203

幕間 暑い戦い

柾木編唯一の譲司視点ではないシーンです

会話劇のようなセリフの多さも他とは違うので、読みにくいかもしれませんが

『暑い戦い』をお楽しみください

 真夏の太陽に照らされ、室内には濃い影が生まれている。

 冷房のない廊下はうだるように暑く、早く冷房の効いた室内に入りたい。だが運動などしたくもなく、自然と足取りも重くなる。



 朝比奈が先に歩き、3メートルほど離れて紫が後を続いた。朝比奈は歩きながら振り向きもせず、世間話を始めた。


「今日も暑いね」

「そうですね」


「雨が降って涼しくなればいいね」

「そうですね」


「この大学無駄に広いから移動が面倒だよね」

「そうですね」


「学食は安いけど、まずいよね」

「そうですね」


「柾木はモテるから近くにいるだけで大変だよね」

「そうですね」


「アイツってバカなのに顔がいいから騙されて、周り気づいてないよね」

「そうですね」


「僕の事見ただけで、いけ好かないやつと思ったよね」

「そうで……」


 機械的に相づちを繰り返してたら、うっかり本音がでてしまったようだ。



 朝比奈は立ち止まってゆっくり振り向いた。

 二人は表面的には笑顔で見つめあっていたが、先ほどの会話が二人の間に緊張感をもたらしていた。

 長い沈黙のままお互い探り合いを続けていたが、先に口火を切ったのは朝比奈だった。



「もうバレバレだから、その巨大な猫脱いだら」

「先輩こそ、その嘘臭い笑顔の仮面取ったらどうですか? 黒いオーラが駄々もれですよ」


「あの馬鹿もいい趣味してるよね。こんな腹黒い女の子どこから探してきたのか。天然記念物級だよ」

「先輩の調教の成果で、あの馬鹿ドMになったんじゃないですか?妙に打たれ強いと思ったら、身近にこんなサディストがいたなんて」



 もう互いに作り笑いをする気もなくなって、震え上がるような怖い笑みを浮かべていた。


「調教って女の子が言うセリフじゃないでしょ。僕と奴の仲を妬いてるの? 目障りだから惚気話は他でやってよ」

「アイツはただの奴隷ですから、なんで嫉妬しなきゃいけないんですか? そちらこそアイツの事可愛いがってたのに、私が現れたからイライラして私に当たってるんじゃないですか? 私同性愛者に偏見ないですけど、あなた達の色恋沙汰に私を巻き込まないでください」


「僕彼女いるし、同性愛の趣味はないね。あの馬鹿は僕の数多い手駒の一つにすぎないから、どうなろうとどうでもいいんだけど。君こそ友達いないし、手駒も少なくて、必死になってるんじゃないの」



 紫は怖い笑みが消え、目で殺すような、物騒な顔で睨んだ。


「いいかげんにしなよ。オッサン」


 朝比奈もすべての表情が抜け落ちて、氷のように冷たい無表情になった。


「生意気言ってんじゃない小娘」


 声を荒げる事はなかったが、紫の鋭い言葉と朝比奈の凍るような冷たい言葉は続き、罵詈雑言の泥仕合になった。

 お互いボキャブラリーの限りをつくして罵りあったが、暑さにしだいに言葉少なくなっていく。



「これ以上は無駄だな……」

「ええ……お互い体中毒まみれですから、毒舌も利かないみたいですね……」


「で、なんでこんな所でわざわざ喧嘩売ったんですか?」

「猫被ってるのはすぐわかったから、本性を見てみたかった」


「……馬鹿じゃない?」


 朝比奈の回答に苛立ちを含んだ声で紫は返した。しかし朝比奈は再度喧嘩を仕掛ける気はないようだ。薄く笑ってかわした。


「君が僕を見ていけ好かないと感じたのは、同族嫌悪かもね。お互い腹の中は真っ黒なのに、外面だけはいい」


 紫はその言葉に同意するように笑った。


「でも、僕は自分の利益のために積極的に毒を使うけど、君は自分を守るためにその毒を使うんだね」

「何が言いたいんですか?」


「さっき手駒が少ないって言ったよね。君は壁を作って人を寄せ付けないみたいだけど、関係を絶ってばかりじゃ、いざって時に動かせる駒がなくて、そのうち追い詰められるよ」

「そんな説教みたいな事言うなんてらしくないんじゃないですか?」


 朝比奈は同意するように笑った。


「うん。らしくない。会ったばかりの女の子に、こんな本性さらけ出してまで、お節介なんてほんとらしくない」


 ーー彼女のお節介が移ったかなーと愛おしげに微笑んで呟いた。



「惚気話とかやめて……」


 言いかけてやめた。朝比奈が一歩踏み込んで、二人の距離を縮めたからだ。緊張感の中、朝比奈が左手を持ち上げたことで、さらに緊張感が高まった。

 左手が紫の顔の前まで持ち上がった時、朝比奈は手の甲側を紫に見せた。左手の薬指に光る指輪を見せつけるように。


「僕の婚約者が美人で、お人好しで、お節介で」

「惚気話はやめろ」


 紫が心底嫌そうな顔をすると、朝比奈は大笑いした。


「君には『毒』は『毒』でも、こっちの『毒』の方が効くんだね」


 朝比奈はまだ笑いながら、左手をそのまま持ち上げて紫の頭をポンと叩いた。


「妬かない、妬かない。田辺さんには柾木がいるじゃないか」

「私とあの馬鹿はそんな関係じゃ」


「仲よくなりすぎて馬鹿が移らないようにね」

「……」


 何を言っても無駄とばかりに朝比奈はニヤニヤと笑っている。紫も無言でむくれた。


「ミーティング始まっちゃうし行こうか?」


 何事もなかったようにあっさりと朝比奈は振り返って、勝手に歩き出した。

朝比奈株は登場2シーン目にして大暴落ですね

皆さんは朝比奈表側と裏側どちらがお好みですか?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ