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亡国王子とオートマタ  作者: あおいみなみ
第二章 首都ラミアへ
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第十五話 『付与魔術』

すみません投稿日乱れちゃってますね;;

4月までには戻しますので、お待ちください。

 山道を超えてから、道の様子がずいぶんと様変わりした。街道は整備され、馬車の揺れもだいぶマシになったように思う。とは言っても、この辺りは一面畑の風景が続く開けた地域。整備されているといっても、土が多少踏み固められている程度のものなので馬車の乗り心地が劇的に快適になったわけではない。


 このあたりはラミリアント王国モーゼン領と呼ばれる場所らしい。

 麦やブドウなどの作物と、酒の醸造が盛んな地域らしい。僕はまだあんまり酒の良さがわからないけど、時間があれば一度くらいは飲んでみたいな。


 ちなみに僕が住んでいたトキナ村は、ウィズリー領という領地に分類されるらしい。初めて知った…。

 領主もフィルタニア派閥の人間ということで、村の存在が必要以上に外部に漏れないように秘匿されていたそうだ。


「本日はここを野営地とする!」


 エルナの号令で野営の準備が始まる。

 相変わらず僕にできることはない。悲しい。


 テキパキと野営や食事の準備を進めるエルナや護衛の人たち、そして僕の寝床を準備するフィリアを横目に、僕は身体強化魔術の訓練を行う。

 訓練といっても、体内の魔力を巡らせて術式に流し込み、野営地周辺を走り回るだけなのだが。


 常に術式を使用していることが大切、というのはフィリアの言葉だ。

 意識的に術式を使用するとこよりも、無意識的に術式を使用する方が咄嗟の状況での生存率が違う。これは馬車内でも行っているが、やはり実際に体を動かさないことにはなかなか上達ができない。


 走るスピードを早めたり、逆に急に速度を落としてみたり。

 速度の緩急をつけることでその出力や制御の方法を学んでいく。


 フィリア曰く、身体強化魔術自体の消費魔力はかなり少ないらしく、これの出力の限界を上げることで素手で岩を砕くことも可能になるのだそうだ。

 今はまだ全然そんなことできる気がしない。緩急の振れ幅は広がってきた方だと思うが、未だエルナの足元にも及ばない気がする。


 というか、エルナ使うシュタイン流剣術。

 あれは身体強化魔術を使用している。厳密には僕が使用するものとは異なるが、身体の強化と得物の強化を同時に行ってあの神速の動きを作っている。

 フィリアは「我らフィルタニアと同盟国であったシュタイン公国が技術交流を行った結果生まれた剣術だ」と説明していたが、おそらくそういうことなのだろう。


 ということはもう一つの同盟国であるディルミナ王国にもそんな独自の技術があるのだろうか。



 ――――



「…っていうのを質問なんだけど、何か知ってる?」


 先ほど抱いた旧ディルミナ王国に関する質問を食事の際にエルナに投げかけてみた。


「ございます。『カイ式戦闘術』と呼ばれるものです。」


 おお、あるんだ。

 どんな戦闘術なんだろうか…。


「それはどんな闘い方をする技術なの?」


「魔術を併用した戦闘術です。

 極めて短く短縮された詠唱を行い、さまざまな部位や場所に魔術をセットし、「カイ」の詠唱とともにその魔術を発動させる…というものです。

 複雑に入り組んだ地形や、多対一の状況を得意とする戦闘術ですね。」


 へぇ…。なんかめちゃめちゃ頭を使いそうな戦闘術だな…。


「エルナが知ってるっていうことは、今でもその戦闘術を使用するディルミナ王家の人がいるんだ?」


 エルナは少し嫌そうな(?)表情を見せた。

 嫌いな人なんだろうか。


「…います。旧ディルミナ王家の末裔で、ディルミナ家第16代目当主、『レオン・レイナード・ディルミナ』です。」


「レオン・レイナード・ディルミナ…。エルナは何でそんな表情しながら喋るのさ。味方なんだろ?」


「ええ、私の幼馴染でもあり、旧フィルタニア派閥の人間で信頼できる人物ではあるのですが、少々性格に難があるといいますか…。ちょっと気難しい方なんです。」


 幼馴染ってことはエルナとそんなに歳がそんなに変わらないのか。


「いずれハル様も首都でお会いすることになります。

 小さいうちからディルミナ家の当主として生きてきておりますので、『王』や『リーダー』というものに一家言を持っている方です。

 初めはハル様を見定めるような態度を取ってしまうかもしれませんが、ご容赦願います。」


 なるほど…。

 気難しいっていうのはそういうことか。


「大丈夫だよ。僕もそれなりの覚悟を持って首都に向かっているから。そのレオンさんにも認められるように頑張るさ。」


「期待しております。

 それと、レオンは少々武人的な側面があるので、もしかすると手合わせを挑まれてしまう可能性もあります。もちろん、怪我のない範囲でですが。」


 う。手合わせか…。まだまだ実践的な戦闘なんてこなしてないから、どうなることやら…。それでレオンに勝てなければ協力してもらえないなんてことあるんだろうか…。


「今のうちに鍛えとかなきゃね…。」


「…彼はかなり強いですよ」

 エルナはそういって苦笑した。



 ――――


 首都まで残りおよそ1週間半。

 何事もなく無事到着すればいいが…。


 とは言いつつも、道中の襲撃がありそうなポイントはエルナから教わっている。


 ・現在地点から二日ほど行ったところにある山林付近

 ・そこからさらに街道沿いに一日ほど進んだところにある川


 特に山林は隠れる場所が多いため襲撃の可能性が高いだろうということだ。

 僕らが通る街道は山林地帯を大きく迂回する形になるのだが、ちょうど山から見下ろせる位置に街道が存在するため居場所が丸見えになるんだそうだ。

 襲撃があるとすれば、おそらくは遠距離武器や魔術による攻撃だろう…と。


 僕らが乗る馬車も一応多少の装甲が施されているが、さすがに魔術を何発も耐えられるほどの頑丈さは持ち合わせていない。さらに僕らの一行は遠距離攻撃に対する抵抗手段に乏しい。そこでフィリアの出番だ。


 エルナも最初は渋っていたが、背に腹は変えられないと遠距離攻撃に対するレジストやカウンターにフィリアの協力を願い出た。

「マスターをお守りするのが私の役目ですので。」と快く(?)引き受けていた。


 一方、川の方も同じく遠距離の襲撃がメインになるだろうという話だが、山林の襲撃の結果次第では襲ってこない確率も高いらしい。


 そこまでの戦力を、実際の政治戦略的価値が不安定な僕一人に注ぎ続けるのもリスクとリターンで考えた時に割に合わないんだそうだ。

 不安の種は潰しておきたいが、潰すことに力を注ぎすぎて兵をいたずらに失うのは痛いもんな。


「そういえば、付与魔術の方はどうですか?」


 珍しくフィリアの方から話しかけてきた。


「一応訓練自体は続けているけど、実際に強化ができているかはわからないな。僕の剣(レガリス・ソラリス)の切れ味が元々良いのもあるから、どの程度強化されているかの実感があんまり掴めないんだ。」


「でしたら、もし次の襲撃があった際には私に強化の付与をしてみてください。実戦でどの程度使えるかの確認になるでしょう。」


「フィリアにも身体強化魔術って効くんだ?」


「当然です。フィルタニアの魔導技術で生み出されたこの私は、フィルタニア王家の術式に適応するように作られておりますので。」


 そういえば、研究所から持ってきた資料にもそんなことが書いてあったような…。

 出発してすぐの頃は読んでいたんだけど、最近は魔術と剣術の訓練ばかりで読んでいないしな。

 確か、それぞれの機能に対応する付与術式があるんだったな。あとでフィリアに聞いておさらいしておこう。


「わかった。試してみよう。といっても、そんなに期待はしないで欲しい。大した付与はつけられないかもしれないよ。」


「さて、それはどうでしょうか…。」

 フィリアが意味深な発言をし、会話は終了した。


 ――――


 二日後、襲撃が予測されるポイントにやってきた。

 500m程度の山に沿って大きくカーブを描く街道だ。

 エルナによれば、この山に敵勢力が潜伏している可能性が高いという。


「ここからは敵の襲撃が予想される。皆注意して進むように。」


 一行の警戒度が上がる。僕も今回は油断しない。

 敵の襲撃があれば、フィリアに全力で身体強化魔術の付与を行うつもりだ。


「敵の反応があります。数は20。魔術師や狙撃手が多いですね。近接戦闘要員は6名ですが、いずれもボウガン所持し遠距離攻撃が可能な位置にまばらに潜伏しています。距離は約200m。」


 フィリアの報告を受けて全員が剣柄に手をかける。


 次の瞬間、8つほどの火の玉がこちらにゆっくりと飛来する。

 火系統魔術の基礎魔術『火炎球ファイヤー・ボール』だ。


「敵襲!」

 エルナの号令が飛ぶ。

 皆が剣を抜き放つ。


「レジストします。マスター、付与を。」

「わかった。」


 僕は全力でフィリアの各機能へ順番に身体強化の付与を施す。

 フィリアの魔力制御・演算機能『疑似神経網エーテル・ナーヴ』と、身体機能にバフをかける。単純な魔力のブーストと、その制御機能限界値の向上。そして身体強化だ。


 付与を施したフィリアの体が一瞬淡く発光する。


「これは…思った以上ですね。」

 フィリアが自分の体を観察するが、すぐに飛来する火球へと向き直り手をかざす。

 火系統魔術をレジストするなら水系統魔術だ。彼女の魔術演算が発動する。


「!?」


 まるで氾濫した川のような量の水流が発射された。

 …今のって、水系統の基礎魔術『水流ウォーター・スプラッシュ』を使おうとしたんだよね…?


 フィリアの放った魔術は火球を掻き消すだけでなく、山肌へと直撃し大量の泥水を撒き上げた。


「やはり、思った以上の相性です。10%程度の出力で魔術演算を行ったつもりでしたが、私の機体にこれほど適合するとは計算外です。お見事です、マスター。」


「あ、ああ…。」


 驚きで言葉も出ない。

 まさか僕の付与でこんなに出力が跳ね上がるなんて思ってもみなかった。

 これ、もしフィリアが本気だったらこっちまで洪水に巻き込まれるところだったよね?


 エルナも護衛のみんなも剣を構えながら目を丸くしている。

 僕だってびっくりだよ。こんな出力になるなんて思ってなかった。


「これなら魔術演算を使用するまでもありませんね。ちょっと()()()()()()。」


「…行ってきますって、どこへ…?」


 何言ってるんだ?フィリアは。


「お時間は取らせませんので。」


 そう言い残すとフィリアはその場で飛び上がり、目にも止まらぬ速さで山へと飛行した。


 山からは男たちの慌てふためく声と、何度かの爆発音が聞こえた。

 時間にして15秒といったところだろうか。

 山から一つの黒い影が飛来し、僕の隣に着陸する。


「片付けてまいりました。さぁ、行きましょうか。」

「片付けたって、敵を?全部?」

「はい。マスターの付与魔術が想定していたよりも私と相性が良く、つい楽しくなってしまいまして。」


 フィリアは服についた砂埃を手で払いながら言った。


 …。いや、あの山、山脈レベルではないにしても結構大きいよ?

 あの山に潜伏していた敵兵をものの15秒で、しかも白兵戦で全員倒したって言うのか…。


「そ、そうか…。エルナ、そういうことだから、行こうか…?」


「はい…。全員、せ、戦闘終了!」


 フィリアが馬車に戻る後姿、どこかいつもより嬉しそうに見えるな。

 いや、全然いつもと同じなんだけどさ。



 ――――



「ここまで一方的に決着がついたとなれば、以降の敵襲はないでしょう。様子を見に来るであろう敵兵も、現場の状況を見ればこちらに強力な護衛がいることは容易に推察できるはずですから。」


 エルナは以降の襲撃はないと予想する。

 警戒自体は解かないが、ある程度は安心してもいいらしい。

 まあ、そうだよな。一度目の白兵戦は単純に実力差でダメ。二度目の遠距離攻撃もダメ。なんなら潜伏していたはずの山の中で魔術師や兵士がゴロゴロ死んでるんだ。近づかないようにするのが普通だ。


「しかし、まさか地の利がある遠距離部隊に白兵戦を仕掛けに行くとは…。どういう発想でそうなるんですか、フィリア殿は…。」


 エルナが呆れている。

 いやわかるよ。僕もそう思うし。


「マスターの付与魔術の結果は予想を上回っていました。しかし、あのレベルの付与は私以外にはできないでしょう。フィルタニア王家の術式と私の機体の相性あってのものですので。

 エルナ様に付与したとすれば、おそらくその1/3程度の強化に収まると予想できます。もちろん、それもマスターの訓練次第でその限界値を向上させることは可能ですが…。

 基本的に、私への付与を身体強化魔術付与の基準としては考えないようにお願いいたします。」


 矢継ぎ早に説明を受ける。

 なるほど…。以前言っていた「適応するように作られている」ってのはこういうことなのか。本人も予想外だった部分はあるみたいだけど。


「エルナ、フィリアとの訓練の時にでも試させてみて欲しい。ちゃんとした状態の付与も知っておきたいからさ。」


 エルナは少し迷った表情を見せるが、すぐに微笑んで答えた。


「承知しました。またお願いいたします。」



 ――――



 その日の野営で実際にエルナに付与魔術を試してみることにした。


 結果は上々。

 フィリアとの訓練もかなり良い内容に見えた。

 最終的にはエルナが組み伏せられていたが、単純な身体能力の向上はもちろん、いつもよりもフィリアのカウンターに対する反応速度や、隙を突くスピードが向上していたように見える。


 特に身体の強化に関してはすごかった。

 戦いの余波で地面や周囲の岩が綺麗に切断されている。

 元々の身体能力が高いと、その分強化される伸び代も大きいみたいだ。


「…これは、ダメですね…。」

 一方でエルナ自身は納得がいっていない様子でそう呟いた。


「ん?どこか悪い部分でもあったかな?動きにくかったとか?」


 エルナは自分の言葉を慌てて訂正する。


「…いえ!そういう意味で言ったのではありません!素晴らしい魔術でした。自分の体が軽くなり、周囲の情報がよく認識できます。フィリア殿のカウンターも落ち着いて対処することが可能でした。…負けましたが。」


「しかし、この魔術は()()()()ます。これを毎回の戦闘で使用してしまえば、自分の能力を誤認してしまいかねません。この魔術を過信しすぎた結果、分不相応な敵とやり合った時に負けてしまうことだってあり得ます。」


「ハル様、この魔術は、私には極力使用しないでいただけませんか?自分の実力は自分で向上させたいのです。」


 ふむ…。


 他人の強化ができるのであれば、強い人を強化して戦闘を有利に進めるべきかと思ったが、そういった視点の問題点もあるか…。

 エルナはエルナで考えがあって言っているし、僕の付与魔術に頼りたくない気持ちもなんとなくわかる。

 学問や研究なんかも、答えを教えてもらってちゃつまらないもんね。自分で考えて、自分で知識を身につけて、自分で成果をあげるから意味があるんだ。


「わかったよ。基本的にこの魔術は使用しないことにする。フィリアに付与しても出力がとんでもないことになるから、そんなにポンポン使えないしね…。」


「ありがとうございます…!付与魔術に頼らなくてもハル様をお守りできるように修行を続けてまいりますので、ご安心ください。」


「うん、これからもよろしくね。」


 そういえば、こんな感じでエルナとちゃんと「守る」「守られる」なんて話したことなかったな。なんか嬉しいな。


「…私には付与していただいても構いませんよ。もう制御の仕方は覚えましたので。」


 フィリアが横から口を挟んできた。

 制御覚えたって…。


「フィリアはそもそも付与がなくても規格外なんだから、必要ないだろう。」


 僕はそのフィリアの割り込みがなんだか面白くて、少し笑ってしまった。

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