表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落彼女  作者: 斉凛
第8章 柾木譲司編3
134/203

ファイナル アタック スタート

 紫の自宅近くの公園。彼女が家に帰る時、いつもこの前を通るのは知っていた。だからそこで待ち伏せた。俺が視界に入ったとたん、紫の表情がこわばったのがわかる。


「とうとう私の前に現れましたか。祖父や祖母の周りでうろちょろしてたから、そろそろだろうと思ってた。バカ犬ストーカー」


 この久しぶりに会った時もそうだったけど、彼女はもう俺の事は先輩とは呼んでくれない。

 距離を感じてたのは気のせいではなかったようだ。


「今日は田辺さんをクリスマスイブのデートに誘いに来たんだ」

「お断りです。その日は家族とすごします」


「その勝子さんからぜひよろしくって頼まれたんだけどな」

「祖母が何か言ったとしても、私はクリスマスイブに犬といちゃつく趣味はないですね。その日は毎年世のカップルと幸せ家族に不幸を! と呪って過ごす事にきめてるんです」


 紫らしい病んだ毒発言だ。しかし俺には彼女の寂しさからくる嫉妬にしか思えない。友達もいない。一緒に過ごしたい両親もいない。そして今年は祖父母もそろって過ごす事もできない。

 彼女は街が親しい人々があふれかえる様子を、どれほど憧れ見続けてきたのだろうか。



 最初から素直に紫が頷くなって思ってなかった。俺は話を変えて紫に揺さぶりをかける事にした。


「田辺さんは実名で本を出して、本当は何を企んでるの?」

「何のことですか?」


「連載の時はペンネームだったのに、書籍化で正体をあかしたり、葛城さんと親しげな対談を載せたり、これも君の計画だよね。連載もタイミングが良すぎた。君は狙ってたんじゃないか? 『北斗』に記事を載せるタイミングを」

「憶測で勝手な事を言わないでください」


「ただの推測だって言うなら、沢森さんや葛城さんに相談してみようか?」

「二人と連絡とってるんですか?」


「1回会っただけ。連絡先交換したからすぐに連絡は可能だけど」


 紫は歯ぎしりするような悔しげな眼で俺を睨んだ。いつもなら俺が紫の腹黒さに痛めつけられているのに、今日は立場が逆転している。脅してでも彼女との約束を勝ち取りたかった。


「葛城先生は田辺さんの腹黒さを、何にも知らないみたいだね。できれば綺麗なイメージを壊して傷つけたくないな」

「……要求は?」


「12月24日。俺と一緒に過ごそう」

「嫌です。24日だけは絶対に」


「どうしても?」

「どうしてもです」


 ここまでは予定通り。紫はやはり沢森や葛城に何か感づかれたくない事をしているのだ。それでも24日だけは認めないと必死に抵抗を続けている。ここは折れ時だ。


「じゃあ23日でいい。10代最後の日を俺にくれないか?」

「……どうして、それを?」


「好きな女の子の誕生日は初めにチェックするのが当たり前だ。もうずっと前から知ってた」


 そう12月24日は紫の誕生日だ。そして今年は20歳の誕生日。大人と子供の境界の、人生でたった一つの記念日だ。絶対に寂しい思いなどさせたくない。


「絶対楽しい誕生日の思い出にしよう。一生忘れないぐらい。今までで一番楽しい誕生日に」


 たぶん、紫の楽しい誕生日の記憶は両親がいた頃の誕生日だろう。

 それ以上の誕生日にできるか、正直自信はなかった。それでもできるだけの事はしたかった。


 幸せは過去にしかないんじゃない。これからだってあるんだってわかってほしい。


「つまらなかったら、これで最後でもいい。田辺さんの事あきらめるから」


 紫が素直に楽しいなんていうわけがない。俺を永遠に紫を失うだろう。それでもたった1日にかける。



「……わかりました。これが最後です」

「ありがとう」



 俺は達成感でいっぱいの気持ちだった。しかしこれはまだ始まりだ。最高の誕生日にできるかはこれからにかかってる。


「田辺さん行きたい所とか、したい事ある? 誕生日だからなんでも言って」

「クリスマスでバカ騒ぎする外なんて歩きたくないです。あの無駄にセンス良く生活感のない部屋がいいです」


 俺は思わず息を飲んだ。


「それって俺の家?」

「何か都合悪いですか?ああ、お父様がいるとか」


「いや……。たぶん、うちの親父はまた新しい彼女とデートでいないと思うけど。いいの?」

「かまいません」


 まさか紫から俺の家に来たいなんて言うとは思わなかった。


「誕生日楽しみにしてますから、準備頑張ってくださいね」


 悪魔的な微笑みで反撃をする紫。そうだ。自宅なら店みたいにお金を払えばどうにでもなるわけではない。

 むしろ一番難しく、ハードルが高いかもしれない。


「約束通り。楽しい誕生日になるように、用意して待ってるよ」


 残り時間はあと2週間。他の人間に手伝ってもらうわけにもいかないから、時間との勝負だ。

 紫が楽しんでもらえるような、手作り誕生日をしよう。

 決意を胸に俺は最後の挑戦を始めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ