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第二話 『本』

扉の奥には、大量の本が並べられていた。

父さんの書庫なんて比較にならない。



「ここは一体…?」



あたりを見渡しながら部屋へと足を踏み入れる。

大量の本棚と、すべての壁に、本、本、本。


何が記されているのか、誰がこんなにもたくさんの本を書いたのか、そもそもここは何のための場所なのか。


そんなことを考えながら歩みを進める。


そして部屋の中央までたどり着く。


部屋の中央には巨大なテーブルが置かれていた。

石造りの非常に頑丈なテーブルだった。


そもそもこの部屋の天井や床自体がこのテーブルと同じ材質の石で作られており、

まるで何かを守るような構造をしているようにも思えた。


そのテーブルの上には、ほこりを被った一冊の本が。


恐る恐る中を開くとそこにはこう記されていた。




『フィルタニア王家守護体系:戦闘用自律型魔導人形タクティカル・オートマタ ・零式 概論』




――――




「フィルタニア王家…?魔導人形オートマタ…?」



そういえば昔、村のおじいちゃんが話していたことがある。

フィルタニアとは、200年ほど昔に滅亡した王国だと。


厳密には滅亡していないが、今僕らが住んでいるトキナ村が属する国、

「ラミリアント王国」がかつて「ラミア王国」だった頃、戦争で負けて統合された国だ。


この村はラミリアントでも端のほうに位置しているということなので、

正直あまり関係のないことだと思っていたし、当時は話半分でしか聞いていなかった。


そんな大昔の国の本が、なぜここに…?


そんな疑問を抱きながら先を読み進める。




――――




【緒言】


本稿は、フィルタニア魔導研究所がラミア王国の軍事的脅威に対抗すべく、国家存亡を賭して開発した「戦闘用自律型魔導人形タクティカル・オートマタ・零式」の根幹理論をまとめたものである。


既存の魔導人形が抱える「低出力・短時間稼働」という致命的欠陥を排し、単騎での一個大隊殲滅を可能とする理論的根拠を以下に詳述する。




――――




「なんだよこれ…。人殺しの道具か…?」



僕はその「戦闘用」という文言から、この本から発せられる殺意の片鱗に触れた気がした。


「というか、魔導人形オートマタ?なんだそりゃ。

人形って、あの母さんが昔作ってくれた布に綿を詰めて作るような、あれか?

そんなものが戦闘用…って。それに、ラミア王国…?」


僕は、何かとんでもない知識に触れてしまっているのではないかという感覚があった。


しかし、僕の知的好奇心がその手を止めることを許さなかった。




ページをめくると、魔導人形の基礎概念が記されていた。




――――




【第一章:戦闘用自律型魔導人形の基礎概念】


エネルギー供給系――「魔導心核マギ・コア


従来機における外部魔力供給への依存を断絶するため、大気中の魔力を直接変換する「自律循環型魔導炉」、通称「魔導心核マギ・コア」を心臓部に配置する。


大気循環理論: 周囲の魔素密度に比例して出力が自己増幅する特性を持つ。


戦闘持続性: 理論上、炉の物理的破壊、あるいは主の生命活動の停止がない限り、永久的な戦闘機動を保証する。




外皮装甲系――「魔導流体皮膚マギ・エナメル・テクスチャ


本機の外殻は、人体の質感に限りなく近い生体偽装を施しながらも、その実態は高密度に圧縮された魔導合金の粒子を魔力流体で結合させた「動的な防壁」である。


対魔干渉性能: 装甲表面に常時展開される微細な魔力膜が、外部からの攻撃魔術を接触瞬間に分解・吸収し、自機のエネルギーへと再変換する。


物理耐性: 疑似筋肉の柔軟性と、魔導銀の硬度を兼ね備え、通常の剣撃や投射兵器では傷一つつけることは不可能である。




演算制御系――「疑似神経網エーテル・ナーヴ


人体の神経構造を魔導銀の極細線によって模倣し、機体全域に網羅させる。


演算速度: 思考と術式発動のラグを、現代魔術理論における最小単位(1μs)以下に短縮。


並列処理: 三系統以上の独立した魔術回路により、単一機体による「攻撃・防御・自己修復」の同時、かつ無詠唱での展開を実現した。




精神同調系――「マスター・シンクロ」


本機は高度な自律性ゆえに、論理的矛盾に直面した際の暴走リスクを内包する。


これを抑制するため、フィルタニア王家特有の血中遺伝情報マナ・コードを認識キーとした「魂の同期」を起動の絶対条件とする。


精神指向性: 効率的な戦闘機動を最優先とするため、感情リミッターを設計段階で極限まで引き下げてある。


これは、主の命令に対する一切の逡巡を排除し、冷徹かつ完璧な戦術遂行を可能とするための措置である。




――――




「はは、なんだよこれ…。化け物じみた代物じゃないか…。


本当にこんなものが存在してのなら、なんでフィルタニアは戦争に負けたんだ…?」


「つまり、魔導人形は、

『寿命が実質存在せず』

『壊すこともほぼ不可能』で、

『無詠唱で魔術連発が可能』で、

『王族にしか使えない』ってこと?」



ずいぶんと残酷な人形だな。

こんなものが研究されて、本当に存在したのだとしたらと考えると、反吐が出る。


そんなことを考えながら、本を閉じる。


「ってことは、ここにある本ってまさか全部…?」


僕は別の本棚へ歩み寄り、何冊か本を手に取り、開く。



内部骨格エンドスケルトンへの魔導銀蒸着工程とその強度試験』

高密度疑似筋肉シンセティック・マッスルの繊維積層パターン:瞬発力と柔軟性の両立』

『対多人数戦闘における魔術展開の最適化:第126回模擬戦記録』



何が何だか訳が分からない。


父さんの薬草学の本とは全然違う。でも確実に魔導人形とやらを研究した資料だった。

まるで別世界の学問みたいだ。こんなものが、200年も前に…?


どれも内容は理解できなかったが、一つ確実に言えることはあった。



「この人形はあまりにも危険すぎる」



こんなもの本当に存在したのなら、大量の人間が死んだことだろう。

何十、何百という命が、一瞬にして。


ラミア王国もこの人形に対抗するために、とんでもない人殺しの道具を作ったかもしれない。



薬師という人の命を助ける仕事の一端を担うものとして、僕はこんな人形は認められない。

ラミア王国がこの人形と戦うために作り出したであろう技術や兵器も、最悪だ。

戦争なんて、ただの命の無駄遣いだ。




「…。」




それでも僕はこの人形の『研究資料』には強い興味をそそられた。


人形が人の体の構造を模倣するために、人体に関して詳細に研究された資料もあったし、父さんの書庫とは違う、「新しい知識」がそこにたくさん並べられていたから。


それぞれの資料の内容はほとんど理解ができないような、専門的すぎて複雑な研究資料ばかりだったが、単純化された図や、絵で注釈が加えられたものに関しては、ほんの少しだが伝えたい内容が理解できた。


これも父さんや母さんの教育の賜物だろう。

ま、それでもほんの1割も理解できてないんだけどね。


そんなことを考えていたら、僕は並べられていた資料の中でもひときわ大きなサイズのものに目が奪われた。


それは一抱えもあるような大きさの資料、というより図面集だった。




その資料には、こう記されていた。






『零式個体:内部構造及び魔導回路全域展開図 前編』

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