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難攻不落彼女  作者: 斉凛
最終章
166/203

茨王子1

 2月1日 am11:00 譲司


 紫からの電話の後、俺は彼女を知る人達に連絡をした。誰か手がかりがないか?と思ったからだ。沢森から庚洋社も紫と連絡が取れず、足取りもまだ掴めなかった。


 大学の関係者で誰か心当たりないか?古屋教授は携帯を持っていないため、連絡をとるのが難しかった。

 朝比奈はなぜかずっと携帯の電源が入ってない。上條はかけても通話中な事が多く、連絡が取れなかった。


 学校で紫と多少は面識があったテニスサークルのメンバー達も、何故か皆連絡が取れなかった。テニスサークルメンバー達と、親しい友人の一人に聞いてその謎がとけた。


「試験あけは毎年恒例の伊豆合宿だろう。電波のない宿泊施設なんじゃない?真宮はバイトがあるから、遅れて今日向かったみたいだけど?」


 そういえばそんな行事があった。自分も所属しているサークルだったのに忘れていた。慌てて真宮に連絡したが、電源を切っているのか繋がらなかった。



 紫の交友関係は狭い。残る場所と言ったら、幸吉さん達ぐらいだ。しかし家族に失望したばかりの紫が、お爺さん達の所に行くとは思えない。あまり期待せずに、アパートへと向かった。



「柾木さん久しぶりですな。今日はどうしました?」

「紫さんはこちらに帰ってきてないですか?」


「家を出てから、一度も顔を見てませんな。紫になんかあったんですか?」

「……実は……」


 紫の計画とその結果、そして父親から連絡があった事も伝えた。


 特に父親から連絡がきた事に、幸吉は大きく驚いた。紫の父親は幸吉の息子なのだから、行方不明の息子から連絡がきたら、驚くのも仕方がない。

 しかし幸吉の驚きは俺が想像していた事とは違った。


「あのバカ息子め!約束を破って紫に連絡するとは……」

「約束ってどういう事ですか?夜逃げして音信不通だったんですよね?」


 幸吉は苦々しく話始める。


「身内の恥をお話するのは恥ずかしいのですが……。実は息子達から3年前に連絡はあったんです。借金の件は解決したから、もう心配しなくていいって」


 借金はすでに解決済みだったとは……。ではなぜ両親は帰ってこない。紫は何も知らされなかったんだ?


「どうして紫さんはその事を知らなかったんですか?」

「わしがあのバカ息子達に言ったんじゃ。帰ってくるな。紫にも一切連絡するなとな」


「どうして?」

「夜逃げして4年で借金は解決した。しかし4年の間にあのバカ達は勝手に離婚して、それぞれ再婚までしておった。わしらに紫を預けて……自分達だけ別の人生を初めてたんじゃ。許せるものか!」


 それは確かに幸吉にとって許せないほどの裏切りだっただろう。そして紫も知ってショックを受けたのだ。


「……確かに、それを知ったら、紫さんもショックを受けるでしょうね。でもいつまでも隠せる事ではない。いつ話すつもりだったんですか?」

「……それは……そのうち……」


「そのうちっていつですか?あなたはただ孫に嫌な話をしたくなくて、引き伸ばしただけだ。早く話してれば、紫が追い詰められる事もなかったのに!」


 幸吉を責めるのは筋違いかも知れない。しかし紫があんな酷い計画を立ててまで、両親に会いたがっていたのに、こんな身近に残酷な現実があったなんて……。

 俺はやりきれない思いを抱えたまま、紫の捜索は行き詰まった。



 大学に連絡して、古屋教授がまだ大学校内にいる事を確認した。それで俺はM大学に向かった。会ったとしても、手がかりに繋がるとは思えない。だがどうすればいいかわからない。

 誰かに相談したい。いつもなら朝比奈に話すのだが、未だに連絡はとれない。


 教授室をノックして扉を開けた。部屋に古屋教授はいた。いつもの穏やかな笑顔ではなく、眉間に皺を浮かべ憂いを浮かべている。


「柾木君久しぶりですね」

「はい……何かあったんですか?」


「そうですね。君にも話しておいた方がいいのか……。しかし先に君の要件を聞きましょう」

「実は田辺さんが失踪しました。かなり危険な状態だと思います」


「まさか!田辺さんまで!」

「まで、とはどういう事ですか?」


「後で話します。田辺さんの事情を先に聞いてもいいですか?」


 俺の知る限りの情報をすべて話した。嘘や隠し事ばかりの紫の言葉がどこまで信用できるのかわからないのだが。



「そうですか……そんな事が……。私も朝比奈君に気をとられて、田辺さんをよく気にかけられなかったのが、悔やまれます」

「朝比奈先輩、どうかしたんですか?」


「朝比奈君も昨日、失踪したんです。危険な状態で……」

「え!どうして?」


 古屋教授が渋い表情のまま、話し始めたのは壮絶な話だった。

 朝比奈先輩によく似た中年の女性、俺は2度も見かけていた。2度めは怪しい人物だと警戒もしたのに、俺は紫の事を優先して、呑気に先輩に相談したりして……。

 そんな大変な目にあっていたのに、俺に付き合ってくれた朝比奈に申し訳なくなった。


「俺……どうしたらいいんでしょうか?田辺さんを探したい。でも先輩の事も助けたいです」

「柾木君は田辺さんを探す事に集中しなさい。朝比奈君は上條さんが手がかりを探っています。私も二人を探すのに全力で協力します」


「ありがとうございます」


 しかし二人が同時期に失踪するなんて……。似ているとは思っていたが、こんな所まで似るとは……。


「偶然……ですよね?二人が同時に失踪するなんて」

「偶然でしょう。二人とも最近は顔も合わせてなかったはずです」


「そうですよね」


 俺は理由のない不安を強引に振り払った。それから古屋教授には教授室直通の電話番号を教わって、連絡しあう約束をして部屋をでた。

 人を探すなら人手が多い方がいい。しかし今や紫は、売名行為をしてまで本を売ろうとした、悪名高い有名人。協力してくれそうな人間は少ない。


 せめて多少は紫と交流のあった、真宮や美咲達が協力してくれれば……。大学にあった、サークルの合宿申請書で、宿泊施設の連絡先を確認し、電話をかけて真宮を呼び出した。


『どうしたんですか?先輩』

『真宮。悪いがすぐに手伝ってほしい事がある』


『何ですか?突然』

『田辺さんを探してるんだ。手がかりがなくて……』



『田辺さんですか?今日見かけましたけど』


 俺は真宮の言葉に驚き、慌てて聞き返した。


『いつ?どこで?』

『昼前ですね。品川駅の山手線のホームで、イスに座ってるのを見かけましたよ』


 その時間なら、俺に電話をかけた後だ。そんな所で何をしてたんだ?


『それで何か言ってた?』

『いえ……声かけなかったんです。他の人と一緒だったから』


『誰と?』

『僕は知らない人でしたけど、若い男性だったから、うちの学生でしょうか?メガネかけてて、色が白くて、かなり痩せてて……あんまり個性がないから説明しづらいですね……』


 思いきり心当たりのある特徴だ。まさかとは思いつつもさらに詳しい情報を求めた。


『二人で並んで座ってたけど、喧嘩でもしてたのか、なんか怖くて近寄れない空気だったんで、話しかけずに、通りすぎちゃったんです』


 紫と喧嘩できるなんて間違いない。一緒にいたのは朝比奈だろう。

 しかしなぜ二人が品川駅なんかに?そして今はどこに……。それでも何も手がかりがなかったよりも、ずっと大きな前進だった。

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