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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第9章 上条彩花編2
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秘密のデート

 予約時間より少し早い夕暮れ時に、私達はホテルについた。


「このホテル……あの懇親会の時の……」


 2年前の夏、古谷教授に誘われ、私をまきこんで朝比奈が参加した懇親会が行われたホテルだった。


「懐かしいわね。あの時の朝比奈の酒癖の悪さ……本当に最悪だったわよ」

「上条の容赦ない攻撃もね、すごかったね。本気で死ぬかと思った」


「わざわざ思い出の場所にしてくれたの」

「……まあね」


 本当はたんなる偶然だ。なぜこのホテルのレストランの予約がとれたのか?それは会社の忘年会の日にさかのぼる。




 朝比奈から蟹祭りに会おうと連絡があってご機嫌だった私は、二次会のカラオケまで参加してしまった。

 だがなぜかここでも隣の席は菱沼。騒ぎにまぎれて席を移動しようとした私を菱沼は引きとめた。


「ここにいた方が上条さんのためにいいと思うよ」

「どうしてですか?」


「気付いてないみたいだけど、何人か上条さんを狙ってるよ。今は私が睨み効かせてるから、みんな様子見だけど」


 言われて周りを見渡すと何人かの男子社員がこちらを見てる。そういえば一次会の席でも何度か視線を感じたな。


「上条さん前は仕事しか興味ありませんって感じで全然隙がなかったけど、夏ごろから仕事中にため息ついたり憂い顔になって、狙い始めた男が多いみたいだよ」


 仕事に集中できなかったのは朝比奈の事や新谷の事で、色々ごたごたしていたからだ。それがいいというのはよくわからない。

 しかし面倒だ。私は営業の部署では新人。さっきから私を見てる男達は皆先輩だ。下手に振って睨まれたら、仕事がやりにくくなる。

 不本意だがここは菱沼を利用した方が、角が立たずにあしらえる。


「どうして主任が私を助けてくれるんですか?」

「恋愛トラブルで業務に支障がでないようにしてるんだけど、私が助けるのが気に食わない?」


「……そうじゃないです」


 ただ胡散臭いだけだ。建前は上司だからと言い訳してるが、そんな建前を無条件に信じるほど私ももう甘くない。


「じゃあ取引しよう。私が弾よけになるかわりに、ひとつ頼みごとがあるんだけど」


 ほらきた。ここからがこの男の真の狙いだろう。何をしかけてくる気だ? と身構えた。菱沼は騒がしいカラオケルームの中でも聞こえるように、私の耳元に顔を近づけて囁いた。


「Tホテルで12月24日に食事つきペア宿泊券を手に入れたんだ」


 思わず悪寒が走るほど嫌な予感がする。私は周りに怪しまれないように、無表情を取り繕うのでいっぱいいっぱいだ。


「まさかそれに付き合えとか言うんじゃないですよね。セクハラですよ」

「まさか。妻と行く予定で手に入れたんだけど、妻が忙しくて行かれなくなったんだ。高かったし誰か買い取ってくれないかなと探してたんだ。朝比奈君と行ってくれば」


 朝比奈と? イブにホテルなんて……ありえない。いや、一様公式では私達は婚約者って事になってるからおかしな話ではないし、むしろ美味しい話。ここで断るのは不自然だ。


「いくらなんですか?」

「ホテル内のレストランで夕食付で7万」


 私は驚きの声を上げたが、幸い今ノリのいい曲でにぎやかだったので、周りに気付かれなかった。いくらクリスマスイブで食事つきだからって、無茶苦茶な値段だ。


「それ本気ですか?」

「高かったって言っただろう。これでも正規の値段だよ。一流ホテルだししかたないよ」


 冬のボーナスに手をつけてなかったから出せない金額じゃない。問題は朝比奈と行く私の覚悟だ。


 ただの友達という曖昧な関係じゃなく、朝比奈の女性関係に文句言えるような、そんな立場になりたいとは思った。

 でもまだアイツとホテルに泊まるような関係になる覚悟はない。


「高すぎます」

「今後の会社内での弾よけもサービスにつけてあげるよ。まあまだ時間あるから考えておいて」


 悩んで結局その日に返事が出せなかった。それでもやっぱり1週間後に菱沼と取引してしまったのだが……。



 というわけで、ホテルで食事だけでなく、宿泊券もあるのだが、この土壇場になってもまだ踏ん切りがつかない。


「まだ時間あるからラウンジでお茶しよう。私トイレ行ってくるから席探して注文しといて。私コーヒーでいいから」

「了解」


 私はトイレに行くふりをしてチェックインの手続きをする。宿泊券に食事がついているので、例え泊まらなくてもチェックインしておかなければいけない。

 手続きを終えてラウンジに向かう途中、ひと組の男女が目に入った。


 男の方に見覚えはない。背が高く迫力のあるいい男で、周りの人目を引いている。

 しかし私が気になったのは相手の女性の方だった。小柄で折れそうな細い体。黒くつややかなストレートロングの髪。後ろ姿だけでもどこかで見たような気がしていた。気になって見ていたらわずかに振りかえった。

 田辺紫だった。なぜ今日こんな所にいる? 二人はにこやかで親しげな雰囲気だ。まさかクリスマスイヴの日に、田辺の隣にいる男が柾木じゃないなんて……。信じられずに茫然と見ていた。


「上条?」


 気づけばいつの間にか隣に朝比奈がいた。


「遅いからどうかしたのかと思って見にきたんだけど。寄りにも寄ってこんな所でアイツを見かけるなんてね」

「どうしよう……柾木君に言った方がいいかしら?」


「やめておきなよ。田辺が柾木じゃなくてあの男を選んだって事だろう。僕達が関わる事じゃないよ」


 朝比奈の言う通りかもしれない。相手の男が誰かは知らないが、人の恋愛に口を出すべきじゃない。


「コーヒー冷めるよ。行こう」


 朝比奈はあっさりとそう言った。朝比奈は柾木には結構優しいと思っていたのだが、ずいぶん冷たいなと思う。それともこの男は何か知ってるのだろうか?

上条は小説などは読みません

だから有名作家の顔などは知りません

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