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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
12/203

恋人達のティータイム 序章

 窓際の席に座り、紫は窓の外をぼんやり見ていた。

 やっぱり何か紫の様子がおかしい。しかし俺はまた睨まれないように見守るしかなかった。


 お菓子はスコーンを予約してたが、後は真宮達2人に任せた。2人は甘党で、お菓子の話で盛り上がっていた。

 こっちはほうっておいて良さそうだな。


「田辺さんお茶どうする?」


 メニューを渡しながら声をかけた。目を開けていたのに、びっくりした顔でこちらを向いた。まるでこの場にいながら遠い世界に行っていたようだ。


「ストレートで2種、スコーン用にミルクティーで2種の4ポットにしようと思うんだけど」


 俺の言葉が届いているのかわからないが、紫はお茶のメニューにゆっくりと目を通していた。


 真宮達が店員を呼んでお菓子を頼んでいく。


「お飲み物はいかがいたしますか?」

「ダージリンとウバをストレートで。アッサムとルフナはミルクでお願いします」


 紫はわずかに愛想笑いを浮かべながらそう答え、また庭を向いて一人の世界に閉じこもってしまった。


「呪文みたいにスラスラとすごいね」

「真宮先輩。私紅茶あんまり飲んだことないし、よくわからないんですけど」


「僕もだよ。2人に任せておこうよ」


 とりあえず紅茶の事は棚にあげて、また真宮達はお菓子の話に戻った。


 紫はただバラを見ているのではなかった。他のテーブルのお菓子の甘い匂いに、カップがたてる音にいちいち反応している。

 店そのものが居心地の悪いような感じで、逃げるように庭ばかりを見ていた。


「この店気に入らない?」

「……雰囲気はいいと思います。味は食べてみないと……」


 うわごとのようにそうつぶやいた。かすかに緊張している気がした。

 ここに来る前に態度悪かったのって、もしかしてこの店が原因なのかな?

 しかし紅茶好きで店に来るのは乗り気だったはずなのに、なぜこんな顔をするのだろう。



 次々と運ばれてくるケーキと紅茶に、真宮達が歓声をあげた所で、やっと紫もこちらをむいた。

 俺は紫の分のダージリンを注いで渡した。紫はゆっくりとカップを持ち上げる。震えて危うげな手つきにハラハラする。顔の近くまできた所でピタリと止めた。


 その時の紫の表情をなんと表現したらいいのかわからない。ただ自分にも覚えのある感情だった。

 懐かしい昔の記憶、喜びも悲しみもごちゃ混ぜで、ただ懐かしいとしか言えなくなる。

 俺にとってこの店はそういう過去を思い出す場所で、だからこそここに紫を連れてきたかったのだ。


「お茶冷めちゃうよ」


 俺が勧めてやっとおそるおそる口をつけた。


「……美味しい……」


 その後紫は慌てたように、ミルクティーやスコーンなど次々に手を伸ばす。無表情を装ったまま黙々と口にしていた。



 お茶やお菓子がなくなってきた頃合いを見計らって、俺は立ち上がった。また外を眺めていた紫の後ろに立ち、彼女の腕をとって無理やり立ち上がらせた。


「ちょっと席外すから、2人でごゆっくり」


 驚く紫を引きずって、店の中を歩く。途中で我にかえった紫が手を振りほどこうともがく


「離してください。何なんですか」

「君らしくないね。いつもの猫かぶりはどこに忘れてきたんだ。2人ともすごい田辺さんに気を使ってたよ」


 紫は目を見開き、唇を強くかみしめた。少し冷静さを取り戻したのか、すみませんと呟いた。

 もう大丈夫かなと思って俺も手を離す。つかんだ所が赤くなっていて、申し訳ない気分になった。


「こっちこそ強引に連れだしてごめん」


 彼女は首を横に振った。


「ちょっと他の席でお茶飲みなおそう。特等席があるんだ」


 彼女は俺の後を大人しくついてきた。本当は今日あそこに行くつもりはなかったんだけどな。

 ほろ苦く切ない思い出が心の中を通り過ぎて行った。

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