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第八話 『トキナ村にて』

本当にものの1分少しで村に到着した。


しかしそんなことに感動している暇など、僕にはなかった。


「父さん!母さん!」


村の入口に降り立った僕は、一目散に自宅へと駆け出そうとした。


「マスター、周囲に魔物の生体反応があります。およそ20。

それに、比較的強い生体反応が3つ存在します。」


フィリアが僕にそう報告する。


「20だって…?それと、強い反応が3つ…?」


そこまで広い村ではない。

せいぜい2時間も歩けば村全体を一周できる程度だ。


そんな村に、少なくとも僕らの周囲だけで20体以上もの魔物がいる。

両親の無事は…くそっ、考えたくもない。

今は無事でいることを願うしかない。


「問題ありません。どれも私にとって脅威ではありません。

十分にこの村をお守りできます。」


「そこまで言うなら、すぐに倒してきてくれ!」


僕が少しいらだった様子でそう放つ。


「そうしたいところですが、マスター。

私の最優先事項はあなたをお守りすることです。

マスターを置いて、それぞれの魔物を討伐することはできません。」


「僕は大丈夫だ!そんなことより村のみんなが…」


突如、目の前にズシンと音を立てて一匹の魔物が現れた。


どこから現れた!?

離れた位置から様子を伺っていたのか!?


「グオオオォォ!」


魔物が雄たけびをあげ、こちらに突っ込んでくる。


「やばい…、逃げ…」


「ですから、マスター。あなたを置いてはいけません。」


フィリアは魔物に一瞥もくれず、突っ込んでくる魔物に手の平を向け、「何か」を打ち出した。


魔物の眉間を「何か」が貫通した。

魔物はその瞬間に脱力し勢いのまま地面を滑り、僕の目の前で止まった。


「私の役目はマスターをお守りすること。

マスターの向かう先に脅威があれば、私が排除します。

どこへなりとお向かいください。」


「…し、しんでる…」


何事もなかったかのように会話を続けるフィリア。

僕はその光景にあっけにとられていたが、確かに彼女の言うとおりだ。


僕一人では何もできない。

彼女に守ってもらわないと、両親の無事すらわからぬままに死んでしまうだろう。

彼女の力は今この場で役に立つ。


「…わかった、フィリア。まずは僕の自宅に向かう。僕を守ってくれ。」


「仰せのままに、マスター。」


――――


自宅へ全速力で駆け出す。

道中の魔物はすべてフィリアが倒してくれた。


襲われそうな村人がいればそこへ躍り出て、魔物とフィリアを強制的にエンカウントさせ、倒させた。


少し時間はかかったが、自宅が見えてきた。


「マスター、先ほどお伝えした3つの強い反応が近づいています。あの家です。」


フィリアが指し示す方向には我が家。

まさか、両親はそんな魔物に襲われているのか…!?


「なんだって…。父さん、母さん!」


――――


自宅に近づくと、そこには土煙に紛れて戦う3つの「人間」の姿が。


土煙が晴れたとき、そこにいたのは剣を構えた父さんと杖を構えた母さん。

そして甲冑に身を包んだ男の姿だった。


「父さん!母さん!」


僕がそう声をかけると、両親は男から距離をとり叫んだ。


「ハル!!無事だったのか!

おい誰だお前!ハルから離れろ!!!」

「ハル!こっちへ来てはダメよ!!」


僕は父さんが誰に怒号を飛ばしているのか一瞬わからなかったが、すぐに横に立つフィリアに叫んでいるのだと気が付いた。


「父さん!僕は大丈夫!この人は味方だから!!」

「味方…?」


父さんは何のことか全くわかっていないようだったが、一旦息子の発言を信用したようだ。


「わかった!お姉さん!頼む!俺たちの息子を守ってくれ!!!」


フィリアはさも当然というようにうなずいた。


僕らは、両親が無事であることを確認し…


待て、父さんは何で片手で剣を構えているんだ?

「剣を構えるときは両手で」って口うるさく言っていたじゃないか。


目を凝らすと、しきりに母さんが父さんの左肩を治癒している。

は…?肩…?左腕は…?なんで父さんは左腕が無いんだ…?


僕はそこで思考が止まった。

気づいたころには甲冑の男に駆け出していた。


「お前がッ!お前がァァァ!!父さんの左腕をォォ!!」


「やめろ!ハル!」


父さんが僕を制止する声が聞こえた気がした。

僕の耳にはそんな声届いていなかった。


「あれが末裔の…」


甲冑の男からそう聞こえ、突進する僕に合わせて剣を振り下ろした瞬間。

僕の目の前が黒一色に染まる。


――――


キンッ、と金属と金属のぶつかり合う音が聞こえ、僕は何かにぶつかった。


「マスター、お怪我はありませんか?」


僕の目の前にはフィリアが片足で立ちふさがり、甲冑の男の剣を脚で受け止めていた。

よく見るとフィリアの足は裂け、金属の刀身がむき出しになっていた。


僕はあれを知っている。

『零式個体:内部構造及び魔導回路全域展開図 後編』で見た脚部の剣だ。


「む?なんだこいつは。」


男は不思議そうな顔をして距離をとる。

こちらを警戒しているようだ。


「脚から刀…?義足のようなものか…?

いや、義足にしては動きがなめらかすぎるし、何より精工すぎる。

何だあれは…。」


男は独り言をつぶやきながら、構えなおす。


「そこの坊ちゃん。君には申し訳ないけど、俺たちが求めているのは、君の首なんだよ。」


なんで僕…?

頭に疑問符が浮かびまくる僕を尻目に、フィリアが言葉を放った。


「今、『マスターの首』、と仰いましたか?」


「ん?ああ、そうさ。そこの「ハル君」の命をもらうのが、今回の俺の仕事でね。」


フィリアがこちらに振り向き、確認をとる。


「マスター、あの甲冑の男は排除して構いませんか?

あちらのご夫婦はマスターのご両親で、お間違いないでしょうか?

お守りする対象、ということでよろしいですか?」


僕はフィリアからの矢継ぎ早に繰り出される質問に、ひとつづつゆっくり回答した。


「あ、ああ。甲冑の男は敵だ。倒して構わない。

あの夫婦は僕の両親だから、守ってほしい。」


「仰せのままに、マスター。」


そう言ってフィリアは甲冑の男に向き直る。


――――


「お嬢ちゃんは思っているよりも強そうだ。少し、本気を出すよ。」


甲冑の男はそういうと、剣を地面に突き立て詠唱を始めた。


「名を失いし深淵よ、

理を拒みし異界よ。

我が血と我が声を以て、

境界を裂き、鎖を断て。

聞け、喰らえ、顕現せよ――」


「《深淵顕現・鎖断の儀(アビス・ブレイク)》」


詠唱が終わると、男の足元が黒い影で埋め尽くされていった。

その影からは様々な形をした魔物が4体出現した。


大きな翼を羽ばたかせる三つ目の蝙蝠のような魔物。

非常に頑丈そうな甲羅を持つ、角をはやした亀のような魔物。

鋭い牙と爪を持ち、全身から炎をまき散らす犬のような魔物。

異臭を放ち周囲の植物を一瞬で枯れさせた首のない馬のような魔物。


ここに来るまで出会った魔物とは比べ物にならない。

そんな禍々しさと凶悪さを感じさせる魔物たちが現れた。


「かかれ。」


男が命令すると、4体の魔物は一斉に僕らに向かって突進してきた。


「マスター、お時間は取らせませんので、少々こちらでお待ちください。」


「あ、あぁ…。」


いくらフィリアといえど、あんな人知を超えた化け物を4体も相手取るのは厳しいんじゃないのか…。

一抹の不安を覚えた僕の感情を読み取ったのか、フィリアが少しだけ振り返る。


「マスター、ご安心ください。」


ほんの少し、口角が上がった…?


――――


4体の魔物はほぼ同時に四方からフィリアに攻撃を仕掛ける。

こいつら、それぞれが考えなしに突っ込んできているように思ったが、連携がうまく取れている。

あの甲冑の男が支持を出しているのか…?


フィリアは無表情でその4体の魔物が襲い掛かる様を眺めていた。


「フィリア危な…!」


僕が声を出した瞬間と、フィリアが指を鳴らした瞬間と、決着がついた瞬間は、同時だった。


蝙蝠は全身が燃え盛り、亀は地面からいつの間にか生えていた土の槍に貫かれ、

犬は凍り付き、馬は切り刻まれていた。


「な、な、…。どういうことだ!!」


甲冑の男が狼狽える。


「今何をした!なぜ一瞬で魔物たちが…」


僕は目の前にした光景は初めて目撃し、目を丸くさせたが、これも「知っていた。」


『フィルタニア王家守護体系:戦闘用自律型魔導人形タクティカル・オートマタ ・零式 概論』に記されていたフィリアの強力な機能の一つ。


演算制御系――「疑似神経網エーテル・ナーヴ

五系統以上の独立した魔術回路により、単一機体による「攻撃・防御・自己修復・他者の回復」の同時、かつ無詠唱での展開。


つまり、複数系統の魔術の同時発動。しかも詠唱を破棄してのものだ。


母さんが魔術を使うとき、なにやらむにゃむにゃと詠唱を唱えて、一つの魔法を放つのは見たことがある。

しかしそれとは根本的に異なる魔術の発動方式。


初めて見たが、こんなにも圧倒的だとは…。


「次は、あなたですね。」


フィリアは感情の乗らない声で甲冑男に呼びかけた。


「な、なんだこいつ、やめ、やめろ…!」


甲冑男は足元の影から何体も強力そうな魔物を呼び出す。

あいつ、どんどん声が細くなってないか…?


男はその魔物たちを自らの盾とし、その場から逃げ出そう走り出した。


「マスター、私は起動したばかりです。

少し迎撃プログラムのチェックを行いたいのですが、よろしいでしょうか?」


フィリアがこちらに向き直り、そんなことを言った。


「チェック…?今そんなことしてる場合か…?」


フィリアはごく真面目腐った表情でこう言った。


「お時間は取らせませんので。」


僕は、彼女なら問題ないだろう。

僕と、僕の両親を、そして村の人たちを見殺しにしたりなんかはしないだろう。

いつの間にかそんな風に考えていた。


「…わかった、チェックしても構わないよ。」


「ありがとうございます。マスター。」


やりとりはほんの数秒だった。

その間にあの甲冑男はいつの間にかずいぶん離れ、今から走っても追いつけないような位置にいた。

逃げ足早すぎるだろ。


フィリアは両腕合わせて遠く離れた甲冑男へと向け、せまり来る大量の魔物たちもろとも、圧倒的な力を持つ光で「打ち抜いた」

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