序章
その森には太古の昔より魔女がいた。鬱蒼とした森。その森は美しい花々と豊富な果実、数多の動物その森に存在するすべてのものが人々を森へと誘惑していた。
その森は村の隣にあった。村では子供が二本の足で立つようになると必ず大人は言って聞かせた。
「いいかい。あの森には決して入ってはいけない。あの森には孤独に暮らす魔女様がいらっしゃる。さびしがっている魔女様は人が入ってくるとその魂を喰らってしまう。」
だから、どんな悪餓鬼も、村一番の勇敢者でも、森に立ち入ることは決してなかった。飢饉が起きようともだれも満ち満ちた森には決して立ち入らなかった。その森には魔女がいるからだ。
誰も入ったことのない森。なぜ、そこまで村人は必至で森に入ってはいけないという言いつけを守るのか。それには誰もが否定の仕様のない理由があるのだ。
風が森から村へと吹く日、風に連れられてはさみしそうな、悲しみに満ちた歌声が聞こえる。どんなにも楽しげな音階の曲ですら隠し切れない悲しみを感じるのだ。
そして人々は囁く。
「ああ、魔女様が嘆いていらっしゃる。おひとりで寂しいのだ。森に入ってはならぬぞ。魂を喰われてしまう」
昔、一人の少年がウサギに誘われて森に入ってしまった。小さな村だ。少年が消えたのに気づくのは早く、村のどこにもいないことを知るのもあまりに容易い。人々は絶望した。ああ、あの少年は森に入ったのか。
母親は半ば半狂乱で森に飛び込んだ。エプロンを着け、サンダルのまま駆け込んだ。
人々は悲嘆にくれた。あの二人はもう帰ってこないものだと誰もが疑わなかった。
三日後。少年は母親に抱かれ帰ってきた。無事に帰ってきた。母親も少年も魔女には会わなかったという。だから村人は口々に言った。
「次はない。少年を逃してしまった寂しい魔女様はたいそう悔しがっていらっしゃるだろう。次森に入ったものは、必ず魔女様の魔法にかかり、魂を喰われるのだ。気をつけろ」
森が、魔女が、そこに在るだけで人々は体を震わせた。
これからがんばります!!
最後まで書けるようがんばります