第七話 『フィリア』
…は?
周囲をよく見ると、先ほどの魔物が部屋の入り口付近で「半身を失って」死んでいた。
状況の理解が追いつかない。
どういうことだ?
マスター?脅威の排除?治癒魔術…何だって?
「どういうこと…だ?」
僕はその女性に再度尋ねる。
「マスター。状況を今一度整理してお話いたします。
私の起動プログラムが正常に終了した時、マスターのバイタルが逼迫している状況でした。
私は即座に治癒魔術プログラムと迎撃プログラムを実行し、マスターの治療と脅威の排除を行いました。
その後、マスターは一時的に失血性ショックで気を失いました。
その間5分ほどでしたが私はマスターの警備を行いながら、戦闘用外装の着用とチェック、そしてメンテナンスを行っておりました。
マスターのバイタル、私の外装共に問題はありません。
ご理解いただけましたでしょうか?」
…?
僕は彼女の言葉をゆっくりと反芻する。
そして、一つの結論を彼女に確認する。
「つまり、君は僕を助けてくれたってこと…?」
彼女は表情ひとつ変えずに答える。
「はい、マスター。」
――――
「そうか…。ありがとう。」
「礼など必要ありません。私の行動原理は、マスター、あなたをお守りすることです。」
「なぜ、僕を守ってくれたの…?」
「それが、私に与えられた使命であり、行動プログラムだからです。」
「言っている意味がわからない…。
ところで、君、名前は?」
少女は一瞬、固まったように見えた。
回答に困っているのだろうか?
「私は……。」
「私は『戦闘用自立型魔導人形:零式』。
完成時に与えられた固有名は『フィリア』です。」
「戦闘用…自律型…魔導人形…」
僕はあまりの驚きに、それ以上の言葉を失った。
殺戮人形だと考えていたものが、その構造の美しさに魅入られた『現物』が、今こうして僕の目の前で立って動いて、話しているのだ。
なんで動いているのかはわからない。
なんで僕を守ってくれたのか、なんで僕を治療してくれたのかもわからない。
なんで僕を「マスター」と呼ぶのかもわからない。
王族なんて身分じゃないぞ、僕は。
ただの薬師の息子だ。
そして、名前はフィリア……。
そういえばフィリアの花、採取していたな…。
薬草としての効果は、血行促進。根には麻薬成分が含まれているから注意が必要。
そして花言葉は…。
『不変の忠誠』
――――
ズゥゥゥン……
遠くから地響きと爆発音のようなものが聞こえ、ハッとした。
「フィリア!詳しい説明と話はあとでゆっくり聞かせてもらう!
僕を助けてくれるって言うのなら、村のみんなも助けてくれ!頼む!」
「仰せのままに、マスター。」
僕らは研究室の外へ弾き出されるように飛び出た。
空は黒煙に覆われ、太陽の光を遮り少し暗くなっている。
「ここからだと村まで全速力で走っても1時間かかるな…。
父さん、母さん…。無事でいてくれよ…。」
ふと、横で村を眺めるフィリアがこんな提案をする。
「マスター、あの距離であれば、私がマスターを抱えて移動すれば1,2分程度で到着いたします。
少々激しい移動方法となりますが、マスターに怪我はさせません。」
「…は?」
「許可を。」
何言ってんだこいつ。
どんな方法で移動しようってんだよ。
しかし、今は四の五の言ってられない。
「わかった!頼んだ!」
「承知いたしました。マスター。」
そう言うと、フィリアは片手で僕の背中を、もう片方の手で僕の脚に手を回した。
お姫様抱っこである。
「へ??」
なんとも情けない声が出た。
しかしフィリアは全く気にする様子がない。
フィリアはその場で深くしゃがみ込み、空高く飛び上がった。
「いぃぃぃいい!?」
怖い怖い怖い怖い!
何何何何!?!
高い高い高い高い!!!
一瞬で地面が遠く離れ、遅れて浮遊感がやってくる。
「ヒィッ!!死ぬ!死ぬ!落ちたら死ぬ!!」
「マスター、死ぬことはありません。あと落ちません。
私に任せて、しっかり捕まっておいてください。」
言われなくともそうしますよ!
…え?落ちない?
僕がフィリアの胸元から視線を地面へと移すと、本来近づいてくるはずの地面が一向に近づいてこない。
空を飛んでいる。
「…フィリアって、空飛べるの?」
全く感情の読み取れない瞳をこちらに向け、一言。
「はい、マスター。」
なんだこの人形、デタラメじゃないか。




