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難攻不落彼女  作者: 斉凛
第1章 柾木譲司編
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ひまつぶし

「先輩どこいきます?」


 重い荷物から解放されて、真宮は浮かれたように弾んでいた。俺は盛大に溜め息をついた。


「お前今日何しに来たわけ? 俺と仲良く遊ぶんじゃなくて、美咲ちゃんと仲直りのためだろ」


 真宮はしまったとつぶやいた。どうやら本気で忘れていたらしい。


「おまえなぁ……」

「いいんです。美咲ちゃん最近ずっと暗い顔してたけど、今日はすごい楽しそうにしてたから」


 真宮は嬉しそうな寂しそうな複雑な笑顔をしていた。いつも単純明快なこいつには珍しい。

 俺は真宮の頭をポンと叩いて、笑った。


「じゃあこの時間を利用して、美咲ちゃんへのプレゼント買っておけ。後でこっそり渡せば、おまえの株もあがるぞ」

「えぇー! プ、プレゼントなんて、今までしたことないから……何あげたらいいのか……その前に突然渡されて、美咲ちゃん迷惑だったり……」


「気になる男にプレゼント渡されて、喜ばない女はいない」


 きっぱりと言い切った俺に、真宮はしがみついた。


「先輩! 何買ったらいいか教えてください」

「お前が選ぶ事に意味があるんだろう」


 真宮を振りほどこうとするが、必死にしがみつきながら、上目使いでお願いされてしまった。だから似合うからって男がそんな事するな!


「……高すぎるプレゼントは気を使うからダメ。美咲ちゃんも女の子なんだから、可愛い小物とかいいんじゃないか」


 渋々俺は答えた。


「行ってきます」


 一目散に手近な雑貨店に駆け込む真宮。女の子達ばかりの可愛らしい店に男一人でつっこむとは、なかなかチャレンジャーだ。

 思いっきり馴染んでいるんだが。


「先輩! これなんてどうですか?」


 真宮が選んだのはマスコットつき、携帯ストラップ。

 しかもキモカワイイ系を狙ったつもりがみごとに外れてて、グロキモイ感じだ。

 いっちゃった目と口から血を吐いたクマらしきキャラで、腹からリアルな内臓がはみだしている。メチャクチャ売れ残ってて、半額セールしているし。


 これはさすがにプレゼントされて困るだろう。しかも携帯ストラップだと、つけないと悪い気がするし、つけたら周りから趣味悪いと思われるし。


「……こっちのほうがいいと思うけど」


 手近にあった無難なクマのぬいぐるみを指差してみる。


「えぇー。普通すぎてつまらないですよ。こっちの方が可愛いし」


 そのグロキモイキャラを可愛いというセンスは異常だ。


 美咲ちゃんのために頑張ったが、結局あのグロキモイキャラのぬいぐるみで妥協した。

 まあ携帯ストラップよりはましだろう。押し入れの奥にでも突っ込んで放置すればいいんだから。

 夢見悪くなりそうな気持ち悪さだけど。


 プレゼントのラッピングしてもらう間、手近な店を見渡して気になる物を見つけた。


「真宮悪い。適当に時間潰して、先行ってて」


 真宮は笑顔で頷いて、そこで俺達は別れた。


 俺は携帯ショップで新機種を見ながら、ぼんやり思い出していた。

 紫の携帯を初めて見て、なんでそんな古い機種使ってるんだ? と聞いた時、僅かに紫は動揺していた。

 機種変更するお金がもったいないとか、いくらでもごまかせたはずなのに。


 それが何故だか気になった。


「何かお探しですか?」


 ショップのお姉さんが愛想よく話しかけてきた。営業スマイル以上の下心含みで。


「機種を買いたいわけじゃなくて、古い機種について調べたいんですけど……」


 売上に繋がりそうもない相談なのに、お姉さんはむしろやる気満々で乗り出してきた。


「おまかせください。どんな機種かわかりますか? 特徴とか」

「6~7年前に販売していたキッズ携帯なんですけど……」


 俺の奇妙な相談にやる気になったお姉さんは、すぐにパソコンで調べ始めた。

 しかし情報が少ない上に古過ぎる。お姉さんもまだ働いていないであろう頃の機種だ。なかなか見つからなかった。

 苦戦中のお姉さんの様子に気がついたのか、裏から上司らしき中年の男性がでてきた。


「6~7年前のキッズ携帯? ……ああこれじゃないかな?」


 さすがベテラン、すぐにパソコンを動かして画像を呼び出した。

 その写真は確かに紫が持っていたのと同じだった。


「これです。よくすぐにわかりましたね」

「当社が他社に先駆けて、初めて作ったキッズ携帯だったので覚えてただけです」


 俺はすぐに機種名やメーカーなどをメモにとった。帰ったら調べてみよう。


「さすがにこの機種の取扱い説明書とかもうないですよね」

「印刷物はありませんが、電子データのPDF版なら、当社ホームページからダウンロード可能ですよ」


 頼もしい言葉に拝みたくなった。

 男性はディスプレイの中の携帯を見つめながら、懐かしげに目を細める。


「ワンタッチのヘルプボタンがあって、押すとあらかじめ指定された保護者の携帯にヘルプメールが送られる機能がついてたんです」

「便利ですねぇ」


 素直に感心したが、男性は苦笑していた。


「それが実際はあまり役にたたなくて。親がメールに気づかなかったり、気づいても遠くにいて間に合わなかったり」


 なるほど、確かに連絡するだけなら、警察にでも繋がった方がいいかもしれない。


「最新機種ですと、警備会社と契約して、ワンタッチで最寄りの警備員が駆けつけるシステムになってます。機種変更されるならオススメですよ」


 世間話をしながらさりげなく営業トークに持っていく男性に、うまいなと感心してしまった。


「6年もたったら、キッズ携帯も卒業ですよ」

「親の立場にたったら、子供はいつまでも子供で心配のタネですよ」


 穏やかに話す男性の顔は、店員ではなく父親の顔になっていた。きっと子供の事を思い出しているのだろう。


 そういえば紫の親ってどんな人だろう。紫そっくりの腹黒だったらやだな。

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