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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第8章 柾木譲司編3
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好敵手(ライバル)の名は?

 10月、本格的な秋の始まり。M大学にまたひとつ事件が起こった。葛城優吾が特別授業をしにくるというのだ。1日だけなのに、売れっ子イケメン作家がやってくると大騒ぎだった。

 なんで寄りにも寄ってうちの大学に。やっぱり田辺さんと噂になってるから? 気にはなるが文学部の授業。経済学部の自分には縁がない。そう思っていたのだが。



「なぜ俺が葛城先生の案内役を? 文学部でもないのに」


 久しぶりに古谷教授に呼び出されたと思ったら、葛城優吾が来校した時の大学内の案内係を頼まれた。なぜ俺? 頼まれなくてもやりたい人間、文学部にいくらでもいるんじゃないか?


「内の学部はミーハーな人間から、熱烈な人間まで、葛城優吾ファンばかりですから。来客に失礼があるといけません。部外者に頼む方がいいかと思って」


 一応俺も結構葛城優吾ファンだった……。田辺さんとの関係を知ってから、偏見を抜きにして、純粋に作品を楽しめなくなってしまったが。


「俺に頼まない方がいいと思います。私情を挟まない自信ありません」

「だから君に頼むんですよ。メディアを通してでなく。自分の目で葛城優吾がどんな人間なのか、見ておきなさい。有名人だからといって、同じ人間なのですよ」



 同じ人間。そうかもしれない。俺は葛城という男がどんな人間か直接的に知らない。遠くの別世界の人間で、紫を違う世界に攫って行ってしまいそうなそんな気がしていた。

 どんな人物なのかこの目で確かめよう。



 そして特別授業の日。来客用駐車場に約束の時間通りに葛城はやってきた。車を降りた葛城は学生である僕に対しても、実に礼儀正しくふかぶかとお辞儀した。


「今日は一日よろしくお願いします。葛城優吾です」

「こちらこそよろしくお願いします。案内役の柾木譲司です」


 俺が下げた頭を上げても、まだ葛城は深いお辞儀のままだった。ただの案内役の俺が恐縮するぐらい。

 時間に几帳面な所といい、この礼儀正しさといい、売れっ子作家を鼻にかけてない態度は非常に素晴らしいと思う。

 ただ、身長がほとんど俺と変わらない高身長、しっかりとした体つき、そして貫禄がありすぎる強面なイケメンぶり。これで丁寧にお辞儀されると逆に怖い。なんかプレッシャーを感じる。しかし本人無自覚なんだろうな。


「まだ授業まで時間ありますが、どこか構内で行きたい所ありますか? それとも文学部の教授室で休まれますか?」

「部外者がうろうろしていいのでしょうか? 学生の皆さんの勉学の邪魔になりませんか?」


 確かに葛城がうろうろしていたら、絶対学生が大騒ぎする。しかもこの目立つ外見でお忍びというのも難しい。俺も目立つ人間だから余計に……。やっぱり古谷先生。案内役の人選ミスじゃないですか?


「ええと……。人が多くなく静かな所でひっそりとなら……大丈夫じゃないでしょうか?」


 葛城は立ち止まって彫像のように固まった。何か考えているようだ。あまりの深刻さに『考える人』の彫像を思い出した。ちょっと時間つぶしをどうするか気軽に聞いたつもりなんだが、いちいち反応が生真面目すぎる。


「それでは図書館などどうでしょうか? 大学の図書館にどのような本が揃っているか興味があります」


 確かに静かで、人が多くはないだろう。しかし文学好き、葛城ファンの密度が跳ねあがりそうなスポットだ。大丈夫か? しかし葛城の目は期待に輝いていた。少年の様に。なんかすっごく図書館行きたそうだな……。


「では図書館に。こちらです」


 確か図書館の職員専用の裏口があったはず。そこから事情話してこっそりいれてもらおう。

 図書館の職員さんのなかにも葛城ファンはいるわけで、プチサイン会状態になってしまった。しかし葛城は嫌な顔一つせず、丁寧に対応していた。

 その結果職員一同、熱烈な葛城ファンとなった。おかげでカウンターの影から図書館内を見たり、書庫の中まで入れてもらったりとかなりの高待遇。

 端末で所蔵リストを眺めている葛城は本当に真剣そうで、やっぱり作家も本好きなんだなと思った。

 一通り見学が済んだ頃、職員に質問をしていた。本についてかな? と思っていたらとんでもない発言が……。


「あの……。田辺先生もよくこちらにいらっしゃるのですか?」


 図書館内をそわそわ見ながら落ち着きがない。やっぱり紫に気があるんじゃないか……、と気になったのだが……。


「田辺先生が取り上げた作家の作品がすべてそろっているので、もしかしてこの図書館で執筆なさってたりしませんか? 特にこの作家のこの本とか絶版本とか、発行部数の少ない本まで」


 すっごい輝いた目で質問していた。というか、作家としては葛城の方がずっと売れててベテランで年上なのに先生づけ。しかもなんか恋する女性に関しての質問というより、ミーハーなファンみたいな。


「田辺さんですか……受付業務以外であまり話した事ないから……。柾木君の方が詳しいんじゃないか? 田辺さんと一緒によく図書館きてるよね」


 急に話を振られて戸惑った。葛城は強面顔のまま、俺に迫るように質問を繰り出す。


「田辺先生と仲好いいんですか?」


 葛城にこそ紫との関係を聞きたい。なぜ俺が質問されなきゃいけないのだろう……。ちょっと見栄を張って言ってみた。


「ま、まあ、友達なので」


 友達ぐらいで見栄を張って恥ずかしい。そう思うのだが、葛城は心底うらやましそうな顔をした。友達ぐらいでなんでこんなに羨ましがられるのだろう。


「葛城先生こそ、田辺さんと仲いいんじゃないんですか?」

「いいえ、とんでもない。田辺先生と直接お会いしたのも今まで2回だけですし、いつも一方的に私がファンレター送っている方で……。親しいなんておこがましい」


 ……ん? 聞き間違いか? なぜ葛城がファンレター送るんだろう?


「田辺さんにファンレター? もしかして私書箱住所に?」

「はい。『源氏』のペンネームで『北斗』に初投稿時からのファンなので。尊敬してます。私にとってあの方は神です」


 真面目な顔して神とか、本気かこの人。しかもなんか勝手に『源氏』の素晴らしさ語りだしてるし。

 紫を神聖視しすぎじゃないか? 紫が葛城の前で猫被ったままだとしても、ただの平凡な女の子だろう。とても葛城の語るような、雲の上の存在とは思えない。

 見事に紫に騙されてないか? この人。それともこの崇拝っぷりはこの人の天然か? なんだろう。恋のライバルのはずなのに、なぜかこの人の騙されっぷりが、いっそ可哀想になってきた。


 葛城優吾ってもっと大人で、しっかりとしたかっこいいイメージだったんだけど……。どこか抜けてて、むしろそばについててあげないといけないようなほっとけなさ。

 古谷先生の言う通り、作家もただの人間。有名人のフィルターのない素の姿にどこかほっとした。

紫を巡る恋のライバルな二人の男の直接対決なはずが……

肝心のヒロイン紫が腹黒、譲司はお人よし、葛城は天然で抜けた人

争いにもならず、むしろ同情? なんだかおかしな三角関係になってしまった

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