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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第9章 上条彩花編2
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眼鏡越しの空

2人のクリスマスエピソード中のタイトルは

歌のタイトルでそろえようかなと思ってます

どこまで続くか

 24日の朝はゆっくり目覚めた。昨日の残り物で適当に食事して、だらだら過ごしてたら家を出る頃には正午少し前だった。

 天気はすがすがしく晴れていたけど、冬の空気は冷たく、思わず顔をマフラーにうずめる。

 朝比奈と昼間から出かけるなんてものすごく久しぶりかもしれない。デートらしいデートなんて初めてだ。認めたくないがそれを喜ぶ自分がいる。



 朝比奈がよく行く眼鏡屋に着いて、フレームを選んだ。朝比奈が気にいった物は、やはりいつもと同じ様なデザインでどうにもつまらない。少し丸みがかったスクエア型のシンプルなメタルフレームの眼鏡だ。


「たまには冒険してみなさいよね。今流行りのセルフレームとかは?」

「僕がつけるとなんか軽いんだよね」


 試しにつけてみると、いつもよりチャラい感じで笑えた。


「遊び人な内面がよく出てていいじゃない」

「やだよ。最近遊んでないし」


「じゃあこっちの縁無しとかは?」

「僕のレンズの厚さじゃ、縁無しは強度的に無理」


「古谷先生みたいに銀縁とか。真似してみれば」

「銀縁が似合うのは、ある程度年取ってからでしょ。オジサン臭い」


「じゃあ、いっそ丸メガネ」

「それ本気で言ってる? 似合うと思うの」


「思わない」


 私が大笑いしながらそう答えると、朝比奈はむっとした顔をした。

 眼鏡フェチか? 結構こだわるなあ。しかし私は眼鏡なんて買った事ないから眼鏡屋が珍しいし、こうやって朝比奈とああだこうだいいながら選ぶのは楽しい。


「これはどう?」


 そう言って朝比奈にかけたのは、スクエア型だが、上半分だけフレームがあり、下は縁なしタイプだ。いつもよりシャープで出来る男っぽく見える。


「それいいんじゃない」

「本当に?」


 朝比奈はそう言って私の顔に思いっきり寄せてきた。


「顔近いって、なんで寄ってくるのよ」

「だってこのフレーム度が入ってないから、近づかないと上条の表情わからないもん。またからかってるかもしれないじゃないか」


「冗談じゃなく似合うって。鏡見てみれば」


 朝比奈は鏡に思いっきり寄って、よくよくメガネチェックをしている。まんざらでもない様子だ。私も隣で見ていた。鏡に映る私と朝比奈。きっと周りの人間からは恋人同士に見えるんだろうな。

 でも実際はどうなのか? いまだ不明の曖昧な関係だ。ただの友達にしては仲が良すぎる。


「じゃあこれにする」

「決めるの早いわね。色とか他にも色々……」


「上条が選んでくれたから、これがいい。ちょっとは惚れなおした?」

「何バカ言ってんのよ! さっさと買ってきたら」



 私はレジに向かって、朝比奈を叩きだした。


「検眼とかあるから、少し時間かかるよ」

「そうなの? じゃあうろうろしてるわ」


「了解」


 眼鏡屋のショウウインドウのガラス越しに見る空は、とても澄み渡って綺麗だった。ふと思いついて手近なメガネを手にとって、かけてみる。

 度の入ってない眼鏡越しに見る空はやっぱり綺麗だったが、眼鏡のフレームが空を切り取って先ほどと違う空の様に見えた。

 朝比奈にはいつもこんな風に見えているのかな? 眼鏡をかけた事のない私の知らない世界だった。当たり前な事だけど、朝比奈と私は全然違う人間で同じものを見ても、違う物に見えるのかもしれない。

 でもずっと肩を並べて同じ目線でいたから、同じ様に見えているものだと思っていた。


 私の知らない朝比奈の世界が色々ある。それをもっと知りたいと思った。



「お待たせ」

「あれ? さっきの眼鏡? 新しいやつは?」


「レンズの加工とかあるから、後日受け取りにまた来るよ。これは昨日曲がった眼鏡。応急処置で直してもらったから、新しいの出来るまでくらいなら持つよ」

「そう。よかったわね」


 そうは言いながらちょっと残念だった。私の選んだ眼鏡をつけた朝比奈と今日一日過ごして見たかった。


「この後どうする? 予約って夜でしょう? まだだいぶ時間あるよね」

「そうね。お腹はすいてないし、今日はどこも混むわよね。祝日だしイブだし」


「映画とかチェックしてみる?」


 そう言いながら朝比奈はバックから取り出した携帯の画面をいじった。


「あれ? 携帯スマートフォンに変えたの? あんたの2台とも折りたたみじゃなかったっけ?」

「これ似てるけどスマートフォンじゃないよ。PDA。通話機能はないんだ」


「なんで携帯持ってるのにわざわざ別で持ってるの?」

「スマートフォン出る前から使ってたから。主にスケジュール管理とか、電子書籍読んだり、音楽ダウンロードして聞いたり、辞書とかはよく使うかな。日中や中日辞書ダウンロードしておけば別で電子辞書持ち歩かなくても、外で翻訳作業できるし」


「あんた家電音痴な割に、パソコンとかそういうハイテク危機だけはやたら強いわよね」

「必要に迫られればね。家電でも使う物もあるよ。炊飯器とか電気ポットとか必要だと思った事ないから興味ないだけで」



 朝比奈はPDAを見ながら、私に聞いた。


「上条どういう映画見たい?」

「ハリウッド超大作の派手なアクションとか」


「上条らしいね。でも残念だけどそういうの今やってないみたいだよ。最近邦画ブームだから、日本映画の方が多いな。ああ……、僕が興味あった小説が映画化してる」

「眠たいのは嫌よ。途中で寝るもん私」


「じゃあ映画は辞める?」

「そうね……どうしようか?」


 そう言いながらふと思いついた。さっき思った私の知らない朝比奈の世界が知りたいな。


「そのPDAに音楽ダウンロードしてるのよね? アンタ普段どんな曲聞くの?」


 固いクラシックか? 普通のJPOP? ビジュアル系とかロックだったら意外で面白いんだけどな。


「聞いてみる?」


 朝比奈に渡されたイヤホンから聞こえてきたのは、弦楽器の奏でる音楽だった。ちょっとノスタルジックで穏やかなヒーリングっぽい感じの……。


「これハープ?」

「うん。アイリッシュハープでアイルランド民謡だよ。あと二胡とかも好き。国を問わず弦楽器で民族音楽系が好きだな。あんまり激しいやつじゃなくて、穏やかな音楽が。寝る前とか昼寝中に聞いたりするよ」


 あまり音楽に詳しくないのでよくわからないが、癒し系の音が好きなのかな? 静かに読書するのが朝比奈に似合うような、腹黒な朝比奈に似合わないような。

 それでも6年ぐらいの付き合いでまったく知らなかった事だ。


 そう私は何も知らなかった。朝比奈の好きなもの、好きな事。いつも朝比奈は私の行きたい所を優先してくれてたし、食べ物だって私好みの味で作るばかりで、私は知ろうともしてなかった。朝比奈の好きなもの。

 遅すぎるかもしれないが、その事実に焦り始めていた。

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